3.13 輝く何かが誰にでもある
monogatary.com 2026年3月13日のお題『流行歌』について投稿したものです。
タクヤ、三十三歳。
大阪歴十年。いまだ大阪弁は練習中。
独身やけど、独り暮らしはそろそろ終わりかもしれん。
今日は、明日からの新潟旅行に向けて、ミサキと荷造りの真っ最中だ。
夕方前には新潟に到着して、イベント後は車中泊の予定やから、寝袋やら防寒着やらで、普段の旅行より装備がだいぶ増えている。
「タクヤ。……これ、本気で持っていくん?」
ミサキが、俺のボストンバッグの底から『人生ゲーム』の箱を引っ張り出して言った。
「ああ。夜、車の中で時間持て余さんようにと思ってな。ほら、山の中やと電波も怪しいし」
「あんなぁ、ただでさえ荷物パンパンやのに、こんな場所取るもんいる?」
「車やから、多少は大丈夫かなぁって……」
ミサキが呆れ顔でため息をついた。
「そんなこと言うてるから、荷物が多くなんねや。寝る場所なくなるで。却下!」
無情にも、ゲームの箱は本棚の隅へと片づけられた。
それからもミサキは、俺が「念のため」と詰め込んだ予備の予備を仕分け、次々と元の場所へ戻していく。
「ふんふん、ふふーん♪」
当の本人は、鼻歌まじりで実に楽しそうや。
「それ、何の曲なん? テンポ速いし、音階も激しく上下してるやん。鼻歌にしては難易度高すぎひんか?」
ミサキが作業の手を止め、パッと顔を輝かせた。
「知らへんの? 今、街中でかかりまくってるやん。『嵐』のラストシングル、『Five』や」
「ああ、ラストツアーが始まったんやったか」
「せや。ウチも気合入れてチケット応募してんけど、見事に全落ちや。倍率、銀河系レベルやったわ」
ミサキが『嵐』のファンやったとは知らんかった。
……自分が“嵐”みたいな性格やから、シンパシーでも感じてるんやろうか。
「なんや、妙にニヤついてるな。変なこと考えたやろ」
「いや、別に……。ミサキも流行りに乗るんやなと思うただけ」
ミサキの目は疑いの色のままだったが、話題を変えてくれた。
「タクヤの中で流行りの曲は何やの? 浪曲とかいわんよな」
「失礼な! 俺はジャンル問わず何でも聴く。ただ、世間のランキングとかは、ようわからん」
「そんなもんか。つまらんなぁ」
「期待はずれで悪かったな。あ、でも俺の人生の中でずっと『チャート一位』の曲ならあるで」
「なんや?」
「竹内まりやの『人生の扉』や」
「えらい渋いの出してきたな」
「ええやんか。俺の中では、この曲が永遠の流行りなんや」
「へぇ。なんか思い出でもあるん?」
「思い出っちゅうより、『思い入れ』やな。これが流行ってた中学生の頃、英語部分の歌詞をちゃんと和訳してみたら、俺の心にクリティカルヒットしたんや」
「どんな歌詞やったっけ?」
「二十代や三十代の人生が楽しいのんは当たり前やけど、
五十代になっても、八十代になっても……、
『素敵なことは形を変えながら、いつでも誰にでも生きる価値としてそこにある』
っていう内容や。それを知って、老いていくんも悪くないなって思えたんよ」
ミサキは手を止め、少しだけ優しい目をして俺を見た。
「……なんや、それ。『嵐』の『Five』にも、似たようなフレーズあるで。
『幸せのかたちは少しだけ姿を変えて、いま同じ時間を刻んでいる』ってな」
「え、そうなん! 今度ちゃんと聴いてみるわ」
――いつの時代も、前向きになれる歌が流行るんやな。
『解散』とか『ラスト』なんて、普通は後ろ向きな言葉やのに。
それでも、積み上げてきたものを抱えて、笑顔で次の扉を開けようとしてる。
あの人らも。
そして、俺の隣で寝袋をたたんでいる、この“嵐”みたいな女性も。




