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アルツの文字の学習に費やした二日間は、アルツにとっても地獄だったと思うが、教える俺の方もかなりきつかった。だが、まあ基本的な文章は読めるようになったのでこれで問題はないと思う。
「ハルト! 依頼受けてもいいんだよな!?」
「ああ、いいぞ。とりえあずギルドに行くか」
「ようやく討伐依頼ができる!!」
流石に二日間缶詰で文字を教えるのはきつかったか。まあ、流石に鍛錬は許したが、外に出て魔物の討伐なんかは認めなかったしな。多少……どころじゃなくて滅茶苦茶うっぷんが溜まっただろう。だが待て。
「別に討伐依頼を受けるとは限らないぞ?」
「嫌だ! 討伐以外はやらないからな!!」
体全体でノー、と叫んでいる。もし討伐依頼以外を選んだらマジで殺し合いに発展しそうだ。ていうか、若干殺気が漏れてるんだが。
「わかったわかった。今日は討伐依頼はお前が選んでいいぞ。文字も読めるようになったし、ちょうどいいだろ」
「え!? 本当か!」
「ああ。本当だ。あと、お前声の大きさ戻ってるぞ」
流石に周りの視線がこちらに来ている。アルツがうるさいせいだと思うが。今はちょっと興奮気味だからうるさいが、流石に戻るよな……?
「じゃあ、俺は先に言って依頼をとってくるぜ!!」
「あ、おい」
「先行ってるぞー!!」
ハルトがダッシュでギルドに向かっていった。
「……まあ、いいか」
諦めるしかない。ああいう手合いは思い立ったら一直線、やろうと決めたら最後までやりきる、感情に素直、真っ直ぐだ。近くに似たタイプがいたからよくわかる。
ギルドの依頼を掲載する掲示板の前、その場に一人の少女と、その少女に言いがかりをつけている数人の少年がいる。
「また採取依頼受けんのか?」
「たまには討伐依頼でも受けてみたらどうなんだよ」
「…………」
彼らはどうやら少女の依頼の受ける内容に文句があるようだ。少女の持っている依頼用紙は採取系の依頼だ。
少年たちが少女に突っかかる理由は、少女の受けている依頼が毎回採取依頼であること、そして少女の採取依頼の用紙を見ればわかるが、少女のギルドランクは橙であるだろうことが推測できる。
「俺たちは命かけて討伐依頼やってるのに、お前は採取依頼ばっかりだ」
「みんなを守って街に貢献している俺たちとは違って大した事やってないのを悪いと思わないのか」
「俺たちも一生懸命討伐やってようやく橙になったのになんで討伐依頼を受けないお前が橙なんだよ」
「………………」
少女は彼らの言いがかりに何も言わない。彼女も彼らの言う通り、討伐依頼を受けていないことに対しては思う所があったからだ。
だが、そもそも彼らの言う採取依頼が大したことないというのは本来間違いだ。討伐依頼も採取依頼も、重要度が極端に違うものではない。どちらも生きるのに必要なことであり、重要なことだ。差があるのは、依頼のランクと緊急性が主だ。結局のところ、彼らは一人で依頼をこなして橙のランクになっている彼女が気に入らないだけだ。
「おい、何か言えよ」
「……………………」
少年たちが少女に言うが、少女は何も言わない。少年たちは彼女何を言った所で、言い訳程度にしか思わない。今までも少女に対して何度か言いがかりをかけてきた経験から何かを言っても無駄であることを少女はわかっていた。
そんな中、一人の男が掲示板の前に現れる。
「おい、お前たちじゃまだ。どいてくれ」
アルツである。依頼を見に来たが、掲示板の前に少年たちと少女がいるせいで依頼を近くで見ることができないのだ。
「ああ? なんだよお前は?」
「邪魔だからどいてくれよ。さあ、早く」
「てめえ、こいつの仲間か?」
会話になっていない。少年たちがアルツの言葉を聞き入れていないのもあるが、アルツ側も言葉が足りていない。掲示板の依頼を見たいのに邪魔だからどいてくれ、と言われたなら少年たちも理解して行動してくれた可能性はあったかもしれない。
「だから早くどいてくれ。お前たちは邪魔なんだ」
「ああ、何だよお前は!」
アルツも少しイライラとしている感じだ。二日間缶詰にされ、討伐依頼を受けて楽しめる、と思っていたところに依頼を受ける邪魔になる相手がいたからだ。少年たちもアルツの邪魔という言葉に苛立ちや怒りを感じ、アルツに攻撃的に接する。このままいけば、両者がぶつかるのはすぐだろう。
「!」
「!!」
ギルドに来たのはいいが、妙に騒がしい。まあ、掲示板前を見ればすぐに分かった。原因の一端はアルツだ。アルツと話している……というよりは突っかかってきている少年たちも原因なのだろう。
少し話を聞いていると、アルツ側の問題は言葉が足りず、ただどいてくれと言っているだけ、少年側はそんなアルツの言葉を聞く様子も見せず、突っかかってきているだけ、というのが問題だろう。
なんか横にわたわたしている少女もいるが、あちらも関係者だろうか。っと、そんなことを考えている場合ではない。そろそろ止めないと殴り合いが始まるかもしれない。
腰にある杖に手を触れ、簡易的に魔術を使う。本来杖を抜いて使うが、抜かなくても触れていれば魔術は使用できる。抜けば武器としての使用ができるし、魔術式を杖先に構築して、扱いやすいから杖を抜いて使うだけだ。簡単にか、時間をかければ腰に差した状態でも使える。
「"風よ腕と足を束縛し動きを止めよ"」
これでよし。攻撃動作をすれば自動で動きを止めさせられる。簡易的だからある程度以上の力でやろうとすれば解けるが、何かされているということがわかればいいだろう。
「ああ、もううるせえよ!」
アルツと話している少年がアルツに殴り掛かろうとしたが、風の束縛により一瞬止まる。アルツ側もその動きに対抗して動こうとしたが、こちらも一瞬止まる。それにより、両者とも動くのを取りやめたようだ。何が起きたのかわからず困惑している。
「そこまでにしたらどうだ」
「ハルト?」
「ああ!? 今度は誰だよ!?」
こちらにまで喧嘩腰だ。なんでそんなにカリカリしているのやら。
「依頼を受けようと思って掲示板の前に来たんだが、そこに屯っていられたら依頼を見るのが大変だろう? どいてくれないか」
「…………」
理性的に、正論をぶつければ相手側も言い返すのは難しい。感情だけで動かれればわからないが、一度束縛で動きを止めたことでちょっとした空白、困惑があるはずだ。それが感情にブレーキをかけてくれるだろう。
「ちっ………行くぞ」
退いてくれた。正直言ってありがたい。流石に攻撃魔術をギルド内で使うのは問題だ。ギルドは一応喧嘩程度ならば何も言ってこないが、魔術を使う程度の、争いまでに発展すれば干渉してくるだろう。
「アルツ、依頼はまだ見れてないよな」
「ああ。あいつらが邪魔だったからな」
「今度から相手をどかすにしても言葉を選ぼうな。討伐依頼受けたいのはわかるけど」
その方が楽、というか先につながる。急がばまわれ、というやつだ。
「ああ……」
「依頼を受ける前に…………とりあえず、話を聞こうか」
掲示板の前にいた少女に話しかける。多分、さっきの少年たちの関係者か何かだろう。アルツの方を見てわたわたしていたし。
「…………え? わ、わたしですか?」
「そう。多分さっきのと話しているところにこいつが入ったんじゃないか、と思うんだけど」
「あ、は、はい。そうです」
アルツを指し、少女に言うとなぜかしゅん、として俯かれる。
「とりあえず、話聞こうか。そっちのテーブルで」
「ハルト、依頼は?」
「依頼は逃げないから後回しな。今回のはお前がかかわった結果だし」
「ええっ!?」
掲示板の討伐依頼を見たがるアルツと、うう、とうなっている少女をなんとかテーブルまで連行し、ようやく話を聞ける状態に持ち込んだ。




