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「そっちに行きました!」
「ああもう、面倒だなっ! なんでこんなことに付き合わされなきゃならないんだ!!」
空中を二人の男女が高速で移動している。まるでそこに足場があるかのように空を蹴り駆け抜けている。
「あなたがいつも私の仕事を増やすから、その罰則として私の仕事を手伝わせているだけです! いつも異世界召喚や異世界転生、異世界転移ばっかりやっているせいで世界の安定を維持するのが大変なんですよ!!」
「どうせ大した労力でもないだろうが! うちの退屈しのぎは仕事みたいなもんだ!」
二人は言い合いをしながら、空中を駆け、ある目標を追っている。彼らはかなりの早さだが、追われている方もその追跡から逃げられるほどに速い。
「っ! 見失いました! そちらは!?」
「左、空間を切り取って隠蔽してるな!」
「あそこですね! 仮にも神ですか! はっ!」
女性の方が僅かな空間の変異を見極め、その場所に向けて手を向け、力を打ち込む。ぱりん、と空間を切り取り周囲から隔絶するための結界があっさりと破壊される。その先には逃げる男の姿があった。
「逃がしません!」
「おい、確かどれだけ無茶やってもいいんだよな!?」
「世界の動きを凍結しています。再稼働の時に全部戻しますから、星ごと壊しても問題ありません!」
「よし、なら全力でやらせてもらうぞ!」
二人の内の男性の方が、手に力を籠め、地面に向けて振り下ろす。逃げていた男性の周囲に空から光の柱が降り注ぐ。膨大な破壊の力の奔流はそれが衝突した大地にクレーターを作り、爆砕していく。
何故、こんなことになっているのか。彼らはある世界の運営をつかさどる、世界神、もしくは運営神と呼ばれる存在だ。二人のうちの女性の方は、特に自分の管理する世界だけではなく、この世界、多くの世界を内包する世界の中の数多の世界を管理する立場を担っており、今回はその役割の一つとして、仕事を放棄し、自分の欲で世界を好きなように扱っていた神を討ち、その力を世界が生まれる前のエネルギーの流れに返すことが目的だ。
しかし、相手が全力で防御と逃げに徹しているせいで、いまだにそれが果たされていない。今ようやくある世界の中に閉じ込め、確実に討ち果たせるように世界そのものを一時的に停止させ、周囲に被害をもたらしてもすぐに戻せるようにして全力で追っている相手を葬り去れるようにした、というのが現状である。
「はあっ!!」
逃げている神の逃げ先となる空間を爆砕する。爆砕された空間は空間的機能を果たさず、その場所に行くことができない。行くことができないのであれば逃げ道としては使えない。
男はその状況に舌打ちをし、自身の力で破壊された空間を修復し、道を作る。
「駄目ですか!」
「一本道なら狙いやすい! 天剣!」
男性の方が何もないところから剣を作り出し、その剣を振るう。レーザーのように剣が光を打ち出し、逃げている男を貫こうとする。男は爆砕されてた空間内に作った道を抜けきったところで作った道の維持を解除し、元の破壊された空間に戻す。それにより、光は破壊された空間を突き抜けることができず、そこで消滅した。
「ああくそっ! 誰だよ空間破壊したの!」
「文句がありますか!? 大地よ!」
追っている二人は互いにぎゃあぎゃあ口喧嘩しながら、逃げている神を追っている。よく喧嘩をしながら追うことができるものだと感心するくらい、二人の掛け合いは止まらない。
女性の言葉で大地が隆起し、男を持ち上げる。隆起、というと軽く聞こえるが、大地が持ち上がり、一つの山になるくらいの隆起だ。流石にそれだけ大規模の大地の隆起で逃げている男も足を止める。
「はっ!」
女性の方は槍を取り出し、横一文字に空を切り裂く。それを振り買ってみていた男は慌てて空に逃げる。その行動に少し遅れて、空間ごと真っ二つに隆起した大地が切断される。
「逃げられてるな!!」
「うるさいですよっ!!」
二人が別れ、空に逃げた男を挟むように追いかける。追いかける途中も互いに光弾を男に向けて撃ちその行動を阻害する。そのやり取りの中、二人のうちの男性の方が女性よりも早く、逃げている男よりも早く空に上がり、男の逃げ先を遮る。
前に立たれることで、その先に逃げられず、逃げていると男は途中で止まる。下からは女性の方が追ってきており、どうしようもない。男は空間に穴をあけ、別の世界に逃げようとしはじめる。
「さ、せ、ま、せんっ!!!」
女性が膨大な力を集め、男の方に撃ちだす。巨大なビームのようになったエネルギーが男に向かって突き進む。男は空間に穴をあけ、別の世界につなげ、逃げようとしたが、その直前でエネルギーが男に直撃し、周囲のすべてを破壊するような大爆発が起きた。
「っ!? しまった!」
「……あ、やばい」
ここで女性の方が起きてしまった問題に気付く。先ほど、男が開けていた穴は別の世界へとつながる道だ。そんな中、男が逃げようとしているところに女性の方が放ったビームが直撃し、周囲全てを飲み込むほどの大爆発が起きた。それはすなわち……
「あっちは大丈夫か?」
「……調査します」
この世界は停止させているが、他の世界はそうではない。あの大爆発の影響を受けているはずだ。
「…………被害はあまりでていません。つながった場所がよかったみたいです。すぐに修復できるものばかりです」
女性はそう言っているが、苦い表情をしている。
「一人を除いて、ですが」
「…………どうする?」
「元の世界に帰すのは無理です。存在の修復を行っていますが厳しいですね……せめて、存在の救済だけでも行いたいのですが……」
巻き込まれた人物は相当ひどい状態だ。魂、肉体、その存在の情報が大きく破損している状態だ。まだ存在を保っているのが軌跡と言えるくらいだ。
「………これを使うのはどうだ?」
男が一つのものを指し示す。それは彼らが追いかけ、女性の攻撃により死に体となった神の男だ。
「……本来は還すのが正しいですが、今回は仕方ありません。存在の修復に使わせていただきましょう」
ぼろぼろな神の男を巻き込まれた人物にくっつけ、女性が手をかざす。くっつくかのように、二つの体が溶け合い、巻き込まれた人物の姿を元の姿に戻した。
「後はお願いします」
「仕事を増やすとかでやるなっていつも言うくせに今回は良いのか?」
くくっ、と男性が笑い、女性の方に言う。男性の言葉に苦々しい顔をする女性。
「……今回だけです。幾つかの分はチャラにしますから」
「ああ、わかったよ。それくらいの譲歩で勘弁してやろう」
「くっ、たまにこちらが下手に出ればその態度ですか…」
ぐぬぬ、と言いそうな表情で男性の方を睨む女性。男性はその今にも噛みついてきそうな女性の視線を受けながらもどこ吹く風だ。先ほど、追いかけていた男がやったように男性が空間に穴をあける。
「よし、じゃ、元気でやって来いよ。俺を楽しませるためになー」
ぽいっ、と巻き込まれた人物を穴に放り込み、再び閉じた。
「ありがとうございます。彼の監視はこちらで行いますので、あなたは監視する必要はありませんよ」
「え? いや、別にこっちが見てても何の問題もないだろう?」
「…………見る以上の干渉はしないでくださいね」
それだけ男性に言い、女性が去っていった。
「やれやれ。まあ、俺も他に見るものが色々あるしな。直の監視は誰かに任せるとするか」
去っていった女性を見送り、男もその場を去る。しばらくして、世界が停止している間に起きたすべての物事は世界が停止した直後の状態に巻き戻り、再び世界が動き始めた。




