4
「あれか」
ゴブリンと思われる存在を発見した。数は三匹、思われると言うのは実際に見たのが今回初だからだ。流石人間ではないはずだが、本当にゴブリンなのか、それともゴブリンの上位種やメイジやらの可能性だってある。知識と実践は別の話だ。
相手を確認してから行動に移る。少なくとも俺はそうするつもりだったのだが。
「神儀一刀…」
こちらが何かを言うよりも早く、アルツが攻撃を仕掛けた。
「空太刀!」
ゴブリンと俺たちの間には結構な距離がある。アルツは俺よりも近づいていたが、明らかに距離がありすぎる。しかし、距離が開いていることを理解していないのか、アルツは一歩踏み出して、虚空を斬りつける。
それにより発生したものを見た時は目を疑った。虚空を切り裂いたその一撃は、そのままゴブリンに向けて飛んでいき、ゴブリンが真っ二つになった。飛ぶ斬撃、というものだと思うが、ちょっとファンタジーが過ぎないだろうか。
ゴブリン一体が真っ二つに切られ、他のゴブリンも異常に気付く。ぎゃあぎゃあと騒ぎ、仲間が真っ二つになった元凶を探し始める。アルツはその行動が開始されるよりも早く、ゴブリンたちに近づいた。
ゴブリンがアルツを発見したときにはすでにアルツの剣の間合いの内にゴブリンはいた。アルツはそのままゴブリンに近づき、その速度を載せた斬撃を繰り出す。袈裟斬りにされたゴブリンはほとんど上下で分かれ、命を失う。もう一体はアルツに対して攻撃を仕掛けるが、流れるような動きで回避され、そのまま腰に向けて繰り出された斬撃が背中を抜け、大量に血を吹き出し倒れる。生きてはいるが、すぐに命を失うだろう。
「…………」
俺はアルツの動きをただ見ているだけだった。普段は考えなしで動くような感じだったが、戦闘時の動きは迅速だ。俺が何もできないくらいに強い。
「ハルト! ゴブリンを倒したぞ!!」
アルツは元気よくこちらに叫んでくる。その声を聴いて、はっと、見入っていた自分に気づく。
「……とりあえず、アルツ」
「何だ!!」
叫ぶのをやめてほしい、というのがまず一つだが。
「今度ゴブリンを斬るときは真っ二つにするのはやめろ。鼻を回収できない」
「わかったぞ!!」
「あと、声も叫ぶのはやめなさい。ここに来る前にも言ったぞ」
「……わかった」
その後幾らかのゴブリンと相対し、何度か神儀一刀の剣技を見せてもらった。それでわかったことだが、やはり明らかに出鱈目な剣技だな、と感じた。
まず、その剣技が魔術とかそういうのとは明らかに別物であるということだ。まあ、剣技なので当然だとは思うが、魔力の感知もできない。もっと別種の力を用いた物か、全く力を用いない本当の意味で技術的なものなのか。しかし、そうなると飛ぶ斬撃というおかしなものになる。
鎌鼬の一種か、とも思ったのだが、そういうのとはやはり違う。本当の意味で飛ぶ斬撃なのだ。風の動き、魔力の動き、魔術的な動き何かを調べてみたが、やはり斬撃としか見れない。異常だ。
しかし、ファンタジーの存在を科学的に検証しよう、というのがそもそも間違いなのだろう。ファンタジーにはファンタジーでしかありえないようなものだってある、ということだ。そもそも、魔術で科学的検証を行おうというのが間違いなのだとは言ってはいけない。
「なあ、鼻なんて集めてどうするんだ?」
「討伐証明だよ。ゴブリンをどれだけ倒したかの証明になるんだ」
「……それが何になるんだ?」
少しは自分で考えろ、とは思うが前にわからないことがあったら聞け、と言ったのは俺だ。きちんと教えるしかないだろう。
「一つはゴブリンの討伐をした、ということで、その分の討伐代金がもらえる。ゴブリンは弱いが、それでも戦えるような人でなければ相手するのは厳しいし、複数体で徒党を組んでいる。もともと数が多いのが最大の脅威ともいえるから、その数を減らせばその分皆が助かる」
「へー」
理解したのかどうかはわからないが、ちゃんと聞いてはいるようだ。
「もう一つ、実績だ。どれだけの数を倒したか、というのは一種の戦績だ。同時に戦ったわけでも、継続戦闘での記録というわけでもないが、それだけ倒せるということは相応に実力がある、ととることができる。実績があれば評価され、それによりランクが上がる。そうなればもっといろいろな依頼を受けられる」
「へー」
さっきと同じ返事だが、本当に理解しているのだろうか。
「なんで鼻なんだ? 斬りにくいだろ」
討伐証明部位のことだろうか。
「理由は俺も知らないが、考えられるのはお前の言った通り、切りにくいからだと思うぞ」
「?」
「確実に殺さなければ切り取れない部位、でなければ討伐したことの証明にはならない、ってことだ。例えば腕や足、なんかだと戦闘中に切り落として、そのあと相手が逃げるケースがある。眼なんかは確実性が高いが、目は柔らかすぎて集めても途中でつぶれるケースが多い。なんだかんだで鼻になったんじゃないかと思う」
「へー」
理解を放棄したな、こいつ。前二つもきちんと理解したか怪しい。まあ、アルツは戦闘で役立ってもらうのが一番だろう。
「それで、そろそろ帰るか?」
「いや、まだまだいけるだろ。俺はまだまだ行くぜ」
アルツは元気いっぱいだ。しかたないのでゴブリンの追加を探そう。
「"風よ形ある者を探せ"」
風を流し、その範囲にある生物を捜索する。ある程度術式構築の段階で対象の大きさ、形状を絞っているので、あまりに違う生物を見つけないようにしている。範囲を伸ばし、探る。幾つかのゴブリンのグループを見つける。
数が多い。風を伸ばしていくつものゴブリングループを見つけた俺の感想だ。ゴブリンは数が多い生き物だが、それでも数は多い。今までもいくつかのグループを見つけたが、その過程でも多数見つけている。今までの動いてきた道、分布的に見れば北の方、山側にゴブリンの数が多い。
「次は西の方、七百メートルほど先かな」
「よし、行くぜ」
そのまま勢いよく行こうとするが、それを止め焦らず行くように言う。あまり勢いに引っ張られると大変だからな。