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『お題のmonogatary』―どこに向かうか誰もわからないー ストーリーは『今後のお題』しだい  作者: もとき未明


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3.18 アンタッチャブル

monogatary.com 2026年3月18日のお題『「この占い師絶対に信用できないな」なぜそう思った?』について投稿したものです。



 ナミは、占いというものが嫌いだ。


 曖昧な言葉でそれっぽいことを並べて、勝手に納得させる。

 ああいうのは全部、自分の足で立つことから逃げている人間が縋るものだと思っている。


「行こや、ナミさん」

 そう言い出したのは、若杉だった。

「は? なんで私がそんなもんに行かなあかんの」

「いや、なんか最近この辺で当たるって有名らしくて。ネタ的にもおもろいやん」

「ネタて。あんた、暇なん?」

 呆れながらも、結局ついてきてしまった自分に、ナミはさらに呆れる。


 小さな雑居ビルの二階。

 妙に静かな扉の前で、ナミは一度だけため息をついた。

「絶対、当たらへんからな。一分で出るで」

「はいはい、わかってますって」

 軽い返事に、ナミは少しだけ眉をひそめる。

 ――ほんま、どこまで軽い男や。


 中に入ると、薄暗い部屋に机がひとつ。

 その向こうに、年齢のよく分からない女が座っていた。

「どうぞ」

 静かだが、妙に通りが良い声だった。

 若杉が先に座ろうとしたのを、ナミは手で制した。

「私からでええ?」

「お、珍しいっすね」

「別に。さっさと終わらせたいだけ」

 椅子に座ると、占い師はナミの顔をじっと見つめた。


 数秒。

 無言のまま。

 深淵を覗き込むような視線だった。

「……なに。私の顔になんか付いてる?」

「いえ」

 ふっと、占い師の口元だけが緩んだ。

「あなた、本音を言うのが苦手ですね」

「は?」

 ナミは即答した。

「そんなん、誰でもそうやろ」

「そうでもありませんよ」

「いや、そうやって誰にでも当てはまること言うて、煙に巻いてるだけやろ」

 ナミが少し強めに返すと、占い師は否定も肯定もしないまま、淡々と続けた。

「……言えなかった言葉、最近ありますよね」


 ――一瞬だけ。

 本当に、心臓が跳ねた一瞬だった。

 言葉が、喉に詰まった。

「……はあ?」

 すぐに吐き出す。

「ないわ、そんなもん。私は言いたいことはハッキリ言うタイプや」

「そうですか」

 占い師は、拍子抜けするくらいあっさり引いた。

 けれど、そのあとに続いた独り言のような言葉が、やけに耳の奥にこびりついた。

「でも、言わないままでいると、あとで困るのはあなたですよ。……そして、隣にいる彼も」


 ナミは、反射的に視線を逸らした。

 ――こんなんは、誰にでも当てはまる心理のトリックや。

 そういう言い方をしてるだけだと、自分に言い聞かせる。

「ほら、やっぱり適当やん」

 わざとらしく鼻で笑ってみせる。

「そんなん、誰でも一個くらいあるに決まってるやろ」

「えー、でもナミさん。今ちょっと、まばたき増えましたよね?」

 横から若杉が、空気を読まずに口を挟んでくる。

「してへん」

「いや絶対――」

「してへん言うてるやろ!」

 被せて切る。

 それ以上、その領域に触れられたくなかった。

「……まあ、いいでしょう」


 占い師はそれ以上は追わなかった。

「あなたは、強い人ですから。強いから、言わなくても平気なふりができてしまう」

 また、ほんの少しだけ言葉に詰まる。

 けれど今度は、表情には出さない。

「……もうええわ」


 ナミは勢いよく立ち上がった。


「時間の無駄やった」

「お、お金払わんでいいんすか」

「払うわボケ」

 財布から乱暴に札を数枚出して机に置く。

「ほら、これでええやろ」

 占い師はそれを受け取って、特に何も言わなかった。

 ただ、背を向けたナミの後頭部に、最後の一撃を投げた。


「言葉は、タイミングを逃すと重くなりますから。……今のうちに、軽くしておきなさい」


「……っ」


 ナミは何も返さず、若杉の腕を引くようにして部屋を飛び出した。


「信用できん。絶対、インチキや」

 階段を駆け下りながら、ナミは何度も繰り返す。

 あんな言葉、絶対に信用したくない。

 

 信用してしまったら、今すぐ隣の男に、もっと恥ずかしい言葉を伝えなあかんくなるからだ。


――ほんま、言わせんなよ。



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