18
大地に巨大隕石が落ち、周囲に爆発の影響により土煙が舞っている。辺りの様子は確認できそうになく、男も優樹がどうなったのかを確認できていない。
「ちっ……やりすぎたか」
あまりにも大雑把で広範囲な攻撃過ぎた。別にそれ自体が問題というわけでもないが、もっと別の有効な攻撃手段はあっただろう。ただ、男は優樹に対し自分の力がこれほどに強いものだと見せつけたかったのが大きいかった。同時にそれにより相手の心を折ることもできれば男の勝ちでもある。たとえこの一撃がまともに直撃していてもこの世界では死なない可能性が高い。この世界で相手を殺すには心を折るのが一番なのである。
「全く、面倒な」
現在の状況はこの男が隕石を落としたことに由来するのだが。男は土煙が存在し続けると優樹がどうなったのか、どこにいるのかを確認できないため、風を吹かせ土煙を飛ばす。ある程度土煙が晴れると、土煙の中、隕石を落とした場所から白く細長い槍のようなものが飛んでくる。
「っ!?」
男はその乱雑に幾つも飛んできた槍をよける。男に直撃するようなやりはなかったが、また追撃が来る可能性もあると攻撃範囲の外に出る。男は槍の跳んできた方向を見ると、傷一つない優樹の姿が見える。その姿を見て男は小さく舌打ちした。
優樹が槍を飛ばしたのは男の隕石落としを真似たものだ。しかし、優樹には同じ隕石を出すことはできなかった。それは優樹の手元付近に出すイメージだったから範囲が問題であったのと、単純にその攻撃手段を生み出すだけのイメージがわかなかったせいである。あれほど大きな攻撃はだせなかったが、ならばと小さい槍をイメージした力の塊を出そうとした。それは成功し、それを風が吹いたことにより一瞬見えた男の方へと打ち出したのである。
優樹が男の姿を確認し、空中を蹴って男へと近づく。そして男が剣の攻撃圏内に収まったところで剣を振りあげる。男もそれに合わせ剣を振り下ろす。男が上、優樹が下だ。男の方が剣を扱う実力は上で、重力の関係もあり優樹が力負けして地面の方に向けて弾き飛ばされる。
「くそっ」
空中を蹴って再び上空に躍り出る。男はそんな慌てた様子の優樹を見て鼻で笑う。
「はっ、その程度か。大人しく死んでおけよ。俺の手を煩わせるな」
そう言って男は一瞬で優樹の前にまで飛んでくる。男が振るった剣の振り下ろしにかろうじて優樹は反応し剣で防ぐ。
「そらっ! そらっ! そらあっ!!」
男が何度も剣を振るう。縦、横、斜め。何度も軌道を変えながら振るわれる剣を何とか防ぎながら優樹は反撃の機会を伺う。剣を握っている手に力を込め、槍を生み出した時のようなエネルギーを剣へと籠める。見様見真似、男が使ったような剣から放たれるエネルギーを模倣して。
男の振るった剣を防ぎ、そのタイミングで力を放出する。衝撃波となったエネルギーは男の剣を大きく弾いた。
「うおっ!?」
男は優樹と違い剣を話さなかった。剣はそのまま弾かれ剣を持つと男の腕はその剣の動きに従い上にあがる。男はその動きに逆らわず、空を蹴って空に飛び退る。勢いに任せ一回転したところで弾かれた勢いは失われた。男の下、優樹は男に向け剣を構えている。
「天剣!」
優樹の剣から剣戟が男へ向けて飛ぶ。それは竜を相手に使われた剣戟よりも強い。この世界に来るときに力が上昇し、さらに力の扱い方、自身の力についてある程度知ったことでより力を籠めることができるようになったからだ。
男は優樹のはなった剣戟を笑いながら見ている。それはまるで気にする必要がないと言っているかのように見える。
「天剣!」
男が優樹のはなった剣戟に向け剣を振るう。同じように剣戟が伸び、優樹のはなった剣戟と衝突する。それにより両者の剣戟が消滅した……ように見えた。確かに剣戟そのものは消滅したが、その衝撃の余波、相殺しきれなかったエネルギーが優樹の方に向かう。
「うわあああああっ!!」
そのエネルギーに押され優樹が大地の方に飛ばされる。流石に墜落させるほどのエネルギーではないが、かなり後退させられている。その優樹の姿を見て男は確信する。優樹の使っているすべての能力は男が使っていた者だ。今まで優樹は男の力を無意識、本能で引き出し使っていた。そしてここで力の使い方を覚え、より強く扱えるようになった。だが、この世界において男と優樹の力はまったくの互角、そして男の方が優樹よりも能力の使い方も、剣の扱いも上だ。年季が違うのだからそんなことは当たり前だ。だから男は優樹に勝てる、優樹には自分をどうすることもできないと確信した。
優樹は確信する。このままでは男には勝てないと。優樹は自分の使っていた力が男の使っていたものが由来であることに途中で気づいていた。相手の方が自分よりも長く使用しており、経験も上。そうである以上、同じ武器、同じ戦い方、同じ能力を使っていては勝ち目がない。ならば優樹が男に勝つためにはどうすればいいのか。男とは違った戦い方、能力の使い方を考えるしかない。優樹は男に手を向ける。手に力を集中し発射する。
「おっと」
あっさりとよけられる。ただエネルギーを打ち出すだけ、そんな攻撃は回避されるに決まっている。次は散弾になるようにイメージして撃ちだす。先ほどよりも多くの弾が出て、さらにスピードも速くなった。二度目だからよりイメージ力が上昇したたからだ。だが、それを見て男は疲れたように息を吐く。男が剣を振るとあっさり生み出した散弾が消し飛んだ。
「余計な知識をつけやがって。とっとと終わらせてやる」
空を蹴って男が優樹に向かって飛んでくる。剣を構え、その剣に力を籠め優樹に向かって振り下ろした。優樹はその動きを見て咄嗟に横に大きく跳び、逃げる。男の振るった剣により優樹のいた場所が空間ごと切断された。優樹の動きを見た男は空中で姿勢制御し、優樹の方へと飛んでくる。
優樹は逃げても仕方ないと男に向かって跳ぶ。男がその優樹の動きに合わせ剣を振り下ろし、優樹もその剣を弾こうと剣を振り上げる。空を蹴った勢いが残っており、優樹と男の剣はほぼ互角の一撃だった。鍔迫り合い、とは少し違うが、剣同士が交差しているところに押し返そうと互いに力を込め合う。男が上、優樹が下。力は互角で重力の関係上男の方が徐々に優樹を押す。このままではいけない、と優樹が剣に力を加え、エネルギーを放出し衝撃波としようとするが、男はそれを読み衝撃波を合わせる。男の出した衝撃波の方が強く、優樹がそのまま衝撃波で押し返された。
「はあ……はあ……」
それで距離が離れ少し余裕ができる。優樹は思考する。生半可なやり方では意味がない。足に力を籠める。エネルギーを打ち出すときのイメージ、衝撃波を打ち出すときのイメージ、力を高めるイメージ。多くのイメージを重ね、空を蹴る。蹴った足に力が集中し、同時に衝撃波、エネルギーの放出が行われる。その爆発力、脚力は大きく、優樹の体が高速で跳んでいった。男の体の横を抜けて。
「うおっ!?」
男は勢いよく飛んできた優樹に驚く。しかし、自身に攻撃してくるわけでもない優樹がどういう意図でおこっなた行動なのか理解できなかった。
優樹はそのまま飛んでいった先で再び同じ行為をする。再び高速で跳んでいき、もう一度その先で同じことをする。高速で移動し、空中を蹴って方向転換を何度もする。男はその優樹の速度を追えていない。優樹が男の後方に来た時に優樹は男にめがけて跳んだ。そして金属と金属が衝突する音が響く。
「ぐっ!」
「くそっ!」
優樹の剣はわずかに男に届かなかった。真後ろではなく、男は優樹の動きをかろうじてつかむことができ、ギリギリ剣を合わせることができたのだ。
「うおおおおっ!」
男は剣に力を籠め、衝撃波を放ちながら優樹を弾き飛ばす。今回の攻撃は男にはギリギリの一撃だった。これ以上優樹を戦わせ続けるのはよくない。男は優樹に勝てない、とは思っていないがこのまま優樹と戦いつづけてもいいことはないと直感した。全力を剣に込め、優樹に振るう。
「天剣!!」
膨大な力を籠められた、巨大な剣戟が優樹に向かって振るわれた。