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優樹はフェニアの家に居候することになった。最初にとても空腹な状態の時に料理を貰う、という救いを与えてくれた時の印象からか、人見知りの気があるはずなのに普通に接することができたようだ。そして、フェニアの方も、優樹を見つけた時の状況、その時の感覚と印象から、優樹に対して悪い印象を抱いてはいないようだ。
フェニアは狩人である。そのため、毎日森に動物や魔物を狩りに出る。村には他にも狩人をしているエルフはいるが、フェニアはあまり仲が良くないようで、フェニア自身も結構な実力者であり一緒に狩りに行く必要性もなかったので、一人で狩りをしている。
優樹はフェニアが一人で狩りに行くのを心配に思い、手助けをすることにした。森を歩くのに素人である優樹を連れていくのはどう考えてもいい結果につながるはずがないのだが、フェニアは優樹を連れていくことにした。
「あっち! 追うよ!」
「あ、待って!」
獲物を見つけたが、優樹が大きな足音を立て相手に気づかれ、優樹たちが近づく前に逃げられた。それをフェニアはすぐに追う。追ってる最中に木を駆けあがり、枝を飛び移る。
「凄いなぁ……」
枝はそこまで太いものではない。恐らく優樹が同じことをすれば飛び移るために蹴った時点で枝が折れるだろう。フェニアは優樹よりもかなり軽いようだ。移動にしてもよく木々の間をぶつからずに飛び回れるものだ、と思うくらいの動きだ。
優樹は地上からフェニア、そして獲物となった動物を追う。追いついた時点ですでにフェニアが獲物を狩っていた。
「遅いよー?」
「ご、ごめん」
優樹は謝るしかなかった。そもそも獲物が逃げたのは優樹のミスで、それをフェニアが尻拭いした形だ。
咎めるように文句を言ったが、フェニア自身は大して気にしていなかった。彼女は久々に誰かと一緒に狩りをする楽しみを感じていた。今までは特に誰かと一緒にいて楽しいと感じることはなかったが、優樹と共に狩りをするのは楽しいと感じていた。それがどういう理由なのかは彼女はわからなかったが。
「さ、次の探そっか」
「あ……」
フェニアは優樹に向かって笑い、手を取って次の獲物を探す。優樹は女性に手を取られるということに若干の戸惑い、躊躇、恥ずかしさのようなものを感じて困っている。
その後もしばらく獲物を探し、狩りを続けた。
いくらかの獲物を狩り、村に帰還した。普段はフェニアだけなので、どうしても狩っても持ち帰る獲物に限度があったが、今回は優樹がいる。見かけに反してかなりの力持ちである優樹にかかれば今回の獲物はすべて持ち帰ることができた。
「凄いねー。どうやったらそんなに力持ちになれるの?」
「さ、さあ……いつの間にかこれだけ力がついてたから……」
優樹としてもどうやって強くなったのか聞かれても困るしかない。この世界に来てしまった時からなぜか力が強くなっていたのだから。
フェニアの家に戻るまでの間、いくらか雑談をしながら二人は移動していた。しかし、途中で二人の会話は止まる。
「……………………」
移動の途中、何度か村のエルフがフェニア達を見てきたからだ。その視線は友好的なものではなく、どこか冷たいものを含んだ、邪魔者を見るかのような視線だ。
その視線にさらされ、二人は黙る。視線を避けるように、早歩きでフェニアの家に戻っていった。
「ごめんね」
夕食時、フェニアが謝ってくる。
「何のこと?」
「村の人。ユウキのこと、見てきたでしょ?」
優樹は帰ってくるときの村人の視線を思い出す。あの時の視線は覚えているが、どういう視線なのか、そもそもフェニアを見ていたのか自分を見ていたのかもよくわからなかった。
「ああ……でもそれが何か?」
「……気付いてないの?」
「ちょっと、どういう視線かはわからなかったけど」
「…………うーん、どうしようかなぁ」
フェニアは視線に含まれていたものを伝えるべきか悩んだいるようだ。しかし、今伝えなくてもいずれ向けられる視線の内容に気付くだろう、と優樹に教えることにした。
「あのね……まあ、あんまり悪くは言いたくないんだけど、ユウキはよそから来た人でしょ? だから村の人も、こう……なんていうのかなぁ…」
どういえばいいのか、フェニアはうまく伝えられない様子だ。しかし、その言葉、雰囲気からいくらかのファンタジーのエルフによくある内容を思い出し、なんとなく優樹は察することができた。
「えっと、つまりよそ者に対して厳しい……ってこと?」
「厳しいっていうか……邪魔、いなくなってほしい、って感じかな」
言いづらそうにしつつもはっきりと内容を言うフェニア。別にエルフそのものが他種族を排斥する、というわけではなく、この村が比較的閉鎖的なのが大きい。一応馬車はこの村に通っており、極端に閉鎖的というわけでもないのだが、優樹の場合はこの村に来た理由、要因がかなり奇妙な形になっている。強力な魔物を退治できる、得体のしれない相手、というのがフェニア以外の村人の認識だ。
「……そうなんだ」
優樹は少しショックを受けたようだ。はっきりとした、悪意のようなものを向けられたことはあまりなかったからだ。
「……ええっと、出て行った方がいいのかな?」
「そんなことない……って言いたいけど」
フェニアは優樹がいることに全く問題はない。しかし、他の村人はどう思うか。
「私は、ユウキは別の町に行った方がいいと思う。ここにいても、村の人の視線は冷たいままだろうし、私たちは普通の人間と過ごすには寿命の問題もある。ここにいてもどうせ娯楽も少ないし、人のいるところに行った方が楽しいよ」
この世界のエルフも、人間より寿命は長い。およそ五倍ほどの寿命を持つ。一般的な人間の感覚とは違うエルフの村では人の作るような娯楽とは違うエルフ用の娯楽が一般的で、人がおもしろいと思うようなものは少ない。
「……そうかあ」
「ごめんね……こんな村でさ」
「別に、フェニアが悪いわけでもないよ」
「……そうだね。えっと、それで…これからどうする?」
フェニアが優樹に今後のことを尋ねる。視線に耐えて村に残るにしても、村を出るにしてもいろいろ必要なことがある。
「村を出るよ。あまりここにいてもフェニアの迷惑になるかもしれないし」
「そんなことないよ! 私は気にしないし」
「そう言ってくれるのは嬉しいけどね。でも、やっぱり出ていくよ」
「うん…………」
本当に短い間だったが、二人は仲良く生活できていた。本当に気が合う、という言葉がぴったり当てはまるくらいだった。だからこそ、こういう形で別れることになるのは寂しいだろう。
「えっと……馬車が、明後日、街に行くのが来る……はず。それに乗っていけばいいかな?」
フェニアが頑張って馬車の日程を思い出し、村を出るのにちょうどいい馬車の到着日を記憶から絞り出した。
「明後日か……じゃあ、明日は今日と同じ森で狩りをする?」
「いやー、今日買った獲物を加工して売り物にしちゃおう。見送りついでに街に行って売っちゃえ」
「……えっと、村で分けるとかは?」
「別にいいよ。これだけ持ってこれたの全部ユウキのおかげでしょ? ユウキは村の人じゃないから、分ける必要ないよね」
結構乱暴な論理である。フェニアとしては優樹が出ていく要因である排斥の意思を見せる村人に渡したくないようだ。
「それでいいのかなあ……」
「いいのいいの。気にしない!」
強引に話を推し進めるフェニアであった。その後、翌日に優樹は狩ってきた獲物の加工をひいひいと言いながら手伝い、一日を終えた。




