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作者: 高橋梢

 フロリダのマディラビーチにて、私は窓の二つある部屋を借りました。これでも一番小さな部屋ですが、キングサイズのベッドにバスルーム、ウォークインクローゼットまで付いているという贅沢な暮らしをしています。

 

 私を招き入れてくれている家族は海沿いを散歩しに出かけましたが、たった今雨が降り出しました。こちらに来てから初めての雨です。私の部屋の二つの窓からは、水彩絵の具を無造作にパレットに載せたような淡い灰色の空が見えます。

 

 この窓から見える景色を、私は大変気に入っているのです。日本語ではなんとも形容しがたい、特有の空気を含んだ碧色の空が広がり、その下には全く同じ色をした平たい家が窓枠の中央に佇んでいます。その両脇には暑さにうんざりしているかのように頭を垂れた細長いヤシの木。太陽の光が、葉をより一層鮮やかな緑色に輝かせています。

 

 心の中でシャッターを切るとは、まさにこの事を言うのでしょう。旅の道中、カナダのロンドンからオークビルに向かう電車の中から雪景色を眺めている時、ここマディラビーチにて波止場の先端で微睡んでいる時、そして窓枠内の芸術を楽しんでいる時―――コップに水が注がれ続けるように、心が満たされなにかが溢れていく感覚を覚えるのです。そしてこの景色を忘れる事は決してないだろうとなぜか確信します。このような経験を、人生の中で一体幾度できるのでしょうか。答えようの無い問いを自らに問いかけては、寂しいような有耶無耶とした気持ちになってしまうのです。しかし同時に、この時間を楽しんでいる自分もいます。

 

 色々な考えを巡りに巡らせて、たくさんの感情は最終的に、「あぁ、あなたに会いたい」というため息になって空に溶けていきます。こんな事を文章にするのは恥ずかしいものでが、それでも記録しておきたいのです。時間も心の躍動も、一瞬で過ぎ去ってしまうのですから。

 

 皆さんが散歩に行っている間に書き上げるつもりでしたが、もうすっかり夜になってしまいました。確か今日は仕事がお休みの日ですね。もし時間が合えば寝る前にあなたの声が聞けるかもしれない、と実は朝から楽しみにしていたのです。

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