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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

魔女の条件

魔女の条件2~魔女を望んだ後

作者: 源 三津樹

ある頃を境に「植木」と言う一族には様々な超常現象が起こる様になった。

これは、そんな「植木」一族の女の子の話。

彼女は前世の記憶を持っている。そして活用しながら今の時代を生きて、前世の己のが行い、巻き込まれ、原因となった存在の為に限りある追いかけっこをしていた。その自覚を誰一人として持つ事もなく。

 かつて「私」は「ここ」ではない世界の、国の、ある程度の権力を持っている存在だった。

 けれど、かつの「私」は「そこ」で「命を奪われる」と言う過去を持った。


 「人の形をした人ではない存在」が「私」と言う存在だった。

 その世界の国の「貴族」と呼ばれる存在は、基本そういう「存在」だった。


 「王ではなかった私」は、どちらかと言えば血統的に言えば王に「近かった」けれど両者合意の下で「王とは遠い」所にある事を望んだ。

 「今」から思えば思いのほか高い要素を持っていたばかりに問題が絶えず起きていたのが、最大の理由だった。

 無論、所謂「貴族と呼ばれる存在」は無意味に存在しているわけではない。

 あえて言うのならば難しい事を省けば「貴族とは力に満ち溢れた存在」と言う定義がある。それは血統に現れる事が多く、一定量以上の「力」を持っていれば先祖返り的に一代限りの「貴族」としての「力」や「地位」を与えられる。その後、子供達が2代続けて「力」を持っていれば晴れて事実「貴族」として確立されるが逆もあり、一定以上の「力」を三代以上続けて持つ事が無ければ「貴族」としての地位を剥奪される事となる。

 その事も多いにあったのだと言うのは、事実であるが故に否定はしない。

 付け加えるのであれば、かつての「私」はそれはそれは様々な人々にとって「気になる」存在らしく老若男女の目が常にあったと言うのも理由の一つだ。


 だから、かつての「私」が最終的に死ぬ事となったのはそれが最大の理由なのだろう。

 しかも殺された。

 かつて「私」だったものを殺したのは、あろう事か今は届く事もない世界の国の王の子だった。

 嫉妬だったのか妬みだったのか、憎しみだったのか嫉みなのか、それとも執着心だったのかは判らない。

 判っているのは、直接かつて「私」だったものを殺したのは王の子だったけれど。その背後に何の関係もない存在が居たのは確かで……いや、はっきり言おう。

 「王太子」とその人物は呼ばれていた。

 ただし「お飾りの」と言う注釈がつくが。

 かつて「彼」が立太子する事が出来たのは、そこに「私」が補佐として立つ事が決まっていたからだと言われているが実際にはどうだったのかは判らない。今思い出してもそうだが、かつての「私」も仕事を仕事として行ってきたと言うだけ、与えられた仕事をこなすと言うだけだったのだから。


 こう言う言い方をしてはなんだが、かつての「私」がそうであった様に今の「わたし」も別に王太子に対して何か思う所があったかと言えば、実の所を言えば何もない。

 仕事なのだから当然と言うものであり、その頃の「私」は王太子の儀式や自分自身に課せられた問題の為に大変忙しい日々を送っていたものだ。その為、色々な不手際が起きていたのは否めない。

 いまだによく理解出来ないのが、立太子の儀式の前夜で数ヶ月単位で自宅に帰る事も出来ずに一週間ほどろくに眠っておらず、すでに半ば条件反射のみで動いていると言った状態だった際に王太子と交わした言葉が殺される原因だったのだろう。他に思い当たらないだけで決して朦朧としていたからではない筈だ。

 問題は王太子が「どうして仕えているのか」と言う問いかけに「仕事ですから」と一刀両断した事だろう。それ以外には本当に……大変申し訳ないが記憶がない。誰に対して申し訳ないかはおいて置くとして。


 だから「あの日」は。

 かつて「私」だったものが殺された日、一つの「力」を行使した。

 ずっとずっと、今考えてみると思っていたらしいのだ。どうやら「私」だったものは辟易していたらしい。

 前述の通り、かつて「私」だった「存在」と言うのは非常に「力」に溢れていたし血統的にも表向きはともかくとして実際には望めば「それなりの役職」くらいポンと手に入っただろう。幸い、望まなかったのでそんな面倒な目には合わなかったし、けれど出来たらもっと平凡な一人の一般市民として普通に生きて普通に老いて生きたいと思っていたのだ。

 だが、それは悲しい事に血統と誰よりも「王太子」が許さなかった。

 望んだ可能な限り遠い役職が「王太子付きの側役」だったのだから、今思えば「どこが遠いんだか」と自重の笑みの一つでも浮かびたくなると言うものだ。幼い頃に出会ってから事ある毎に「王太子」は、かつて「私」だったものを側に置こうと最大限の努力をし……それ以上の事を望んだ。だが、いかに「王太子」と言えど無理な事は勿論存在している。

 まず、かつて「私」だったものは表向きは王家に近しい存在ではないから側役と言う役職にあるだけでも十分問題視もされていれば敵視もされていた。おかげで日常は常にサバイバルだった。

 次に「王太子」は人見知りなのか視野が狭いのか迫ってくる人々には見向きもせずに、かつて「私」だったもの以外とは基本的に会話すらしようとしなかった。せいぜい、国王陛下には冷たく汚物でも見るかの様な凄まじい意識を向けていたりもするが己よりも階級が上なのと親であると言う前提、ついでに己が「王太子」となるべく作られたと言うのを知っている以上はある程度まで生かすつもりだったらしい。いや、これでもかなり湾曲に言ったつもりなのだが。と言う事もあって表面上は「王太子」と会話を望む者は、かつて「私」だったものを通さなければ視線も意識も全部無かったことにされてしまうほどの徹底振りで、いっそ清々しいとまで思ったのは一瞬であり。当然の事として、かつて「私」だったものは物理的にも役職的にも排除されようと動かれた時には可能な限り全力で回避をしたりしなければならなかった……ちなみに、これは「国民に対しての優しさ」であって有象無象のためでも、ましてや「王太子」の為でもない。

 何故なら「王太子」は純粋な意味での「力」には乏しくても策謀に関しては天井知らずなのだから恐ろしい、下手な事をして「王太子」が国を滅ぼしたらどうしてくれるのかと怯えながら過ごした日々は今では懐かしい思い出だと言っても良いだろう。


 でも、その「王太子」の人心掌握によって。

 かつて「私」は殺された。

 逆賊は上機嫌で血まみれの剣を掲げたが、次に兵士によって取り押さえられて「王太子」に助けを求めようとして気が付いたのだろう。

 弄び、利用され、そして捨てられた事を。

 すでに「王太子の即位の儀を血で汚した存在」に何の興味も抱いていないと言う事を。

 賊は思っただろう「どうして?」と。



 そして、今の「わたし」もそう思う。



 前置きが長くなったが、現状を説明しようと思う。

 わたしは今、男の腕の中に居る。

 いや、本当に唐突ですまないんだけど混乱しているのだから勘弁して欲しい。

 真面目な話、最初から話すと頭痛が痛い。誤字ではなくて、本当に頭痛を越えた頭の痛さと言うものだ。

 まず、わたしは転生とやらをした転生者だ。誰が痛い厨二病だ、仕方ないじゃないか。

 だって、前世での「私」が忙しい公務の合間を縫って趣味の魔術の研究の一環で「特定の状況下における転生理論」と言うものを見つけてしまい、ちまちまと研究を進めて、あと少しで実験段階に入れるかと言う所で殺されてしまったのだから残念だ。返す返すも残念だ。

 幸い「わたし」が生れ落ちたのは科学が発展したサブカルチャー万歳な惑星地球の日本は下町浅草だ。部屋からは無理だけど家から出ればスカイツリーの634さんだって見える、そんな人々が普通に生きる世界だ。

 そうそう、わたしの名前は「植木花織」と言う。

 数年前に居たと言う植木初芽と言う女性が行方不明になってから、何かとうちの一族は行方不明癖が出来たり変わった人材が輩出されやすくなったと言うが実感はなかったものの。

 厨二病くささがぷんぷんするのだが……前世は「秋葉原で普通に売っていそうな18禁ヤンデレ恋愛ロープレイング」と言う系統のゲームに大変酷似している事が判明した。いや、本当に酷似……出来れば、同じ世界からの転生者が作ったとかふざけた理由ではない事を説に祈り願う。まあ、その可能性は低そうだが……。


「花織」


 ぎゅうぎゅうと抱きつかれている現状、顔を潰すかの勢いで呼吸困難に陥っている事を理解出来ない。名前どころか顔も知らない人物は妙に高い体温で、妙に息苦しそうに人の名前を呼んでくれるので頭痛の痛さはゲージをどんどん上げてくれる。

 と言うか、こっちは物理的に死にそうで困っている。

 どこの誰だか知った事ではないが、前科をつけるのならば殺しても死なないようなガタイの良いお兄さんに喧嘩を売って欲しい。出来たら、わたしの様なか弱い人を相手にしないで欲しい。

 流石に持ち込んだ前世の記憶は大多数が使えないものでサバイバルでもない限りは結構無用な長物ではあるが。そんな今のわたしにも多少は魔法が使える……前世での「私」が「魔法とは論理である」と言う提唱をしていてくれたおかげだろう。それでも、この世界ではかつての世界の様な無尽蔵な魔力を使って突然の自然破壊など出来るわけもなく……行方不明とかトラブル巻き込まれ体質遺伝子が組み込まれたりする以上は仕方ないのだろうという気もするが。


「花織……」


 流石に生命の危機を覚えたので、力ぬ入らぬ手で奴の上腕二等筋と思わしき部分を叩くと漸く気が付いたのか。


「し……死ぬかと思った……」


 呼吸器官が若干あえいでいるのはどうしようもないが、それでも背中に回された腕は外れないのだから怖い。

 なんだコイツ、ストーカーかよと言いたいが納得出来ない。

 かつて「私」がそうであった様に、今の「わたし」とて目立つのは嫌いだ。恐らく、前世で研究した成果だと思うが現状の生活は特に可もなく不可もなく、親は共働きでそれなりの中堅どころの役職員と取引先の影の社長とされる事務員が両親、兄は一人、弟扱いの従兄弟が二人いる。

 容姿も可もなく不可もなく、身内びいきで可愛いといわれる事はあるが、物品販売目的以外のナンパもなければAVモデル以外に誘われた事もない。流石に一度「お金あげるからホテルいかない?」と言われた時には平然と通り過ぎたフリをして即効で警察に引き渡すように手配をしたけれど。


「ああ、花織……よかった……あんな奴にひっかからないでくれて」

「……どこのどいつだか知りませんが、アレはあなたのツレじゃないんですか?」


 普通の一般的な女として十分に周囲に埋没した人生を送ってきた筈なのに、わたしは困った事がある。

 前世で「私」が中途半端に作った「力」の影響じゃないかと思うのだが……「王太子」にそっくりな顔をした男に突然、何の脈絡もなく迫ってきた時には思わず反射でぶっ飛ばしていた。驚いた。実の兄と従兄弟二人がこぞって「自衛手段を持つのは女の子のたしなみであり義務」と言われた時には傷だらけになりながらも「なんでこんな……」と思ったものだが、前世での記憶を思い出した以上は無用の長物なんて思ってて申し訳ありませんでしたと土下座の勢いだった。


「アレ……ね……」

「うわ、悪い目してますね……」


 名前などは知りませんでしたが、わたしは「王太子」とかつて呼ばれていた相手が転生している事を知りました。

 物理的な距離が記憶を呼び起こしたのか、そいつはいきなり人に迫りながら「物心ついた時から夢を見ていた」とか抜かしてきたわけですよ……おかしいですね、容姿も変わっている筈なのにどうして「王太子」と呼ばれていた男は「わたし」が、かつて「私」と呼ばれていた事を知ったのでしょう?


「俺の目を見てくれてるの? 嬉しいよ……。

 アレは昔から虚言癖があってね、ずっと見ているとか言う夢の相手を探していたらしい。その夢の中でアレは想い人を手に入れる為にずいぶんと姑息な手段を使ったらしいが、結局は相手を殺す事で次に生まれた時に思いを託すしか手段が残されていなかったとか言ってたな、厨二臭いが面白い奴だったから側に居ても放っておいたんだがね。

 いきなり、女の子に襲い掛かる様な奴は警察か病院にでも通報してやる方が世界への親切だと思う」


 その意見に反論はしませんが……あの男、かつて「王太子」と呼ばれていた顔なんですよね。しかも、どうやら夢を見ると言う行為で前世を引きずりまくっていたと言う事らしい。なんたる粘着質。

 けど……あの男は確かに見ていたという夢の記憶も、顔もかつて「王太子」と呼ばれていた男そのものです。けど違う。

 本能が叫んでいるかのごとく言っているのは「違う」と言う事だけですが。


「ど、どういう事なんですかね……あと放して下さい」

「結婚して子供を作りたかったけど、すげなく断られた逆恨みらしいよ」


 あなた……身分違いの恋でもしてたのかなとか言うけど、確かに身分違いましたねえ。

 と言うより、そもそも「王太子」も「私」もどちらも同性だったんですが。知らなかったんですかねえ……まあ、今の世の中みたいな薄着になるって言う習慣がなかったから、年がら年中首までびっしり詰まった服を着ていたりすると性別不明な人は確かにいましたが。


「と言うか、人の意見スルーですか」

「俺としては虚言癖も妄想癖も笑ってみている分には構わないんだけど……他所のお嬢さんに迷惑をかけるのはよくないと思わない?」

「いや、まあ確かにそうですが……」


 これはアレですね、金とか権力とか綺麗な顔持ってる男にありがちな傲慢不遜って奴ですね。

 と言うより、それなら今すぐ逃げて警察に病院に放り込むようにしたいんですけどねえ。


「だから、君の事は俺が守ってあげるよ……花織チャン」

「なんで人の名前……」

「あいつが勝手に調べてくれたんだよ、きっと夢の中の人物だよって言ったら警察に捕まるほど調べてくれたよ」


 ……今、何かさらりとえぐい事いいませんでしたか。この人?


「遠からず、アイツは一生出てこられなくなるだろうけど……この次にどんな奴が襲いかかって来るか判らないから俺が一生守ってあげる」

「え……へ? は?」


 てか、あなた人の事を妄想だの虚言とか言ってますけど!

 そう言う貴方は、一体……!


 なんなんですかね、さっきからと言うより前世の記憶を思い出してからずっと。


「実家のお兄さんやご両親にも、ご挨拶にいかないとね……ストーカーも何とか出来ないなんてお兄さんもまだまだ甘いな。従兄弟だって半身内だと思って油断してるんだろうね、ご両親にも問題点を突きつけて危機感をもってもらわないと……」


 な、なんだろう。

 この人、自分で人の私生活を調べさせたのはあいつ。とか言ってたくせに。

 なんだか、詳しくないですか? 妙に。


「もう、ずうっと俺の中で咲き誇ればいいよ」


 かつて「王太子」と呼ばれていた人物と、同じ匂いを感じるのは。

 なんでだろう?

 て言うか、早く放して!



END


僕にしては珍しく、登場人物がほぼ三人(前世含めると4人?)でほぼ全編二人の世界。


植木花織:主人公兼ヒロイン

16歳。誕生日の前日に捕まった哀れな前世持ち。

注目されるのが面倒で周囲にあわせた言動が出来る典型的な女子高生。

前世では複雑な背景を持つ王太子の側仕えで周囲からは疎まれていたが、下手に優秀な為に一目も置かれていた。


大西雄介:敵?

24歳で社会人。複雑な背景と残念な幼馴染を持っている事で同情される事もある(主に幼馴染の事で)

大手企業のばりばりの営業でエリートだったが、この話をきっかけに総務に移動願いを出して周囲を大騒ぎにした人物。


王太子(仮):24歳

実際には、かつて主人公が「王太子」と呼ばれていたのと同じ容姿を持っていると言うだけの一般的な日本人。最大の被害者兼婦女暴行未遂犯。

作中で最も哀れな人物。

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