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妄想設定作品集  作者: 蒼和考雪
demi god
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16

 優樹が寮で休んでいると、扉をノックする音がする。優樹はその音に気付いたが、基本的に学園内における優樹の知り合いはいない。いったい扉を叩いたのは誰だろう、と考え反応しないでいると、勝手に扉があけられる。その先にいたのはセシリエ・フォーネ・アグライア、この国王女である。


「ユウキさん、こんにちは」

「こ、こんにちは」


 優樹は現在の状況に戸惑っている。なぜ自分の部屋にセシリエが来たのか理由が不明だからだ。いや、優樹は学園の費用の支払いをセシリエにしてもらっているので全く理由が不明というわけでもない。そして優樹には思い当たることもあった。優樹がこの学校に入ったのはもともと働き口を見つけるための技術を得る、職業訓練のためだったのだが、それをほっぽりだしてこの世界の知識を得ることに力を入れてしまっていた。そのため職業訓練を全くやっていないのが現状である。もしかしたらそのことに対して何か物申すことがあるのかもしれない、学費や生活費の支払い打ち切りなどの話ではないか、と内心冷汗だらだらの状態である。


「すみませんが、すぐに一緒に来てはくれませんか?」


 学校のことに関しての話が切り出されるかと思ったが、そんなことはなかった。しかし、王女に一緒に来てほしいとはいったい何なのだろう。


「えっと、何でですか?」

「……道すがら話します。できるだけ急いだほうがいいことなので、とりあえずついてきて下さい」


 優樹は理由を尋ねたが、セシリエは語らず優樹についてくるように言う。急ぎだという話であるし、移動中に話すということなので仕方なく優樹はついていくことにした。最も相手が王女なので断ることなんでできるはずもないのだが。

 寮の前に馬車が止まっており、セシリエはその中に乗る。優樹が乗る前に中を覗くと、以前もあった騎士の姿が見える。優樹も中に乗るとすぐに馬車が動き始める。そしてセシリエが優樹を呼んだ理由を話し始めた。


「実は、この国のある街に化け物が現れたのです」

「化け物?」


 優樹の言葉にセシリエはうなずき、続きを話す。


「……その化け物は空の割れたその中から現れました。この王都に存在する王城よりも大きい、本当に化け物としか形容できない見た目と大きさをした存在です。今まで現れたどんな魔物よりも大きく、そして異質です。今は現れた場所周辺でとどまっているようです」


 優樹は大人しくセシリエの話を聞いていた。セシリエはその化け物を見たことがあるのか、それとも伝聞で知っただけなのかは不明だが、少し緊張した表情をしている。しかし、その話を聞いた所で優樹に疑問が残る。


「その化け物が出たのと、俺が呼ばれたのはいったいどういう繋がりが?」


 もしかしたら優樹に戦力としての期待を寄せているのかもしれないが、セシリエと騎士が見た優樹の戦闘能力はそこまで驚異的なものではない。セシリエの言うような化け物を相手にするには力不足になるだろうと思われる程度の実力しか見せていない。竜を討伐したときのこともあるが、あの時は殆ど優樹が行ったことの理解はされていないだろうし、知られているのならば今まで放置されていたとも思えない。


「それを説明するには私の特殊能力について話す必要があります」


 優樹の疑問に対し、王女は真剣な表情をして答える。


「ユウキさんには話したことがありませんでしたが……そもそも知っている人間が少ないことです。ですから、絶対他の人には話さないでくださいね」

「……はい」


 何かとんでもないことに巻き込まれることになった。部外秘のことをあっさりと話さないでほしい、と優樹は思う。しかし、現実は無慈悲だ。この逃げ場のない馬車の中で優樹はセシリエのもつ秘密、特殊能力についてを聞くことになる。


「私の持つ特殊能力は"予感"と呼んでいるものです。これは私にとって、良いことか悪いことかがなんとなくわかるというかなり曖昧で主観的なものです。ですけど、今まで私はこの能力により様々な危険な出来事を回避でき、"予感"で悪いと感じたことをそのままにしたときは命を失うことを覚悟するほどの危険に巻き込まれたこともありました」

「…………えっと、例えば?」


 いまいち優樹には理解できず、セシリエに具体的にどういうことがあったのかを尋ねる。


「そうですね。例えば……私とユウキさんが以前会った時、山賊に襲撃されたときの馬車に乗っていたのも"予感"に従った結果です。そのおかげで私はユウキさんに助けられ、今無事でいられました」

「山賊に襲われているのに、良いこと?」

「確かに山賊に襲われました。あの馬車に乗っていなければ襲われなかったか、というとそうではないかも知れません。あの時私はお忍びであるものを運んでいたのです。あの山賊はそれを求めた何者かが利用しており、どの馬車に乗っても私を狙って山賊が襲ってきた可能性があったかもしれない。そうであるならば、あの時山賊を討ち、追い払うことのできたユウキさんの馬車に乗ったことが良いことになりますね」


 その話を聞いて少々論理的に無理やりというか、飛躍しすぎというか、妄想たくましい話だな、と優樹は思う。しかし、セシリエの話が本当ならば、その能力についての話が本当であるのならば自分が今ここにいることはすなわち、彼女が良いことと"予感"したということになる。


「ちょっと話が飛躍している感じはあるけど、つまり俺を連れていくのは……」


 優樹は話の途中で言いづらそうにしてその先を続けなかった。しかし、言いたいことをセシリエは理解し、にこりと優樹に笑いかける。


「そうです。どうすればいいか、と考えた時にユウキさんの存在に"予感"を感じました。恐らく、このずっと前からその"予感"はあったのだと思います。ユウキさんを学園に送ったのも"予感"があったからですから」

「……そんな裏があったのか」


 そういう理由があって学園を勧められ、そこに入れられたというのは優樹にとって少々複雑なことであった。結局褒章としてもらっているはずなのに、そこにセシリエたちの都合が介入しているからだ。だが、別に学園に入れられたことはそこまで悪いことではない。すべての費用を持ってもらっていたし、おかげでこの世界についての色々なもの事を知ることができた。まだ学んではいないが、職業訓練だって受けられたはずだ。それを受ける前にこんなことになっているが、それは自分が悪いので仕方がない。

 その後しばらく無言になり、王宮に着き中に案内される。


「えっと、どこに……」


 行く、向かう、どう言えば不敬にならないかを迷い言葉に詰まる。セシリエは周囲の視線などのことも考え、続かなかった言いたかったことを理解し優樹に話しかける。


「宝物庫です」

「……なんでそんなところに?」


 疑問はあるが、兵士や騎士たちを率いて戦えと言われるとか、王の前に連れていかれお前が勇者だ、とかそんなことをされると想像するよりはわかりやすい。宝物庫には特殊な武器や魔道具みたいなものがあってもおかしくないからだ。だからと言って、何故優樹が必要になるのかは疑問であるが。

 セシリエは優樹の質問には答えず歩き続け得る。それはセシリエがその内容を言いたくないからではなく、セシリエもあくまで漠然とした"予感"に従っているだけにすぎず、明確に何をするかがわからなかったからである。だが、ごめんなさい私にはわかりません、とは王女の立場としては言えない。だから無言で案内するしかなかった。


「ここです」


 扉があけられ、中の様子が見える。そこにあったのは様々な金細工の宝物、きらびやかな数多くの宝石、豪華な装飾の剣や鎧、古ぼけた何か古い言語が書かれているだろう羊皮紙、中には羅針盤の類の古い道具や、質素な箱や袋みたいなものもあった。

 優樹はその見たこともないような光景に感嘆の息を吐く。それに対しセシリエは珍しくもない見慣れた物ばかりなので気にせず中に入り目的のものを探す。セシリエは自分の"予感"に従い、必要なものをすぐに見つけた。


「…………これは」


 セシリエが"予感"に従い見つけた必要なもの。それは以前自分が、優樹と出会った時に運んでいた袋であった。セシリエが驚いたような言葉をつぶやいていたの優樹が聞き、セシリエの方に向かう。


「それですか?」

「はい……中を出しますね」


 優樹の質問に肯定を返し、セシリエが袋の中身を取り出す。そこにあったのは木の実であった。セシリエはなぜこんなものが、とそれを見て思った。しかし優樹がそれを見て感じたのはとんでもない力、圧倒的なエネルギー、世界を押しつぶすような圧迫感。その木の実そのものが世界そのものであるかのような圧倒的な存在を感じた。それは優樹の理性的な、知性的な思考とはもっと別、自分自身から大きく離れた部分にある本能が感じたものだ。


「セシリエ、それを」

「え?」


 いきなり敬称をつけるでもなく呼ばれ、優樹の方を見る。優樹はセシリエの方に手を差し出している。まるでその木の実をよこせ、とでもいうかのように。優樹の行動は自身の思考というよりは何らかの本能的なものだった。

 その明らかに不敬で異様な行動に対し、セシリエは本来違和感、疑念を感じるべきはずだった。だが、その優樹の行動に対してセシリエはそれがまるで正しいことであるかのように、優樹に袋の中に入っていた木の実をわたした。セシリエの"予感"もそうするべきだと告げていた。

 そして優樹は渡された木の実を自分の口に入れ丸呑みする。それと同時に優樹はセシリエのほうに倒れこむ。


「ユウキさん!?」


 倒れこんだ優樹を何とかセシリエが受け止める。優樹は目を瞑ったまま、眠ったかのようにも見えた。

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