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ギルド長室に入る。目の前にはこのギルドのギルド長がいる。タイプ的には、冒険者上がりだな。慣れていないタイプだけど、相手がしやすいタイプの方だと思う。少なくとも優いのよりは。
「おう、座りな」
目の前の椅子に座れ、と手で指される。俺とアルツは言われた通りギルド長の前にある椅子に座る。机を挟んで対面する形だ。
「ハルト・マルジエートです。一緒にいるのはチームメンバーのアルツです」
「ああ、わかってる。お前たちがゴブリンの巣を潰したって話だってな?」
「はい」
じろり、とギルド長はこちらを睨みつけるように見てくる。この程度の視線は慣れたものだ。アルツもこういう場には慣れてなさそうだが、睨まれるくらいは気にならない感じだ。
睨みつけたことに反応を見せていない俺たちに、ふん、と面白くなさげにする。後ろの棚にある資料を大雑把に取り、机の上に置く。ばさばさ、と開き、その中の一つの地図を開いたところでこちらにもそれを見せてくる。
「場所はどこだ?」
「……話を信じるんですか?」
「討伐部位を持ってきていて信じないはずもないだろう。まだ外に出ていた残りのゴブリンもいるだろうし、死体も置いてきているだろ。巣も中に素材となるものがあることもあるからな。どこだ?」
「………ここです」
知っている地図よりも大分正確だ。この手の地図は基本部外秘のはずだが。いや、今は気にしないでおこう。泊まった村、その北東の方角に行った所の山の崖の部分を指す。
「そこでいいか?」
「おおよそはあってると思います。村から出て、北のほうに行き、ある程度行った所で東北東に進んだところにありましたから」
「ふむ」
「……ところで、地図は外部の人間に見せてはいけないのでは?」
「なんでそれを……ああ、そういえばマルジエート、貴族だったか」
今更気付いたのか。
「何、黙っていれば問題ない」
「……ちなみに漏らしたら?」
「ま、お前さんならギリギリ家から出られなくなるくらいか」
つまり、普通の人間はアウトだな。アルツの方を見ているが、もう地図を見ていない。ただ、頭が痛そうに手を当てていたから。話を聞いていたわけはじゃなくて中身の内容が分からなかったんじゃないかと思う。まあ、見方が分からなければよくわからないものだろうし。
「情報、感謝する。とりあえず今回分かっているだけの討伐分の報酬は受付に渡しておくから受け取ってくれ。残りは後で支払うことになる」
「中に入ったときのゴブリンの数を数えておきました。討伐部位をとった数も同時に書いてあるので、参考にしてください」
そう言ってギルド長にゴブリンの巣で数えておいた討伐数を書いた紙を渡す。まあ、本当に参考程度だ。どうせ戻ってきたゴブリンがいたりするから、おおよそで判断されることになるからあまり意味がなかったりする。
「悪いな。それと、今回の功績でお前たちは茶に昇格することになる」
「……いきなりランクアップですか? 問題ありません?」
「ゴブリンの巣を制圧、殲滅できる冒険者を成り立てとはいえ白に置いておくわけにはいかないだろう。本当なら橙でもいいが、流石にそこまでは無理だ。まあ、橙には依頼を受ければすぐに上がるから頑張るんだな」
結構な大盤振る舞いだと思う。本来ならもっと依頼を受ける必要があるはずだ。ゴブリンの巣を初心者二人で殲滅の上、キングの討伐が大きいということなのだろう。
「はい、わかりました」
「話は終わりだ。行っていいぞ」
「はい、それでは失礼します。アルツ、行くぞ」
会話に入ってこれない様子のアルツを引き起こし、部屋を出た。
「やれやれ、あれが初心者冒険者か」
ハルトとアルツが出て行ったギルド長室でギルド長が呟く。
「まあ、武威の貴族んとこの子供に神儀一刀を旅に出される程鍛えられた弟子となると、普通の初心者と比べられんだろうな」
自身の睨みに反応する様子を見せなかった。そのことからも、彼らが精神的な圧力になれていることが分かる。普通の冒険者なら体を震わせて怯えるだろう。
「あの様子だと、すぐに橙に上がるだろう。二日であれだけ討伐できるだけの実力があるなら申し分ないな」
ギルド長が確認した討伐部位はゴブリンだけとはいえ、数十匹のが入っていた。巣内に残した部位をとっていないゴブリンのことも考えるともっと多くのゴブリンを討伐したことになる。キング以外の上位種もいたはずだ。
ゴブリンの巣に挑むならば通常なら桃、今回のキングの強さ程度でも橙のチームでなければ厳しかったはずだ。それも二人ではなく、六人くらいで準備をして挑む場合だ。今回のハルトとアルツの戦績はかなりの異例だろう。
「マルジエート……そういえば、先代から貴族の冒険者の話を聞いていたな。確か……ビュート・マルジエートだったか」
昔、このギルドで冒険者になった珍しい貴族の話を思い出すギルド長。
「……親子二代でここで冒険者になってるのか。ああ、マルジエートは北だったな」
地理的にマルジエートの領はこの街から北の方だ。
「自分のところでなるのは恥ずかしいのか……?」
ぽつり、とギルド長はマルジエートの家の二人がここで冒険者になった理由の推測を呟いた。
受付さんから今回の討伐報酬、ゴブリンの巣の報告、殲滅の報酬分ももらい、結構持ち金が潤っている状況だ。アルツはようやく慣れない場の雰囲気から回復したようで、元気よく次の依頼を探そうとしている。
「なあ、ハルト! 次の依頼を受けようぜ」
「ああ。そうだな。アルツが依頼を探そうか」
「? 俺は字を読めないぞ」
知っている。
「そうだ。だから、字を読めるようになろうな」
「……え? ……いや、待ってくれ」
「待たない。せめて字を読めるようにならないとな。読めないと、俺が依頼を選ぶことになる。そうすると、討伐ばかりを受けるとは限らないぞ?」
「ぐ………」
基本的にアルツは討伐依頼をやりたいようだし、討伐依頼を受けないと言えば脅しになりそうだ。
「わ、わかった……」
「よし、それじゃあ宿をとるぞ」
そういえば村に泊まったから拠点にする宿をとってないんだよな。ある程度広い部屋をとろう。
その後、宿の四人部屋を取り、丸二日アルツの文字の学習に費やした。




