悪役令嬢を誅せよと馬鹿王子に助言した側近の顛末
「殿下、追放だけでは足りません。公爵令嬢を誅しましょ!」
俺はリヒター。王太子殿下の側近である。
伯爵令息であるが、運良く側近候補になれた。
「リヒター、そこまでやる必要はないぞ」
「そうよ。マーデル様の命まで取る必要はないわ」
「公爵令嬢が市井に出される。それは死刑と同じこと。殿下たちは死刑を宣告したことに等しいのです。
ならば、公爵令嬢を利用する者が絶対におりましょう。
禍根を残さないために・・・」
「ええい。もう良い。リヒターは黙っていろ」
「ならば、国境封鎖の大命を出して下さい。陛下を帰国させません。今、この国のトップは殿下です。宰相閣下は軟禁させます」
「父上を!貴様、言うに事欠いて!」
「こうなったら王を退け殿下を擁立するしかございません!王妃殿下には離宮に移って頂きます。デイジー様を王妃として擁立するにはそれしかございません」
「・・やっぱりそこまでやる必要はない」
「大丈夫だわ。王都市民が大歓迎すれば陛下も分かって頂けるわ」
確かにこの2人は王都市民に人気があるがそれだけだ。
また、大丈夫、そこまでやる必要はないか?
仕方ない。公爵令嬢を誅しよう。
「ゼム、刺客を放ち公爵令嬢を誅せよ」
「若、畏まりました」
あの女は危険だ。王家の血を引き。在野の貴族の血も引いているクーパー公爵家だ。
どちらの旗頭にもなる。利用価値の高い女だ。
殿下が公爵令嬢を所望しないのならのぞくべきだ。
だが、失敗の報告が来た・・・・
「若、公爵令嬢は行方不明になりました・・・」
「何だと!冒険者ギルドも探したのか?」
「・・・消息を絶ちました。平民は自ら河に身を投げたとうさわしています」
「それは偽情報だろうな・・・」
そして、陛下が帰国し。
『おお、真実の愛か?良いぞ』
とはならずに。
「余の決めた婚約者に異議を唱えるとは、ヘンドリックよ!北の塔に幽閉だ」
「そ、そんな父上!」
「女は修道院行きじゃ」
陛下の裁断が決まった。
だってそうなるだろう。
寸での所で殿下をお救い申し上げた。配下のゼムに身代わりを命じた。
「すまぬな」
「若こそ、どうなるか分かりませんよ」
デイジー様は既に修道院に行く前に病死した。恐らく舌を噛み切ったのだろう。
我が子にここまでやるか?
いや、婚約は貴族派との和解の象徴だった。
陛下の顔を潰されたのだ。
貴族は名誉で食っているか・・・・
その後殿下は側近候補達と野を彷徨った。
俺は進言した。
「殿下!我が領地にお越し下さい。そこで兵を集め数ヶ月も戦えば誰かが挙兵をするかもしれません。檄文を飛ばし引っかき回します!」
「リヒター・・・の領地?山城だろ・・・が、グスン、デイジー・・・」
「亡くなった方を気にしても仕方ありません」
「どうして、リヒターはデイジーを助けてくれなかった!」
「殿下、間に合いませんでした・・・」
これは躊躇した。配下の女カゲを身代わりにするには・・・行き先は修道院という名の売春宿だ。生き地獄をさまよう。どびっきりの変態が集まる場所と聞く。
殿下の身代わりならば殺されるだけですむ。
俺も甘いな。
だが、俺の意見に異を唱える者がいた。ドルク侯爵家のヘンリーだ。
「殿下!リヒターは新参です。信用に置けません。私の領地にお越し下さい」
「ヘンリー?」
「はい、豊かな商業都市群があります。そこに籠もれば陛下も攻略を諦めざる得ないでしょう」
「お、お待ち下さい。陛下は容赦する方ではございません!それに新参だからこそ一族で殿下にかけたのです!」
「グスン、ヘンリー・・・は代々の忠臣だった」
「そうです。見目麗しき令嬢が多くおります。妃をお探しできますよ」
「お考え直し下さい!」
殿下はヘンリーの意見を採用した。
屋敷を用意されて暮らしたが、やけに塀が低い。
まさかと思ったら。
呆気なく・・・
「ヘンリー!裏切ったか!」
屋敷を兵に囲まれた。ヘンリーの兵だ。
「殿下、元々、裏切っておりません。心から臣従しておりませんから・・」
「殿下、お下がり下さい!」
俺はわずかな友達に抵抗を命じた。
「頼む。俺は殿下と奥に行く」
「是非も無し。リヒターの策を用いていれば・・・」
「女神様の思し召しだ・・ケビン、今まで有難う」
殿下は泣いてばかりおられる。
「グスン、グスン・・・リヒター、策を言え」
「はい、一つございます」
「何だ・・・」
「実は我が家門の家宝には転移魔法の魔道具がございます」
「おお、伝説の?早く言え。どうして今まで言わなかった!」
「申訳ございません。この術には行きたい場所を強く思い浮かべなくてはいけません」
「おお、そうか・・」
「目を閉じ想像して下さい。安寧と平和に満ちた世界を・・・」
「デイジーの姿しか思い浮かばない。少し・・・」
ここで殿下の首をお斬りした。
コロンと床に転がり。しばらく瞬きをして息絶えたようだ。
「デイジー様の御許に行けますように・・・」
さて、俺は屋敷に火を放ち。
抵抗している友の元に行く。
殿下の首は取らせまい。
「かかってこい。リヒター・ブッカーだ!」
・・・・・・・・・・・
それから記憶にない。
牢に入れられた。
この乱で俺だけが助かったのだ。
囚人馬車で一月かけて王都に送られた・・・
「こやつがリヒター・ブッカーか?」
ボロボロの衣服に糞尿の匂いがする姿で王城前広場に引き出された。
「既に領地には兵が向かっておるぞ!」
近くに処刑人達がいる。
そうか、今日が死ぬ日か。
陛下の隣に公爵令嬢マーデル様がいらっしゃる。
陛下は腰に手を回している。
「見よ。マーデルを殺そうとした男だ」
「ええ」
「王太子がいなくなった。妃となり余の子を産め。次の王妃だ」
「陛下・・・その前に・・・」
もう、無茶苦茶だ。王妃を廃して息子の婚約者と結婚するのか・・
狂王をのぞけ。それが俺たちの願いだった。
ヘンドリック殿下はマシな部類だった。
是非もなし。
「な、何をする!」
「陛下、お休み下さいませ・・・」
公爵令嬢がパチンと扇を閉じるとそれに呼応したように兵が動く。あの家門は公爵家だった。
「すでに、王都には陛下の味方はおりませわ」
「ワ、わしをどうする!」
「北の塔でお休み下さいませ」
「マーデル、余を愛しているのではなかったのか?」
「大人しくしたら未亡人を派遣しますわ・・・・陛下をお連れしなさい」
俺は助かったらしい。
「リヒター・ブッカーね」
「はい・・・」
「貴方の策はあながち間違っていなかったわ。領地に籠もって戦って時間を稼げば立ち上がる貴族はいたわ。我が家門とダイナー侯爵家も立ち上がったわ」
「何と・・・」
「貴方、これから軍を率いて一部将として戦いなさい」
「しかし、貴女を誅しようとした男ですよ」
「だからよ。信用は出来ないけど有能な敵、目的が一緒の間は共闘出来るわ」
それから俺はヘンリーの領地の討伐に向かった。
すぐに降伏を申し出るだろう。そしたら許さなければならない。また不穏分子が跳梁跋扈する。
だから、策を講じた。
「ドルク侯爵家に噂を流せ。王国軍は優勢であるとな」
「畏まりました」
包囲して外と遮断して情報を操作する。
偽の情報を流した。
もうすでに近衛騎士団もマーデル様についた。女王に即位か?
クーパー朝の誕生が近い。
そして・・・
「リヒター!降伏する!助けてよ。学友の馴染みでしょう!公爵令嬢につくよ!」
「新参者は信用おけませんからな。火を放て!」
領主館を燃やした。
これで友とヘンドリック殿下、その身代わりになったゼムの供養になるか?
立ち上がる煙を見て手を合せた。
・・・その後、リヒターは何故か新政権で重用され、生涯裏切らなかったと云われている。
最後までお読み頂き有難うございました。




