プロローグ
ここには陽の光なんてないのに、なぜかやけに明るい。
土や草の匂いはしない。鳥のさえずりも虫の音も聞こえない。空気が流れる気配すらない。
真っ白なこの空間には、「自然」と呼べるものが一つもなかった。
感受性のある生き物なら、本来は息が詰まるほど重くて、しんと死んだように感じるはずだ。
――なのに、ここに足を踏み入れた者はみんな、不思議と安心して、心がすっと落ち着いてしまう。
コツ……コツ……
白いローブをまとった少女が、白一色の廊下を歩いていた。
夕暮れの麦畑みたいな金髪の長い髪、エメラルドのような翠の瞳。神聖な気配をまとっていて、地味な格好でも目立ってしまうくらい整った顔立ちだ。
少女は本を数冊と書類の束を抱え、少し急ぎ足になっている。
「はぁ……」
長い溜め息。疲れなのか、悩みなのか――たぶん、その両方。
「『あの世界』の『浄化』に取りかからなきゃだし……しばらくまた忙しくなるわね……」
独り言をこぼしながら長い廊下を抜け、角を曲がった、そのとき。
彼女は一人の男とすれ違った。
深海みたいな真夜中の藍色の髪をした男は、少女を見るなり、妙にねっとりした足取りでそっと近づく。生気のない、死んだみたいに暗い肌と、その不自然な動きが合わさって、ぞっとする絵面だった。もし冒険者が見たら、反射的に弓を引いて「怪物」へ矢を放つだろう。
「怪物」は少女が気づかないまま、すぐ横まで来る。
腰を折り、わざと身を低くして、少女と同じ目線の高さに頭を合わせた。気配を消すのがやたら上手いその男は、口元を彼女の耳元へ寄せ、彼の口元から、空気の震動が波のように拡がった。
「忙しそうだね、ベネレース」
「ひゃあっ……!」
不意打ちの悪戯に少女は悲鳴を上げ、抱えていた本と書類はバランスを崩して床へ散らばった。
一拍遅れて我に返ったベネレースは、しゃがみ込み、黙々と落ちたものを拾い集める。
「それはよくありませんよ、バウド様。私たちは神なのですから、模範であるべきです。そういう悪戯は、あなたの格を落とします」
力のない口調は、何度も何度も繰り返してきた注意みたいで――あるいは、単に元気がないだけかもしれない。
「また『浄化』ってやつを始めるのかい?」
「必要な仕事です」
バウドと呼ばれた男に、金髪の少女は短く返す。彼が本当に聞きたいのは、そこじゃないと分かっていた。
「必要なんかじゃない。ただの君の執着だろ」
ベネレースは答えない。
散らばったものを拾い終えると、女神は目的地へ向かって歩き出した。背後の不真面目な神に、見送りの言葉すら与えない。
その冷たさに、バウドは笑った。
獲物を見つめる狩人みたいに、あるいは機を待つみたいに、彼女の背中をじっと追う。そして距離のせいで獲物が「消える」直前、狩人はまた口を開いた。
「知ってる? ベネレース。前に君が気に入ってた転生者、ろくでもないことをしてるよ」
無視を続けていたベネレースは、「転生者」という言葉を聞いた瞬間、ぴたりと足を止めた。
かすかな不安を滲ませて振り返り、声の主を見る。
「……どういう意味ですか?」
その表情がよほど楽しいのか、男の笑みはじわじわ歪んでいく。
「地下賭博、強制売春、ドラッグ、窃盗、略奪、殺人――君が『悪』だと嫌ってたものが、また『エルゼアス』に戻ってきた。しかも全部、あの転生者の仕業だ」
パサ……
さっき拾ったばかりの本と紙が、また床に落ちた。
違うのは――今度は、持ち主が拾おうともしないこと。
ベネレースはその場で固まり、驚愕の表情のまま凍りついた人形みたいになっていた。
「……どうして……?」
まずはここまで読んでくれたみなさん、ありがとうございます。
作者の私は外国人で、日本語はまだまだです。いったん別の言語で物語を書いてから、AIの翻訳ツールで日本語にしているので、ところどころ読みにくかったり、変に感じる部分があるかもしれません。そこはどうか大目に見てもらえると助かります。
それでもわざわざ「小説家になろう」に投稿している理由は、みなさんと同じです。日本の文化が好きで、アニメが大好きで――いつか自分の作品もアニメになったらいいな、って思っているからです。
以上です。




