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『お題のmonogatary』―どこに向かうか誰もわからないー ストーリーは『今後のお題』しだい  作者: もとき未明


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3.6 またどこかで……

monogatary.com 2026年3月6日のお題『旅立ちの朝に』について投稿したものです。



 タクヤ、三十三歳。

 大阪歴十年。いまだ大阪弁は練習中。

 独身やけど、独り暮らしはそろそろ終わりかもしれん。


 朝、通勤電車の揺れの中で、大分のおふくろからLINEが届いた。

『コテツが今朝、とうとう天国に行ったよ。眠るごつ安らかやった』


 ……しばらく、画面を閉じられなかった。



 そっかぁ。具合が悪いとは聞いていたけど、とうとうか。

 コテツも十六歳を過ぎていたはずだ。

 人間にしたら、八十を優に超えている。大往生やな。



 ――コテツが我が家に来たのは、俺が高校二年生の秋だった。


 ある日、学校から帰ると、新しい子犬が庭先を走り回っていた。

 以前に飼っていた犬が死んで二年。

「もう生き物は飼わん! 辛すぎる」

 と言っていた両親だったはずなのに……。

 名前も先代と同じ『コテツ』だった。


 俺は、その新しい相棒に夢中になった。

 冬の朝も早起きして散歩に連れ出し、帰ったら足を洗ってから一緒に寝る。

 コテツもすぐに俺に懐いてくれた。

 だから、出会ってから一年半後に、最初の別れがきたときは本当に辛かった。


 俺が、東京の大学に進学することになったからだ。

 別に俺がセンチになっていたわけやない。

 ……たぶん。

 それでも、荷造りの間中、いつも以上にコテツを構っていたのは自覚している。

 コテツは、そんな俺の落ち着かない態度を敏感に察していたんだろう。

 俺が東京に向かう朝。

 コテツは、ちぎれんばかりに尻尾を振り、今までにない高い声で『キャンキャン』と鳴き喚いた。

 おやじの車が走り出しても、繋がれてないのをいいことに、必死で後ろを追いかけてきた。

「ほら、コテツも寂しいち言いよるわ」

 と、おやじが笑った。

 駅までおよそ三キロ。

 まだ子どもの小型犬には、なかなかの距離や。

 駅のロータリーで、コテツをギューッと抱きしめると、安心したのか、そのまま俺の腕の中で寝てしまった。

 俺は、コテツを助手席にそっと寝かせ、その温かい頭をひと撫でしてから、改札へと走った。


 それからも、帰省するたびにコテツは俺を歓迎してくれた。

 大学を卒業して帰ったときは、弾かれたみたいに飛び出してきて、俺の周りをぐるぐる回って喜んだ。

 しかし、大阪での就職が決まっていたため、またすぐに別れがやってきた。

 今度は、玄関先でお別れを告げると、目を細めて『撫でろ』と頭を押し付けてきた。

 もう駅まで駆けてくることもなかった。


 一昨年、帰省したときには、すっかりおじいちゃん犬になっていた。

 俺が「ただいま」と声をかけても、薄く片目を開けただけで、すぐにまた眠ってしまった。

 それでも、夜になるとヨロヨロと風呂場までついてきて、当たり前のように俺の布団の中に潜り込んできた。


 昔みたいに高く元気に吠えることはなかった。

 寝言のように時折こぼす『ウォン……』という低い声。

 それが、俺が聞いたコテツの最後の声になった。


 ミサキを会わせてあげられなかったな。

 来月には、大分へ連れて帰る予定だったのに。

「俺の新しい家族やぞ」って、自慢したかった。


 スマホの画面をもう一度見た。

 LINEの返信に

『長いこと、ありがとう』

 とだけ打って送信した。



 窓の外、大阪の街を流れる景色が少しだけ滲んで見える。


 コテツ……。

 もう走り回らんでいいき、ゆっくり昼寝でもしちょけ。


 ……ホンマにありがとうな。



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