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『お題のmonogatary』―どこに向かうか誰もわからないー ストーリーは『今後のお題』しだい  作者: もとき未明


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3.14 ブラック&ホワイト

monogatary.com 2026年3月14日のお題『ダークファンタジー』について投稿したものです。



 タクヤ、三十三歳。

 大阪歴十年。いまだ大阪弁は練習中。

 独身やけど、独り暮らしはそろそろ終わりかもしれん。


 待ちに待った『ホワイトデー』。

 そして、新潟『津南の雪まつり』へ出発だ!

 若干、空模様が気にかかるけど、例年より気温が下がらないのは車中泊の身にはありがたい。


 早朝の高速道路を、高鳴る鼓動をエンジン音に紛れ込ませて走らせる。

 助手席のミサキは、途中で買ったコーヒーを両手で大事そうに抱え、ぼんやりと窓の外を見ていた。

 灰色の空から、時おり雪なのか雨なのか判別のつかない欠片が舞い降りてくる。

「……疲れてへんか? 運転代わろうか」

「平気や。こういう知らない道を行くドライブ、嫌いやない」

 そう言って、俺は小さくあくびをした。

「説得力ゼロやな」

「うるさい。これはリラックスしてるだけや」


 長野に入ったあたりから、道路の脇に積もった雪が目立ち始めた。

 大阪では絶対に見られない景色や。

「おお……ほんまに雪国やな。川端康成の世界や」

「テンション上がってるやん」

「そりゃ上がるやろ。雪まつり初めてやし」

「ウチもや」


 指定の駐車場に車を停め、降りた瞬間、空気が刃物のように肌を刺した。

「うわ、寒っ……! 冷凍庫の中に放り込まれたみたいや」

「大阪の冬とレベル違うな。吐く息がもはや煙やんか」

 一度外で大きく背伸びをしてから、夜に備えて車内を整える。

 寝袋と毛布を敷き詰め、秘密基地のような空間を作ってから会場へ向かった。


 シャトルバスを降りると、そこには非日常が広がっていた。

 雪の壁に灯る松明、屋台から上がる湯気。

 ミサキの希望で、スノーモービルが牽引するバナナボートにまたがった。

「これ、バナナやん。スノーモービルとちゃうよね」

「ええやんか、引っ張ってるのはモービルや。タンデム乗車は予約で埋まってたんやから堪忍して」

 雪原を爆走し、かまくら神社で二人の無事を祈り、露天市を冷やかして歩くうちに、夜のとばりが降りてきた。


 広い雪原の中央に、ランタンを手にした人々の群れができる。

「ウチらも、ランタンもらいに行こっ!」

 ミサキに手を引かれ、交換の列に並ぶ。

「……これが願いを飛ばす灯りか」

「タクヤ、早うお願い書きや。筆跡で性格出るらしいで」

「ミサキが先でええよ」

「ええんや。ウチの願い事は母船への機密事項やから、誰にも見られたらあかんの」

 まだその設定でいくんか、と苦笑しながら、俺は一言だけ書き込んでミサキに渡した。

 彼女はそれを見て、「ふふっ」と悪魔的な、でもどこか愛おしい笑みを浮かべた。


 合図とともに、ランタンに火が灯る。

 じわじわと膨らむオレンジ色の熱気。


 カウントダウンが、雪原に響き渡る。


「さん!」


「に!」


「いち!」


 いっせいに、数千の光が漆黒の空へと放たれた。


 曇り空の闇の中へ飛び立つ無数のランタン。

 風がないおかげで、それは意識を持つ生き物のように、ゆっくりと空の奥へ昇っていく。

 まるで夜空に無数の穴が開き、そこへ魂が吸い込まれていくような……美しさと同時に、底知れぬ恐怖を感じさせる光景だった。

 このまま世界の果て、暗黒の世界へ連れ去られてしまうような。


「……まるでブラックボックスに、全部吸い込まれていくみたいやね」

 ミサキがポツリと、夢遊病者のような声で言った。

「今日はホワイトデーやからな。あれは全部ホワイトホールや。その先にはきっと、もっと明るい世界があるんやろ」

「ぷっ。タクヤのファンタジー、斜め上すぎて笑えるわ」

「ええやん。ブラックホールの反対が、希望の出口のホワイトホールや」

「知らんわ。物理の話かい」

 ミサキもランタンを見上げる。

 雪原は真っ白。

 空は真っ黒。


 その境界線を、命の粒のような光が漂っている。


「なぁ、タクヤ」

「ん?」

「もしほんまに、あそこに異世界の入り口があって、ウチがふっと吸い込まれて消えたらどうする?」

 また、ミサキの突飛な問いかけだ。

「……そら、追いかけるしかないやろ。一人だけ異世界で無双するとか、ズルすぎるし」

「理由、そこなん? もっとこう、愛の力で助けるとかないの」

「それにな」

 俺は空を見上げた。

 ランタンは、もうほとんど見えなくなっている。

「入り口があるなら、帰り道もあるはずや。ミサキが迷子になっても、俺が迎えに行って、またこの星まで連れて帰ったるわ」


 ミサキは一瞬だけ黙り、それから雪のように柔らかく笑った。

「……まあ、ええか。タクヤやったら、次元の壁も大阪弁で突き破ってきそうやしな」

「どんな怪物扱いやねん」

「ほら、見て」

 ミサキが指さした先、まだひとつの光が、しぶとく闇の中で揺れていた。


 真っ黒な空の中で。

 真っ白な雪の世界の上で。

 

 ――ブラックとホワイトの境界線あいだで。


 それは俺たちの明日を照らすように、いつまでも闇の中で揺れていた。



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