第04話 救世主の朝
―目覚めたらそこは、知らない異世界だった―
なんてCMを流せそうなくらいの出来事に巻き込まれた俺だ。
今朝目覚めた時この部屋を確認して最後の希望『夢オチ』に賭けたのだが、その期待はことごとく裏切られてしまった。
何度も気絶してたからそれはないか。
夢の中まで何度も気を失うとあっては精神的な病を疑ってしまうので、これはこれでよしとすることにした。
「朝・・・か。」
部屋の窓からは太陽の光が差していて、そこに部屋の埃が浮いているのが見えた。
俺が来る前は結構な時間使われていなかったようだな。
ゆっくりと上半身を起こしてから両腕を上に伸ばして伸びをした。幸いなことに体にはどこも異常はないようだ。
「よし、全然大丈夫だな。」
ゆっくりとベットから起き上がり、自分の服装を見てみる。
昨日、戦闘着のまま寝てしまった事を思い出した。まぁ体には異常がなかったからどうでもいいか。
流石にずっとこれを着ているわけにはいかないか。
部屋の隅にあったリュックを持ち出し中身を探る。
「えっと、確か入ってるはず・・・・あった。」
俺が手に取ったのは、綿でできた黒い長ズボンと黒い革のベルト。タンクトップの白いシャツに白いワイシャツ。そして最後に・・・
「ここまで来てこれ着ることになるなんてな。」
それは学ランだった。
俺たちは学校の帰りにあの演習場の行ったので、学校の制服が入っている事は分かっていた。私服も一着なら入っている。
ちなみにこれらの荷物は全て、駅の大型コインロッカーにしまっている。
コインロッカーて便利だよな。
制服に着替えるため今着ている服を脱いで床においておき、ズボンとワイシャツを着た。
とりあえず学ランはい今着る必要がないため、机の椅子の背もたれにでもかけておく。
そして戦闘着に破損箇所が無いかチェックする。
「どうやらないみたいだな。」
何もしていなかったのでどこも壊れていないようだ。
「一応何がおきるか分からないからナイフとか装備していくか。」
何か単語がやたらゲームチックになってきたが気にしない。
コンコン
不意に俺の部屋のドアが叩かれた。
一瞬誰が来たか分からなかったが、俺の部屋に来るのはエレンくらいしかいないことが分かり、
「どうぞ。」
部屋の中に入れることにした。
「あら、もう起きていたのね。体の調子はどう?」
「ああ、悪くない。」
案の定エレンだった。
彼女は俺の服装を見て少し驚いていた。
「あなた、面白い物を着ているのね。」
「これ変か?」
結構不安になる。
「変ではないわ。むしろ似合っているわよ。」
「そう、か。」
制服が似合うと言われても嬉しくない。
「それで、何か用があったんじゃないか?」
「ええ、あるわよ。とっておきの事がね。」
不気味に薄笑いを浮かべたエレンの顔は、いかにも魔女らしかった。
嫌な予感がする。
「今日から貴方も私の通う、訓練所の訓練生になるのよ。正確に言えばもうなってるわね。」
「は?」
く、訓練所?
頭の中には軍隊やら自衛隊やらの訓練風景画映る。
実際に見たわけではないが、映画やテレビでは何回も見た。厳密に言えば、マサに何度も見せられた。
マサは『俺たちが強くなるには、軍隊のまねをすればいい。』とかいって真剣に見ていたが、結局何一つ試さなかったっけな。
「訓練所って・・・訓練所?」
「そうよ、訓練所。」
「何を訓練するんだ?」
「何を当たり前な質問してんのよ?そんなの誰でも知ってるわよ。」
いや、俺知らないから。
「俺が知るわけ無いだろ。」
エレンは小さくため息を吐いてから、少々めんどくさそうに話し始めた。
「時間が無いから手短に話すわね。訓練所は主に二つの棟があって一つが【知学の棟】でもう一つが【武学の棟】よ。知学の棟では、私たちのような魔術師や魔法使いが魔法の勉強や実習、模擬戦などをしていて、武学の棟ではソルジャーやナイトが武術の稽古したり戦術を勉強したり、模擬戦や色々な派遣に行ったりするのよ。ここまでは分かるわよね?」
「もちろん。」
「それで私は当たり前ながら知学の棟に通っていて、貴方は武学の棟に通うようになるわ。」
「俺は一言も良いと言ってないけど?」
俺に拒否権は無いのか!
「これはここの世界に住む人の義務なのよ。6歳から20歳になるまでは訓練所で訓練を受けなければ行けないのよ。」
「そう、なのかよ。」
どうやら俺に拒否権は無いらしい。
「でも、召喚された救世主が訓練所に行くなんて前代未聞なんだけどね〜。」
「なぜだ?」
俺だけ?俺が始めてなのか?
ある意味では嬉しいが、訓練所なんて学校みたいなところには行きたくない。
ましてやこんな何が起こるかわからない世界の訓練所なんて、一体どんな無理難題を強いられるか分かったもんじゃない。
「普通救世主は死んだものを召喚するのよ。それも生きていたころは腕の立つような人を。だから、そんな人たちが20歳前に死ぬなんて事はほとんどないでしょう?」
「それは、まぁそうか。」
「それでも貴方は死んでないし、強いかどうかも分からないただの少年なんだから訓練所で訓練するのは当然でしょう?」
「確かに、そうだな。」
後半部分の俺が弱いみたいな言い方が少し気に入らないが、エレンの言っていることは正しい。
「分かったわね?貴方は今日から訓練生よ。」
「訓練所の名前とか無いのかよ?」
「あるわよ。」
少し間をおいてから、
「正式名称は【王国立スロットン第1訓練所】よ。この世界の中でも一番大きくて立派な訓練所よ。あなたもそんなところに入れる事を感謝して欲しいわ。」
マジで軍隊みたいだな。
「それで?俺はこれからどうすればいいんだ?」
「とりあえず、転入生は実技試験と戦術試験。最後に模擬戦で各クラス内の順位決めかしらね。順位は半分より少し上くらいならいいけど、それ以下なら許さないわよ?」
「そういわれてもな。」
何か許す許さないの問題ではないきがするけど。
「さて、話も終わったことだし早く準備しなさいね。それが終わったらこっちにきて朝ごはんを食べてから訓練所に向かうわよ。」
「はいはい。」
そういうとエレンは部屋から出て行ってしまった。
全くみがってな奴だ。大体準備って言っても特にすることが無い。
せいぜいナイフを磨いたり、銃に弾詰めたり(偽物のため玉はBB弾or直径6mmの鉛球)マシンガンのバッテリーを充電するし事しかない。
だが、ナイフの手入れはもう済んでいるし、違法改造している銃とはいえフライパン程度の鉄を貫通するしか力がないので、鎧などには歯が立ちそうもないし、ここにはコンセントが無いからバッテリーの充電も出来ない。
「どうしたもんかな?」
考えていても時間の無駄だな。
もうこれは準備万端といってもいい状況なので、早速朝飯を食いに行くことにする。
こっちの朝飯はいったいなんだろうな?
そんなことを楽しみにしている俺がいた。
訓練所はいったいどんなところなんだろうか?