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妄想設定作品集  作者: 蒼和考雪
demi god
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11

 馬車の中、優樹は震えていた。外にいる山賊の子分たちは馬車に襲ってくることはない。彼らは馬車から降りた二人の黒フードが相手をしている。彼らは見事に山賊たちに対応していたが、多勢に無勢だ。馬車を守るように動いていることもあり、徐々に周りを囲まれつつある。このままいけば、彼らは包囲され、山賊たちの手は馬車に伸びるだろう。

 しかし、優樹が震えているのはいずれ来る自分たちに対する山賊の魔の手ではない。人と人の殺しあい、その在り様に対してだ。自分が参加すれば、今より状況はよくなる。そもそも優樹は山賊を蹴散らすことができるくらいには強いはずだ。だが優樹は戦闘に参加していない。それは優樹が今まで人殺しの経験がなく、それを行うことに対して恐怖しているためだ。

 だから優樹は馬車の中で震えて動けなくなっている。ただ外で戦っている黒フードの姿を見ているだけしかできなかった。


「ユウキ、大丈夫だよ」


 震えている優樹にフェニアが優しい口調で話しかけてくる。彼女は姿勢を正し、馬車の見えにくい位置に隠しながら弓を構えている。もし、山賊たちが近づけばその弓で矢を打ち牽制するつもりなのだろう。しかし、それも黒フードが戦っているからこそだ。ばれればこちらを先に抑えに来る可能性だってある。


「大丈夫、私が守るからね」


 その声に優樹が驚いたように思わずフェニアの方を見る。フェニアは自分の方を向いた優樹に微笑む。心配させない、安心させるためにだ。その表情を見て、優樹は思考が停止する。何故そんな表情ができるのか、そんなことを自分に対して言えるのか。別に怖いのは優樹だけじゃない。フェニアだってこの状況に対しての恐怖、怯えがあるはずだ。しかしそれを隠し優樹に対して微笑んでいる。

 そのフェニアの表情、行動に対し、優樹はカッとなる。なぜ自分は守られているのか、戦え力があるのに行動しないのか。確かに人を殺すのは怖いことだろう。だからといって、このままでいいはずがない。このままいけば、山賊たちに自分たちは蹂躙され、優樹は死に、フェアにあはひどい目に合う。それがわかっているのになぜ馬車の中でじっとしたままでいられるのか。

 それは激情だ。まともな思考を捨て去り、感情のまま動き、確実に後で後悔に苛まれる突発的な行動だ。だが、優樹はその心の動くまま、馬車を飛び出す。


「ユウキ!?」


 優樹が飛び出したその後ろでフェニアが叫ぶ。しかし、優樹の動きは止まらない。馬車から飛び出したその動きはそのまま山賊と黒フードが戦っているところに突っ込むことになるだろう。その最中、虚空から剣を取り出す。竜と戦った時、巨大熊と戦った時に使っていたものと同じ剣だ。

 山賊の子分たちは黒フードとの闘いに集中していた。馬車のほうに多少意識を向けていた者は優樹の行動、跳躍する姿に気づき、その他の者もフェニアの叫びで馬車の方を向き優樹に気づいたことだろう。だが、最初に意識を向けていた者はまだ対応する余裕はあったが、それ以外のものはそうではなかった。それほどまで馬車から跳躍してきた優樹の動きは速かった。


「うわあああああああっ!」


 ただ優樹は叫んで山賊の子分たちに跳躍で突っ込んできた。そのすれ違いざまに一人を剣で切り捨て、返す刀でもう一人を切り上げる。瞬く間に二人、山賊の子分が減る。


「そいつを殺れっ!」


 山賊の頭が一気に二人を仕留めた優樹を殺せと叫ぶ。山賊の頭は優樹が囲んで抑え込んでいた黒フードたちよりも危険だと感じていた。頭は馬車の側、子分たちと黒フードを観察できる立ち位置に降り、もちろん馬車のほうにいる優樹の動きにも気づいていた。気付いていたが、あまりに速いその動きに全くついていくことは出来なかった。ただ馬車を一蹴りしただけで戦いの場に飛び込んでくる、それはどう考えても難しい距離だったからだ。

 つまり、優樹が全力を出せば頭でも認識できない、対処できない可能性があるということだ。だからこそ、優樹を殺せと子分たちに命令した。

 子分たちはその言葉に従い、黒フードを自由に行動させない程度に人数を残したうえで優樹に向かう。数人で取り囲み、襲い掛かろうとする。だが、囲もうとしたところで、その前に優樹が一気に山賊たちの間合いに入り込む。


「うおおおおおおおっ!」


 ただ技術のない横薙ぎ、それが山賊の上半身と下半身を分断する。山賊たちはその光景を見て動きを止める。見かけ上はどう考えても弱者にしか見えないのに、それだけの攻撃をしてきた優樹は誰が見ても異常な存在だ。動きを止めている間にも優樹は動き続ける。次の山賊の目の間に踏み込み、剣を振り下ろす。山賊は持っていた剣と盾を思わず上に振り上げ防ごうとするが、優樹の振り下ろしはその盾と剣、そしてその下の山賊ごと両断する。かろうじて真っ二つにはなっていない。


「なんだありゃあっ!?」

「化け物かよっ!?」


 優樹の動きは速い、そして力は強い。剣と盾ごと人間を両断するなんて常識的な人間の強さではありえないことだ。子分たちはその優樹の強さにおびえ、優樹から距離を取ろうと後ろに下がり始める。次に誰が狙われるかわかったものではない。優樹は近くにいる相手に叫んで突っ込んでくるだけだ。優樹の正気を失ったかのように見える瞳が山賊の子分たちを見る。


「俺は逃げるぞっ!」

「待てっ! お前だけ逃げるなっ!」


 優樹に見られ、恐怖にかられたひとりの山賊が逃げ出し、それを追うように数人の山賊が追随して逃げ始める。全員が逃げたわけではないが、残った何人かの山賊にも逃げた山賊たちの感じた恐怖が伝播している。


「お前ら逃げるなっ!」


 逃げた山賊たちに頭が叫ぶ。しかし、逃げた山賊たちは戻ってこない。だがその叫びは逃げた山賊たちには効かなかったが残った山賊たちのさらなる逃亡を阻止することは出来た。ちっ、と舌打ちして頭が戦場に入ってくる。これ以上高みの見物をしていられないからだ。


「こいつは俺が相手をするっ! お前らは騎士の方をやれ!」


 子分たちに頭が一喝し、わらわらと黒フードのほうに向かっていく。


「よくもやってくれてなぁ。あぁ?」


 頭が優樹に対してすごむ。しかし、優樹はそれに対しての反応を見せない。優樹は先ほどから呼吸が速い。それは様々な感情、思考がぐちゃぐちゃになり自分の行動の正しさ、意味、それに対しての理解が追い付いていない。今やっていることがどんなことなのかわかっていない状態だ。ただ、その全ての行動、思考の根底にあるのは自分の命とフェニアを守る。それだけだ。

 頭が踏み込み、優樹に対して斬りかかる。その攻撃を後ろに跳んで優樹は躱す。頭はその動きを見て、それを追い優樹に追撃を仕掛けようとする。しかし、跳んだあと、優樹は一歩、頭の横をすり抜けるように跳ぶ。その一瞬ですでに優樹の持っていた剣は降りぬかれていた。


「ぐ…………あっ?」


 斬られた痛み、自分に起きた現象を理解できず、理解した次の瞬間には既に倒れていた。腹を切り裂かれ、出血と内臓への傷、それらからすぐに頭は死んだ。


「あっ!? 頭ぁっ!?」

「頭がやられたっ!?」

「だめだぁ! 逃げるぞ!」


 残って黒フード、騎士たちの相手をしていた山賊は頭がやられたことを理解し、どうしようもないと逃げ始めた。騎士たちは逃げ出す山賊を何人か仕留めたが、それ以上の追撃はしなかった。頭というまとめ役を失い、散り散りに逃げた山賊たちはもうどうしようもないだろう。


「はあ………………はあ………………」


 全てが終わり、優樹がその場で肩で息をしている。それは肉体的疲労というよりは精神的疲労、心に対する負荷からくるものだった。その様子を騎士たちは見守っているが、近づかない。今の優樹はまだ落ち着いていない状態だ。まだ抜身の刃物のような雰囲気を放っている。しかたなく、優樹が落ち着くのを待つことにし、その間騎士たちは倒された山賊の死体を道から離れたところに運ぶ。放置していると道に死体を食べる動物が寄ってくるからだ。

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