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あくまで設定がメインなので内容に期待しないでください
「智治! 早く買いに行こうぜ!」
背中をバシンと叩かれて意識を戻す。どうやら思考の海に沈んでいたらしい。
いつもの悪い癖だ。考え事をすると他の事に気が付かない。
「まーた考え事かー?」
「ああ、そうだよ祐司。それで何か用か?」
「今日はあれの発売日だろ! 早く買わないと売り切れるかもしれないじゃんか!」
「流石に今回は大丈夫だろ」
自分たちが買うつもりの物は今日が発売日というわけじゃない。
今回は再入荷したものだ。発売当時の売れ行きを考慮して多めに仕入れるものだと考えることができる。
「まあ、実際に売り切れないとは言えないけど」
「なら早く行こうぜ。楽しみにしてるんだー俺」
キラキラと目を輝かせわくわくうずうずと体が動いている。
前に買えなかった日から再入荷を心待ちにしていたのだ。
流石に買いに行ったらすでに売り切れていた、となると五体投地で嘆き悲しむだろう。
それは心苦しいのでさっさと机の上を片付け帰宅の準備をする。
「ああ、部室に一端寄ってくから先に校門のほうに行っててくれ」
「おおー……お前も真面目だな」
「真面目ならきちんと部活動をしていくさ」
と言っても大した活動をしているわけでもないし、加入している部員もほとんどが幽霊部員だ。
一度部室にだけ行ってすぐに玄関に向かうことにしよう。
「智治は何を買うつもりだ? 俺は犬型を買うつもりだぜー」
「前からそう言ってたよな」
「俺んちペット禁止だからな。ヴァーチャルリアリティだけど動物飼えるのは嬉しいんだ」
ヴァーチャルリアリティ。現在の技術は進歩し、電子的な仮想空間に人間が入ることが可能となった。
そういった技術が進歩したはいいのだが、なぜか作られたゲームはMMORPGが多かった。
それが悪いというわけではないが、向き不向きや好き嫌いがある。
それ以外のものが出るまでには時間がかかった。そのうちの一つが今回買いに行くものだ。
「俺はやっぱり人型かな」
「えー? 人型は評判悪いぜ。ネットで見ても扱いづらい、面倒くさいって言われてるし」
「別に良し悪しで買うわけじゃないし」
「そうかー。ま、お前がいいんなら別にいいけどよー」
性能がいい、使いやすいといわれているのは動物や幻獣の型だ。
人型はその性質、特性から扱いづらく、単純に強いわけではないため、あまり評判がよくない。
いわゆる不人気、はずれと呼ばれる部類だろう。
「ちなみにどっちを買うのかね、ちみ」
「何いきなり変な口調を使ってるんだお前は」
「いやいや、男としては気になるところだからなー」
……気になるというのはわからないでもない。
自分だって他人がゲームのキャラクターの性別でどちらを選ぶのかは気になる。
ただこういうものを教えるのは少し気恥ずかしい。
結局知られるのだからどちらでも構わないと人は言うかもしれないが、自分から教えるのと人が見て勝手に知るのでは精神の消耗度合が違う。
「ほれほれ、早く言うんだ」
「………女性型」
「まあ、そうだよな。俺たち健全な男子だもんなー」
祐司は当然、わかってる、といった表情でバンバンと背中を叩きながら言う。
その顔が笑っているように見えるのは気のせいではないだろう。
少しイラッとくるが、わざわざ言うことでもない。
「お、ついたな」
「とっとと入って買うぞ。売り切れたら嫌だろ」
「そうだな!」
店に入って目的のものを購入する。ちなみに犬型は最後の一つだった。
祐司は「あぶねぇぇぇぇぇ!!!」と叫んで店員に注意を受けた。こちらもギリギリで肝を冷やした。