3.8 これは問い詰めなアカン
monogatary.com 2026年3月8日のお題『怪しいチラシ』について投稿したものです。
ミサキ、三十歳。中堅企業の受付をしている。
今年に入ってできた彼氏と、予想以上に進展していて、年内に結婚までこぎつけるやもしれん。
今日もタクヤの部屋に掃除(遊び)に来て、まったり過ごしてるとこや。
タクヤの部屋の本棚には、節操のないほどいろんなジャンルが入り乱れている。
本格小説の隣に、実用的な資格試験の参考書や使い古した旅行ガイド。
どう考えてもカテゴリ分けを放棄した、タクヤらしい「カオス」な棚や。
ふと見ると、『ビジネス実務法務検定』という小難しいタイトルの背表紙から、似つかわしくないほどカラフルな紙がはみ出していた。
「なんや、これ。新しいしおりか?」
何気に、その紙を引き抜く。
――そこにあったのは、ピンク色のデリヘルのチラシやった。
やたらボリューミーなお姉ちゃんが、色気たっぷりにウインクしている。
公共の場では口にできひんような、刺激の強いキャッチコピーまで踊っとる。
「……タクヤ」
向かいのソファで本を読んでいたタクヤに、チラシをひらひらと振って見せる。
「なんで、これ大事にとってあるん?」
タクヤは、顔を上げた瞬間に目に見えて狼狽えだした。
「あ……。それはな、郵便受けに入っちょって、あとで捨てなと思よったやつや」
出た。
タクヤは焦ると、付け焼刃の大阪弁と大分弁が、しっちゃかめっちゃかに混ざる。
しかもこのアパート、しっかりオートロックや。
捨てるつもりなら、一階のゴミ箱に放り込めばええだけの話や。
「何をそんな慌ててるんや。疚しいことが、あ・ん・ね・や・ろ」
「疚しいくとなんてねえよ! いや、なかよ」
「でも、わざわざ本の中に隠してあったで。ウチが絶対に手に取らへんような、堅苦しい本に」
「大事にとっちょったわけやねぇ……。そんなとこに挟んでたんも、忘れちょったくらいや」
ウチは、あえて無表情な「白い目」でタクヤをじっと見る。
「別に構へんのやで。このチラシ、去年の十二月のやろ。お姉ちゃん、サンタ帽被っとるし」
「いや……たぶん、もう何年も前のやつや。去年でもねえ」
「ほら、やっぱり大事に保管しとったんやんか。で、呼んだん?お姉ちゃんサンタ」
「呼んでへん! 断じて呼んでへん」
「だから構へんって。ウチと知り合う前の、遠い過去の話やんか」
「せやな……。いや、なんで焦ってたんやろ」
額に玉のような汗が浮かんどる。ウソをつけないにも程があるわ。
「……ふーん。これは、本棚の隅々まで家宅捜査せなあかんな」
ウチがニヤリと笑うと、タクヤが漫画みたいに肩を震わせた。
「もう勘弁してくれよ、ミサキ……。ほんとに何もないんやって」
叱られたわけでもないのに、構ってもらえん子犬が耳を垂らして震えとる。
ホンマ可愛いやっちゃ。




