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タクヤとゆかいな仲間たちが紡ぐ『お題のmonogatary』―どこに向かうか誰もわからないー  作者: もとき未明


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76/84

3.17 言わせんなよ、ほんま

シェアードユニバース短編シリーズの第76話

一話だけでもお楽しみいただけます♪

三人称神視点の回



 若杉は、だいたい空気で生きている。


 深く考えず、その場が笑えればそれでええ、みたいな。

 そうやって、適当な軽口を建てにして生きてきた。

 今日も、いつも通りの調子でナミに声をかけた。


「ナミさん、今日なんか機嫌ええっすね。もしかして、昨日より俺のこと好きになりました?」

「……は?」

 低い。

 奈落に落とされたときみたいな、嫌な既視感のある低さだった。

「いやいや、冗談っすやん。いつもより優しい顔してるなーって」

「そんなこと言わないでさ」

 ぴしゃり、と拒絶が飛んできた。


 若杉は一瞬、言葉の行き場を見失う。

 ナミがこういう返しをするとき、大体はノリで返してるだけのはずだ。けど今のは、肌に突き刺さる質感が違った。

「……え、どゆことっすか」

「別に。軽く言うなってだけ」

「軽くって……いや、軽口はいつもじゃないですか」

「だからやろ」

 間髪入れず返される言葉に、若杉は内心でブレーキを踏む。

 けど同時に、いつもの悪い癖でアクセルも踏んでしまう。

「えー、でもナミさん、そういうの嫌いじゃないタイプでしょ? なんやかんや構われるの」

「……」

 ナミは答えない。

 ただ、少しだけ視線を逸らした。

「ほら、図星」

「ちゃうわ」

 被せ気味に否定が飛んでくる。

「そういう決めつけ、ほんまやめて」

「決めつけって……」

「自分が楽なほうに解釈してるだけやん」

 言い方はきついのに、声は少しだけ揺れていた。

 若杉は、そこでやっと気づく。


 ――あ、これ冗談ちゃうやつや。


「……ごめん」

 反射で出た言葉に、自分でもちょっと驚く。

 普段の自分なら、ここでまだ笑いに逃げる。

「別に謝ってほしいわけちゃうし」

「でも、なんか……あれやろ。軽く扱われたみたいで嫌やった?」

「……」

 ナミはまた黙る。

 けど今度は、拒絶の沈黙ではなかった。

「……そういうとこやねん」

「え?」

「なんで一回で当ててくんの。腹立つ」

「いや、当てにいったわけじゃ……」

「そういうの、ちゃんと考えて言ってよ」

 小さく息を吐く音が聞こえる。

「こっちは、ちょっとは考えて喋ってんのに」

 その一言で、全部つながる。


 若杉は、そこでようやく理解する。

 ――ああ、なるほど。自分はずっと、“適当でも成立する距離”に甘えてたんやな。

「……ナミさん」

「なに」

「俺、そんなにちゃんと喋れてないっすよ。基本、空回りっす」

「知ってる」

「ですよね」

 思わず苦笑いがこぼれる。

「でも、あれですわ。ナミさんのこと、雑に扱ってええとは思ってないっす。むしろ逆というか……」

 そこまで言って、言葉に詰まる。


 ――あかん、ここ大事なとこや。


 若杉は後頭部をガシガシと掻いた。

「……ちゃんとしたこと、言わせんなよ」

「は?」

「俺、そういうキャラじゃないんで、めっちゃ恥ずいっす」

「知らんわ」

 即答やった。

 でも、さっきよりずっと声が柔らかい。

「……まあ」

 ナミが小さく肩をすくめる。

「一回くらいなら、聞いたるけど」

「え、ハードル上げるやんそれ」

「自分で振ったんやろ」

 くるっとこっちを見る。

 真っ直ぐで、逃げ場のない目。


 数秒の沈黙。

 若杉は観念して、腹の底から言葉を絞り出した。

「……雑にしたくないっすよ。ナミさんのことは」

「……うん」

「だから、さっきのは普通にミスりました」

「うん」

「すんません」

「うん」

 三回目の「うん」は、ちょっとだけ笑っていた。

「……しゃあないな」

「許してもらえました?」

「別に怒ってへんし」

「いや、さっきまでシベリアの寒波来てたっすよ」

「怒ってへん」

「いや絶対――」

「もうええって」

 軽く遮られる。

 でもそのまま、ナミは少しだけ視線を逸らして。


「……そんなこと言わないでさ」


 今度は、さっきよりもずっと熱を帯びた静かさで言った。

「ちゃんと聞きたいときも、あるんやけど」

 若杉は、ちょっとだけ笑う。

「……了解っす」

「軽い」

「いや、ちゃんとっすよ」

「ほんまかいな」

「ほんまほんま」

 ナミは疑うようにこちらを見て、それから観念したように小さく息を吐いた。


「……まあええわ」

 そう言って歩き出す背中は、いつも通りで。

 でもたぶん、さっきまでより少しだけ距離が近い。


 若杉はその後ろを、少しだけ慎重に追いかけた。


 ――ほんま、言わせんなよ。



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