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勇者一行の奇妙な旅



勇者がその少女と出逢ったのは、ある日の夕方。

さびれた塔の一番上で、彼女はその瞳を輝かせながら城下町を見下ろしていた。






勇者と呼ばれた彼は、生まれながらにして異端であった。

異常な魔力に様々な異能、生家は彼を畏れ、殺す事も出来ず、地下に幽閉したという。

そんな彼を救ったのは、現在の養父。次期神官長と言われるメラク・セルーカの実父でもある、アリオン・セルーカ。

それ以来、彼は良き家族に恵まれ、友人に恵まれ、いささか普通の人よりもスリリングな事件が周りで起こることが多かったには多かったが、比較的平和に暮らしていた。

そんな彼が勇者となったのは、家族であり友人であり幼馴染であるメラクによってむりやり神殿に連れてかれ、剣を抜いてみろと言われたので抜いたらいつの間にか勇者に祭り上げられていたと言うなんともいえない理由である。別に世界を救いたいとか高尚な理由ではまったくなかった。

なんやかんやと言いくるめられ、勇者として魔王を討伐するように国王やら他の国の人達からも頼まれ、いつの間にか知らないうちに勇者パーティーのメンバー選抜など勝手に始まっていた。

魔術大国から賢者の称号を持つ少年がメンバーとして呼び寄せられていると聞くし、そしてちゃっかり神官としてそして勇者の暴走を止められるからという理由でメラクはついて来ることになった。彼が勇者となったと聞いた腐れ縁の女騎士、セレナは自分こそがと王に直談判しに行っているという。因みに、セレナは勇者と魔法など一切なしの一本勝負をすると二回に一回は勇者が負ける。

どんどん話が勝手に進んでいくなか、国中から腕自慢の人々が首都に集ろうとしていた。

日々の喧騒に嫌気がさして、彼はふらりと町を彷徨うと古びた塔を見つけた。人気のないその塔に登ると……おもいかけずそこには先客がいた。


それこそが、エルリーカと名乗る少女だった。


塔の上から町を観察していたらしいエルリーカを見つけた勇者は、あまりの事に衝撃を受けることとなる。

理由の一つは、エルリーカの顔を見たことがあったから。そして、エルリーカかから巧妙に隠されているのだが、ほんの少しだけ魔族特有の魔力を感じたからである。他にもいろいろあったが、彼が他人に話した理由はこの二つである。

なぜ、エルリーカの顔を見たことがあるかと言うと、それはあまりにも面倒な話になるのだが、その昔……勇者とメラク、そして悪友であるセレナ達が国から出て遠出した時のことである。いくつかの国を横断して目的地に行く途中、トラブルメーカーである勇者とセレナが様々なトラブルを持ちこんでいく中、思いもかけずとある小国の国王とそのトラブルが原因で知り合いとなった。その国では、数十年前に国王の妹が魔族らしき存在に攫われてしまいずっと探しているのだと話を聞いた。そして、もしも旅の途中で見かけたならば救って欲しいと頼まれた時に見せられた精巧な肖像画。そこに描かれた女性にそっくりだったのだ。

だが、エルリーカは肖像画に書かれた女性よりも若く、そして魔族である。

どういうことなのかと驚いたと同時に、勇者と同じくらい驚いて言葉を失った少女に興味がわいた。

なぜ、彼女はこんな場所に居るのか。いったい、何者なのか。


それから、彼女は魔術師として勇者の一行の仲間となった。


というか、勇者がメンバー選抜の中に居た件の魔族少女に気付いて影であの子のことを知りたいとメラクに言った所、同じくその顔を見てどういうことだと疑問に思った彼がいろいろ裏で手を回していつの間にかメンバーになっていた。

ちなみに、この時点で彼女が魔族のスパイであることは調査済みであった。

小国の国王とも連絡を取り報告済みである。

それからというもの、勇者は勇者とは名ばかりのエルリーカについて調べる旅を始めた。

「この勇者、クズだわ……」

そう言ったのはセレナである。

やはりメラクと同じくエルリーカの顔を見たことがあった彼女にだけは事情を話していた。

そして、魔王を討伐する旅に偽装したエルリーカを調べる旅を始めた勇者に笑いながらついて来た。そして彼女は嬉々として時折単独行動をしながら魔族たちのことを調べ始めた。

エルリーカがなにやら複雑な立場に居るのはスパイであること以外調べてもまったく情報が見つからないことから明らかだった。彼女を知る為には今の魔族たちのことを知らなければならない。そう調べ始めたのだ。

そして、勇者は彼女のことを知りそうな魔族を片っ端から会いに行った。魔族たちはもちろん魔王を討伐するために組まれたパーティーで勇者がやってきたので全力で迎え撃ったのでほとんど情報は手に入らず魔族とたたかう事になった。この勇者、馬鹿である。

戦うとなると、一番心もとないエルリーカを勇者はとにかく守った。彼女のことを知りたいのに、彼女が死んでしまってはしょうがないからだ。そのほかにもいろいろあったが、他の人に話した理由はそれだった。

魔族たちは彼女がスパイだと知らないのかそれともべつに死んでもかまわないのか、容赦なく攻撃してくる。

自分が居ない間になにか会っては大変ととりあえずセレナに頼んで魔具を作ってもらったり、こっそり結界を張ったりといろいろとしていた。

そしていつのまにか、勇者は襲いかかる強大な魔族たちを討伐したとして人々から真の勇者だと絶賛された。べつに彼にその気は無かったが。

そして、彼は気付いた。

もう面倒だから魔王に直接聞けばいいんじゃない?

そんな事を考えていると、クルセルがはやし立てるように言った。

「まったく、勇者はエルリーカ嬢がほんと好きなんだな」

いつもエルリーカを見ている勇者の様子にクルセルはそう思っていた。

「はい?」

「え、好きなんだろう?」

「え?」

「あれ、違うのか?」

「好き……?」

その時、勇者は気付いた。



あ、たぶん、好きだと。



「好きだからこんな旅を始めたのではなかったんですか?」

セレナが驚いた様に言う。彼女もまたエルリーカの事が好きだからやっているのだと思っていた。ストーカーに間違えられそうな次元になっているのでそろそろ止めようかと思っていた所だった。

自分の恋心を認識したそれからの勇者の行動は早かった。

エルリーカの事情をエルリーカを除く勇者パーティーメンバー全員に話したのだ。そして、協力を仰いだ。

もはやなりふり構わない、とにかくエルリーカの事が知りたい。

彼女を死なせない、というか守りたい。

彼女はこの旅が終わったら魔族の国に帰ってしまうのだろうか。帰るべき場所が残って無ければ帰らないでくれるだろうか。彼女には好きな人が居るのだろうか。人間の国で彼女は生きられるだろうか。いや、この旅をずっと続けたい。魔王を殺す事になっても彼女は嫌わないでくれるだろうか。というか、現段階で彼女は自分のことをどう思っているのだろうか。

この勇者、いさささか危ない。近寄りがたい。

世界を救うとかそっちのけで暴走している。

それを止めるはずのメラクはもはやどうにでもなればいいと放置状態で、勇者がなるべく魔王討伐をするために旅をしてます風に装うための工作やら行動指針を作っていた。

かくして、勇者一行の旅は続く。

それが半年ほど続いた頃、エルリーカの様子が少しずつおかしくなって行った。どうやらスパイとして魔族に情報を流していることに罪悪感持っているようで、その痛々しい様子に勇者もそわそわしていた。

そんな中、彼はようやくエルリーカの出自を知ることになる。

どうやら、彼女は魔族と人間との子で、捨て駒として勇者のスパイにさせられたらしい。

その人間と言うのが件の小国の行方不明となった姫君だった。だから顔が似ていたのだ。

さらに調べて行くうちに、彼女の腹違いの兄とさらに婚約者が居ることが分かった。

婚約者のほうはどうやら魔族の国の中でも奥のほうに住んでいるらしく、簡単に行ける場所には居ない、そして腹違いの兄と言うのは……なんと現魔王であった。



かくして、彼等はエルリーカの婚約者と腹違いの兄である魔王と密かに会うために一芝居うつこととなる。

エルリーカにばれては魔族側にもばれてしまう。さすがにこの状態で婚約者の元に行ったら大変なことになると勇者は自重した。

彼女の流した情報で今日こそは勇者たちを殺してやろうと計画を立ててやって来たヴェノン将軍を隠れ蓑に、彼等は攻撃に巻き込まれて死んだふうに偽装し、婚約者の屋敷に乗り込んだのだ。

あわれな婚約者くんはあまりの事に呆気に取られ口を半開きにして、やってきた強いと噂の魔族ばかりを殺しまわっていると言う勇者一行から機密事項として扱われているはずのエルリーカとの婚約解消をしろとおど……説得されてなにがなんだかわからないままにそういう事になり、嵐のように去っていった勇者一行を見送った。

のちに彼は語る。「あれはきっと、人間ではない」と。


そして、勇者の暴走は止まらず、とりあえず魔王のいるという城におしかけてなぜか丁重にもてなされてエルリーカの兄と一対一で対峙する事になる。

が、勇者が討伐すべき魔王と対峙したと言うのに彼は気もそぞろでそれどころか彼女の侍女だと言う魔族から、エルリーカが死を望んで行方をくらませたという報告を聞きエルリーカの心配でそれどころではなかった。

ちなみに、魔王に対して勇者はエルリーカの兄としか認識していない。それでよいのか、勇者。

一応倒すべき相手なのだが、本当に自分の立場を分かっているのか。いや、分かっていなさそうだ。

そして、そんな様子の勇者の様子を見ながら何を表居るのかまったく分からない無表情の魔王は呟く。

「しまった……想定通り行ったが、さすがにこれは想定してなかった」


そんなこんなで勇者はエルリーカの元へと急ぐ。






たぶん、一目ぼれではなかったと勇者は思う。


これから語るのは、彼が誰にも言わなかったことだ。


エルリーカと出逢った時、彼はその顔を見て思った。かつての自分みたいだと。

本当の両親に畏れられ、地下に閉じ込められて育った彼は、幸運な出会いをしてこうして世界を知ることができた。

初めて出遭った時のエルリーカは、世界を初めて知った時の自分と似ていると思ったのだ。

町を見つめる彼女の眼は喜びと感動に満ち溢れていた。

それに気付いた時、彼は彼女に世界を見せてあげたいと思った。かつての自分がアリオンやメラク、セレナたちに連れられて世界を廻ったように。

きっと、彼女は驚くだろう。世界はあまりにも広いと驚くことだろう。それを、見てみたいと思った。彼女のことを知りたいと思った。


それがいつの間に恋慕となったのかは定かではない。

ただ、彼女の驚く顔を見たいから笑顔を見たいに変わり、幸せにしたいという想いに変わるのは、そこまで時間がかからなかったとだけ。




次回は想定通りだけどいろいろ想定どおりじゃなかった魔王さんの話

婚約者くんのことをもっと書きたくなってしまった……もしかしたら魔王さんの話の後に番外としてかくかもしれません。


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