第06話 救世主と闘技場
更新が遅れてしまいました。
不定期更新ですがどうかこれからもよろしくお願いします。
「また遅刻したのか、アンドロイ!!」
「す、すいません。ちょっとした諸事情があったもので、」
「言い訳なんか聞かん!そんなことより、約束は覚えているのか?」
「いや、聞いてくれ・・・ださいよ。」
武学の棟の講義室のような部屋にロイと一緒に入ったとたん、ものすごいけんまくで怒られている。
ロイを怒鳴りつけているのは、背が高く体格のいい中年のおじさんだ。
どうやらここの教官の中の1人のようだ。
話の内容から察するにロイは遅刻の常習犯らしい。
「ちゃんとした正当な理由なのかね?」
「はい!そりゃあもう、ばっちり。」
くるりと回れ右をして俺に向きかえる。
嫌な予感がした。
「こいつが道に迷ったみたいだったので、ここまで案内してあげました。」
とか、さらりと言ってくれる。
この説教に俺を巻き込まないでくれよ。
しかも、自分でついて来いとか言っておきながら案内したはないよな。
「君はいったい誰だね?」
「えっと、俺は・・・」
言葉に詰まった。なんて答えればいいか分からないからだ。
エレンは俺のことを何にも伝えていないのだろうか?もしそうだとしたら、俺はかなり危うい立場にいることになる。
だがエレンのことだ。何も伝えずに俺をこんなところに連れてくるはずもない。
試しに訊いてみるか。
「俺のことエレンから聞いてませんか?」
「エレン?」
教官らしき男は腕を組みながら考え始めた。
訓練を怠っていないのだろう。鍛えられた二の腕の筋肉なんて半端ないくらいに立派だ。
力では到底かなわないだろう。
「君の言うエレンとは、知学の棟の生徒である【エレン・シュグラード】で間違いないのか?」
「はい、間違いないと思います。」
ザワザワ
エレンの名前が出た瞬間、講義室内が騒がしくなった。
『エレンって、あのエレンか?』
『シュグラードってんだから間違いねえだろ。』
『あいつと知り合いってことは・・・』
『もしかしてこいつ強いのか?』
『まさか、こんなへんてこりんの格好してるやつが強いわけねーよ。』
『そうだよな。ただの知り合いだよな』
『あったりまえだろ。こんな奴なんかにエレンを持ってかれてたまるか!』
ザワザワ
・・・なんだ?こいつら、
ここにいる連中が何を話しているのか分からないが、会話のところどころにエレンが関わっているのは間違いないようだ。
俺が不思議そうに部屋の中を見回していたらロイがいきなり後ろから肩に手を回してよっかかってきた。
「なんだよ?」
「お前、エレンと知り合いなのか?」
「ああ、そうだよ。」
「何でもっと早くにそれを言わないんだよ!」
肩にもたれかかったまま大声を上げる。
結構うるさいので引き剥がそうとするが、奴の力も強くなかなか離れない。
「エレンがどうかしたのか?」
「どうもこうもエレンだぞ、エレン!エレン・シュグラードと言えば成績優秀、実力ありの派遣ではいつも戦績が一番高くどこに出しても恥ずかしくない魔術師で、この訓練所の知学の棟の主席だぞ!自分より弱い男の顔どころかファーストネームの一文字すら覚えないような奴だぞ!?しかも容姿は抜群に良し。お前のような奴がどうして知り合いになれんだよ!」
1人暴走するロイをどうにか引き剥がし、部屋の中に押し込む。
まだ教官との話が終わっていないのだからそれまでは静かにしていてもらいたい。
「そうか、君が彼女が言っていた【この訓練所の武学で一番強い男】か。」
・・・は?
「えっと?」
「それでは君にはその肩書きが本当に正しいかどうかを見極めるために、この武学の棟が誇る最強の奴、つまり武学の主席と模擬戦をやってもらうぞ。」
その瞬間、今まで騒がしかった講義室が一気に静まり返った。
彼らの顔は血の気が引いてしまっていて今にでも倒れてしまいそうなオーラを放っている。
アレだけ暴走していたロイ出さえ、他の連中よりはましなものの黙りきってしまっている。
いったいどうしたのだろうか?
それも気になるが今は自分の、ある意味最悪に嫌な誤解を解かなければ。
エレンのやつが妙にえらそうにしている理由が分かった。
それゆえ、自分の召喚した者が他のやつより弱いことが許せないのだろう。
だが、俺はそんなくだらないプライドのためにヘンな誤解を生じさせたくはない。
ここはしっかり否定せねば!
「それでよいか?」
「良いも悪いも、俺そんな強くないですよ。あいつが勝手に言い出したホラ話ですよ。」
「ふむ、なるほど。」
「だから、俺にはそんな奴と戦って勝つ希望すらないですよ。だからもっと違うものを・・・」
「よし、分かった。」
どうやら分かってくれたようだ。
エレンには悪いが、俺もそんなたいそれた肩書きなどこれっぽっちも欲しくない。
なにはともあれ、これでそんな化け物のような奴と戦わずに・・・
「奴らは二人そろってこそ最強になるのだからな。1対2では力が図れん。今までに無いことだが、この模擬試験はペアの勝負にする!」
すんでねー。
しかも自体は悪化してるし。
「そうじゃなくてですね、」
「それで、その模擬戦で君と組むのは・・・アンドロイ、お前だ。」
「ええぇぇぇぇえぇ!!!?おれなのかああぁぁあぁぁ!!!!」
この世のものとは思えないほどのデス声で叫ぶロイ。
そんなにヤバイ相手なのだろうか?
「遅刻をした処罰が模擬戦なんて楽で良いだろ?それとも、闘技場の清掃を1週間1人でやっても良いのか?」
「くっ!」
「決まったな。君の名前はなんて言うのかね?」
「雲雀千夜です。」
「ではヒバリ。君の実力を楽しみにしているよ。彼らのコンビは王室の護衛兵と変わらないかほどだからな。存分に戦って来い。」
「いや、ですから・・・」
「それじゃ、準備はしておく。今から30分後に闘技場まで来るように。場所はアンドロイに教えてもらえよ。武器の持込に制限はない。無論、種類も不問だ。武器が足りないようなら倉庫から持ってきてもかまわないぞ。」
「そうじゃなくてですね・・・」
「それでは、また闘技場で会おう。」
「ちょ・・・」
行っちまったよ、オイ。
本当〜にここの世界の人間は人の話を聞いてくれないようだ。
まさか人を教える立場である教官もそうだとは思わなかったがな。
もうこうなったら、おれはその最強コンビとやらと戦わなければいけなくなってしまったようだ。
まためんどくさい事になったが、こうなったらどうにでもなれだ!
後は放心状態のロイを元に戻して闘技場に向かうだけか。
鎧の敵相手には役にたたないだろうけど、一応銃のメンテナンスもしておくか。流石に武器がこれだけでは頼りないので、倉庫とやらから持ってくるまでだ。
「おい、ロイ!しっかりしろ。とっとと倉庫行って武器調達してから闘技場に向かおうぜ。」
「センヤ。お前、恐くないのか?」
「ん?べつに、相手の実力が分からないのは不安だけど、別に恐くねーよ。」
「はぁ、これだから素人は困る。」
ため息をつき両手を腰に当てて、明らかに疲れたような態度をとる。
「いいか?奴らはもう訓練生の力じゃない。それこそ今からだって戦士や、悔しいけど騎士にだってなれる実力がある。そんな奴らと戦うんだぞ?」
あきれた顔をおれに向けて、少しとがった口調で喋る。
「俺だって、そこそこは自信あったんだ。腕が立つな。でも、そんな自信は奴らと戦って木っ端微塵に吹き飛んださ。ぼろ負けって訳ではなかったけど・・・俺じゃ勝てなかった。」
「ロイ。」
「だから、俺はまたそうなるのが恐い。」
さっきまでの元気はどこへ行ったのか、こいつに似合わない弱気の発言をしてくる。
俺自身、そのコンビの実力はもちろんロイの力すら分からないからかける言葉が見つからない。
こんな時に下手な慰めはかえって傷つけるだけだ。
「なんだ、そんなことか。」
「そんなことってな、簡単に言うなよ。」
「だってそうだろ?これで勝てれば名誉回復はもちろん、一気に主席になれるんだぜ?そんなこと忘れるだけじゃ足りないほどのおつりがくるさ。」
「センヤ。」
「なにシケタ面してんだよ、お前らしくないぞ。ホラ、さっさと倉庫に案内しろよな。」
「・・・ああ、そうだな。こんなキャラ俺じゃねえよな。よっし!いっちょ張り切って、他のクラスの女の子たちに俺の名前を覚えさせてやるぞ〜♪」
完全復帰だな。
張り切るロイに先導されながら、俺は武器がしまってある倉庫へと向かった。
――25分後――
俺たちは選手控え室のような場所で待機している。
先ほど倉庫から持ってきた武器【カッターソード】というらしい、なんともまぁしょぼい片手剣を磨いている。
名前のとうりに、カッターナイフの刃を大きくしてそれに取っ手をつけた感じの武器だ。
切れ味はよさそうだが物理的ダメージはあまり期待できないだろう。
何よりカッターナイフ同様刃が弱い。
ロイは自分の剣、今まで背中にしょっていた大きな両手剣の整備をしている。
刃を研いでから剣の整備専用のオイルらしき液体を塗り布で、それを伸ばしながらふき取っている。
そうすることにより切れ味が増すそうだ。
整備をするロイの顔が真剣そのものだ。本気で負けないように努力しているのだろう。
先ほど言っていた『女の子たちに名前を覚えさせる』と言うことばを実現させようとしているに違いない。
そりゃ、アレだけのギャラリー(見物人)がいたらみっともなく負けるわけにはいかねえよな。
ここの控え室に入る前に、俺たちは闘技場を見に行った時だった。
闘技場は意外と広くサッカー場ほどの広さがあり、観客席らしきものがバトルフィールドを囲っている。ちょうどヨーロッパのコロセウムみたいな感じのものだ。
その観客席には沢山の人が座っていた。まるで何かのショーを見るかのように笑いながら語っている。
きっと誰も俺たちが勝つなんてこれっぽっちも考えていないのだろう。
ロイの情報によると、闘技場の裏では誰が勝つかを当てるゲーム(賭け)をやっているらしく、オッズ(倍率)は相手チームが1.03倍で俺たちが3.65倍だと。
今のところ俺たちの方を選んだのは、知学の生徒2人だけと言っていた。
ずいぶんと甘く見られたもんだな。
それのせいではないが、この状況を見てロイ同様に俺もやる気が出てきた。
始めは嫌だったが、これで勝てればこの世界で主席デビューという輝かしい栄光が待っていると思えばいいか。
「センヤ、準備は良いか?もう時間だから行くぞ。」
左の胸から手にかけての鎧らしきものをまとい、それ以外には何も防具を付けずに剣を持ち上げながら俺に確認する。
「ああ、ばっちりだ。よし、行くか。」
俺はもっとひどく、防具類は一切身に着けていない。きているのは学ランだけだ。
火薬玉の玉を装填したハンドガンと鉛玉装填のマシンガン。ナイフに倉庫から持ってきたカッターソウドを持ち、闘技場の入り口の扉に向かう。
「言っておくが俺も雑魚じゃない。センヤならないと思うけど、俺の足を引っ張ることはするなよ?」
「大丈夫とは言い切れないな。何せ初めての戦いだからな。」
「アハハハ、それなのにその自信はスゲーな。」
ロイは笑いながら『気楽に行こうぜ、どうせ負けるのは確定してんだから精一杯戦おう』などとカッコイイ台詞を吐いて、自分自身の頬を両手で2度叩いた。
彼自身の気合の入れ方だろう。
そして、闘技場に入る。
マサ、俺たちの戦争ゴッコの成果をここで見せてやるぜ。
心の中で、この世界にはいない親友に話しかける。
それだけで少し心が落ち着いた感じがするから不思議だ。
大きな岩で作られた壁にある木で作られた扉を開け土ので出来た闘技場の土を踏む。
この何メートルも離れた先に、その最強コンビとやらがいる。
俺がこれから先、エレンの言う殺し合いをするなら
・・・・・
この戦いは負けるわけには行かない!
「行くぞおぉぉぉおぉ!」
「おおおぉぉぉおぉ!」
気合を入れるため二人して大きな声で叫んだ。
その声は闘技場ないに響き渡り、何秒間か耳に残っていた。
俺は、この世界に来て始めて戦いをしようとしている―――。
・・・・
今更ながら、そういえば俺エレンに名前聞かれたことねー。
ロイが言ってた話のとうり、自分より強いやつの名前しか興味ないようだ。
こうなったら地球の代表として、この戦いで勝って俺の名前を覚えさせてやるぜ!
次回は文が長くなるため前後編にする予定です。
感想などがありましたら是非お願いします。