3.11 次回予告! 宇宙人vs異能人
monogatary.com 2026年3月11日のお題『ミュータント』について投稿したものです。
若杉がスマホを睨んでいるときは、大抵ろくなことがない。
午前の休憩時間に喫煙所へ行くと、若杉が一人、スマホ片手にタバコをくゆらせていた。
何故だか、ふいに「禁煙しなきゃな」と思ってしまった。
大切な誰かと長く一緒におりたいと思うと、自分の体も自分だけのもんじゃない気がしてくる。
若杉に気づかれないうちに退室しようとしたが、失敗した。
「あ、タクヤ先輩。ちょっとこれ見てくださいよ。氷河期ですよ!」
若杉が差し出したスマホ画面を覗き込む。
若杉『ホワイトデーに渡したいプレゼントがある』
彼女『いらない』
うん、まあ。会ったことはないが、若杉の彼女らしい、一切の無駄を許さない冷ややかな通常運転だ。
「彼女さんはあれか、『ヒエヒエの実』でも食べてる能力者か?」
「そんなワケない……はずですよ」
自信を持てよ。
「でも先輩、これ見てください。もはやアイスニードル並みの攻撃っすよ」
若杉がトーク画面をスクロールする。先週のログだ。
若杉『今日は寒いですね』
彼女『そう』
若杉『体調大丈夫ですか?』
彼女『大丈夫』
若杉『今度あったかい鍋でも』
彼女『熱いの苦手』
俺はスマホを返した。
「完全に氷タイプやな」
「ですよね?」
若杉は深刻な顔でうなずいた。
「俺、最近思うんすよ、彼女、ミュータントなんじゃないかって」
「ミュータント?」
「氷を自在に操る異能者っす。こう……俺が近づくと温度が二、三度下がる感じするんす。物理的に」
「それはお前のテンションが空回りして、周囲が冷え切ってるだけちゃうか」
「いやいや!」
若杉は必死に手を振った。
「こないだカフェ行ったんすよ」
「ほう」
「俺ホットコーヒー頼んだんす」
「うん」
「五分後にはアイスコーヒーになってました」
「それは盛りすぎや」
「マジっす!」
俺は少し考えた。
氷のミュータント。
……あり得なくもない。
この世には、ケチャップで「スキ」と書いて、母船に報告を入れる宇宙人だっているのだ。……たぶん。
「じゃあ、今度ミサキと対決させてみるか?」
「ミサキさんと対決?」
「ああ、ミサキもたいがいな……その、宇宙規模の感性の持ち主やからな」
「宇宙……」
「もしかしたら、彼女さんの氷を溶かすか、あるいは粉々に粉砕してくれるかもしれんで」
若杉の目が輝いた。
「ほんまですか! 少しでも可能性があるんなら、是非お願いしたいっす」
「わかった。ミサキに都合聞いてみるわ」
ミサキにLINEを送ると、秒速で既読がつき、即座に返信がきた。
『いつでもええで。今日はタクヤと先約あるから、明日やな』
「……」
若杉の視線が、ナイフのように痛い。
「どうした?」
「いえね。秒単位で返信があるLINEが羨ましいわけじゃないっすよ。……ええ、全然」
めちゃくちゃ羨ましそうやないか。
「明日なら都合つくらしいぞ。彼女さんの都合を聞いとけ」
「了解っす。今晩中には……いえ、明日の昼までには返事がくるハズっす」
そんなんで大丈夫か?
まあええ。宇宙人と、異能者のエンカウントは、俺も少し楽しみやな。
その日の夜。
若杉からLINEが来た。
『返事きました』
彼女とのLINEスクショが添えられていた。
俺は少しワクワクしながら開いた。
若杉『明日、俺の先輩の彼女さんと会わない?』
彼女『誰』
若杉『宇宙人っぽい人』
十分後。
彼女『興味ある 行く』
俺はスマホを見ながら、思わず吹き出した。
氷のミュータントが、宇宙人に食いついた。
さて。
どっちが強いんやろな。
……いや。
もしかしたら。
この街には、俺が普通の人やと思ってすれ違っているだけで、そういう「特別なやつ」が、もう何人も紛れ込んでいるのかもしれん。
明日の予報は――
どう考えても荒れるで。
ちょっと留守にしていたのでまとめて投稿しています。
おかげで(?)連続した話『次回予告』ができましたw




