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視聴者の反応

BGMとともに、ファンファーレが鳴り、顔写真が司会者の前にアップで表示される。

<誰がどんな罪でこの場にいるか、この部屋にいる人間は誰も知りません。知っているのは自分だけ。その秘密のベールを我々は少しずつ紐解いていきたいと思います。では、いま話題にでていました田口信二の罪状をご紹介いたしましょう!>

「やめろ!」

田口が叫ぶが、司会者は涼しい顔で続ける。どうやら部屋の声は司会者サイドには届いていないようだ。

<最初に、彼の職業はカメラマンと紹介いたしましたが、アダルト専門のカメラマンです。こちらは正式なモデルを写していますが、彼はそこで自分の性癖に気づいてしまった。そして、趣味でも女性の裸体を撮るようになりました……>

「…………」

司会者が何を言うのかを理解したのか、田口は顔を真っ赤にして、唇をかみしめて、壁に映し出されている映像を黙ってにらみつけている。

<しかし!これが問題だったのです。大問題です。なんと、彼はその被写体である女性を誘拐して、写真を撮っていたのです!>

画面が変わり、田口が撮ったと思われる写真が数枚映し出された。

少女の顔と身体にはモザイクがかかっていたが、手足の長さや身長から考えると、その少女たちの年齢はどれも幼かった。

<しかも、少女たちの年齢はどれも10歳から14歳までの子供ばかり!1年単位で数人を誘拐し、監禁。飽きると、売春宿に売っていたという情報も入っています!男としては最低ですね。女性だけではなく、私も怒りを隠しきれません!彼の罪は婦女暴行、監禁、ビデオ撮影、無許可によるアダルトビデオをの販売、売春強要、その他の余罪も数えればきりがありません!>

眉間にシワを寄せ、拳をにぎりながら、司会者は許せないといった表情で語り続ける。

<こんなひどい奴でも、警察に任せてしまえば殺人以下の罪でしかない。しかし!我々は違います。視聴者の投票によっては死刑にもできるのです>

「なんだとっ!」

ようやく、事態の異常さにきづき、田口は目を見開き、叫んだ。

驚くのも当然だろう。死刑だけはない、とたかをくくっていたのだから。

罪状が暴露されても、所詮婦女暴行。最悪でも刑務所に数年程度と思っていたのだろう。

「そんな顔をしてだいたんな奴だな、オイ。しかもロリコンかよ」

さきほどまで荒れていた五十嵐が、馬鹿にしたような表情で田口を見る。

立花も軽蔑の念をこめた目つきでにらんでいる。

<視聴者の方からの投票はもう少しあとにするとして、田口信二君、なにか弁解はありますか?>

部屋を盗撮しているカメラが田口をグローズアップしたのか、壁に映っている映像が切り替わった。

動揺しているのか、おちつかないようにそわそわしだす田口の姿が画面いっぱいに映し出された。

「こ、個人の趣味だ……」

「ふざけないでよ!」

パシンッ!

立花がいきおいよく、田口のほおを片手で叩いた。

「人生で一番大事な年代の小さな女の子たちをあんな目にあわせて、自分の欲望を満たしたいだけで!あなたのしたことは、人の人生をめちゃくちゃにしてるのよ!?そんなこともわからないで、なにが趣味よ!ふざけないで!」

被害者と同じ女性として、怒りを代弁したのか、立花は侮蔑にまみれた視線を田口に浴びせる。

「元々他人だけど、近寄りたくもないわ!」

そう言って、五十嵐の腕をひっぱるように部屋の隅の方へ歩き出した。

この行動や会話は当然リアルタイムで全世界へ配信されていた。

視聴者はこの映像を観て、普段体験することのない犯罪者同士の動向に感情移入し、まるでその場にいるような錯覚をして興奮していた。

番組側が用意した掲示板、コメント欄は゛祭り゛状態となり、絶えずコメントが更新されていった。


【しょっぱなロリコン犯罪者キターーーー!】


【我々がやりたくてもできなかった事を平然と!この人は神!】


【俺も小さい子ほすい!】


【小さい子供を性の対象にするなんて死ねばいい!皆さん、この人は死刑で←決定事項】


【ふざけんな、ロリ神の教祖さまにするんだから勝手に殺すな】


【それより、あの女性にはたかれたい】


【誰も言わないけど、立花亜里沙って、ネットアイドルの『アリー』たんでしょ?この子ならどんな罪でも可愛いから許す!ああ、俺がこの場にいれば、彼女は俺が守るのに!】


「なかなかこちらの都合よく動いてるじゃないか」

オンエアされている映像と、パソコンのネット上に映ってるコメント欄を見て、プロデューサーはほくそ笑みながら言った。

「本当っすね。この様子だともっと白熱しますよ。でも、二十四時間の放送で3万円の有料会員になる奴が世界で50万人もいるとは思わなかったなあ」

スタッフのひとりが、プロデューサーを尊敬した目で見つめながら言った。

「まだまだ伸びるぞ。だが、予想以上の数字はいらん。何事も計画通りが一番だ。警察の捜査もまだまだ始まっていないようだが、計画では次回にはバレる計算だ。いまのうちに放送場所を特定されないように仕掛けつくっとけよ」

「了解っす。それにしても、これだけ好評なら全国放送でも30%、いや、40%いったんじゃないですかね?」

画面を見ながら、世間話をするかのように言うスタッフにプロデューサーはその男の背中をしかりつける。

「ばかやろう。二十四時間どころか、四十八時間ずっと観てられる人間がどれだけいると思ってんだ。時間をもてあました陰険な金持ちどもだから観てるんだ。それに、こいつらにとっては、この部屋で行われている犯罪に似た雰囲気を自分のパソコンで覗き見てる感じが堪らないんだ。ゴールデンの全国放送になったからといって、通勤の電車の中で『昨日の犯罪者は死刑でよかったですね』とか話できると思うか?人には言えない秘密を自己発散できる場があるからこいつらは愉しいんだ」

「なるほどー」

言われてみればそのとおりかも、という顔で笑いながらプロデューサーを見た。

「でも、そういう気持ちがわかるプロデューサーさんも同類ってことっすね」

「うるせえ、無駄な話してないで映像みてろ。こっちがタイミングあわせて補助しなきゃ、あの部屋にいる犯罪者だけじゃエンターテイメントになんねーんだからな」

司会者は読み上げる台本があり、それを演じているだけだ。部屋にいる五人の声は聞こえないし、司会者は事情をよくわかってなかった。

だが、司会者の映像を録画して放送してしまうと、せっかくの゛リアルさ゛が半減してしまうおそれもあったので、別部屋で直接撮影してもらっている。

別部屋で撮影している司会者の映像は、録画は録画だが、司会者役のスタッフがいつでも対応できるのは進行を変更できるし、演出を多様化できる強みがあった。

撮影された映像を編集部屋で合成してネットに流すというタイムラグがあるが、それを感じさせない雰囲気を部屋にいる五人が無意識のうちにつくりだしていた。

「そーっすね、じゃあそろそろ……」

ばたんっ!

「おい!どういうことだ!」

ドアが勢いよく開いたかと思うと、室長が大声をあげて入ってきた。

「どうしました?あまり大きな声出さないでください。音声が入ってしまいますよ」

「ここは防音だろうが!それより、なぜコイツをここにいれた!?」

映像に映し出されている部屋の隅で寝ている男を指差しながら怒鳴った。

「は?室長に言われた奴ですけど……?」

「私がこの男を選ぶはずがない!というか、写真にはいなかったぞ!この男がどんな奴がしらんのか!いや、知らないなら知らないでいい……」

怒鳴り疲れたというように、頭を片手で抑えながらうつむく。

「それより、大至急この男をこれ以上刺激しないように……いや、釈放しろ。丁重に追い出せ」

「え!?無理です!まだ番組始まったばかりで……」

「そんな事、どうでもいい!」

バアン!と机を叩いてさらに大きな声で怒鳴った。

「いいか、……いいか?この男はきわめて危険な団体のリーダーだ。犯罪者の中でも、手を出してはいけない奴だったんだ。それをお前達は……。もういい。室長命令だ。急いで予定を変更しろ。こいつの仲間がここをかぎつけないうちに、早くこいつを追い出せ。機嫌を損ねないようにな……」

「そんな大物なんすか?……そうは見えないけど」

スタッフのつぶやきを無視し、室長は走るように部屋を出て行った。

「おかしいな、確かに室長が選んだリストに入っていたんだがなあ……」

納得いかないようにプロデューサーが首をひねる。

「どうするんですか?まだ2時間もたってないのに、こいつを無罪ですか?」

「しょーがねーだろー、命令じゃあよ……」

プロデューサーはつまらなそうに、天井を見上げながらつぶやく。

そして、数分考え込んでからなにかを思いついたように一人しかいないスタッフを見る。

「……とはいえ、こいつをこのまま返したら番組側が操作してるって思われる。そんなことになったら視聴者は萎えるし、俺達の出世に影響が出る。そうだな、もうしばらくこのままにしよう」

「わかりました」

スタッフは少し安心したように、パソコンの近くに置いてあるスイッチを押して、司会者へ次の演出の合図を送った。



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