3.5 俺からじゃないけどお祝い
monogatary.com 2026年3月5日のお題『卒業式前夜』について投稿したものです。
タクヤ、三十三歳。
大阪歴十年。いまだ大阪弁は練習中。
独身やけど、独り暮らしはそろそろ終わりかもしれん。
今日もミサキが俺の部屋の片付けを手伝いに来てくれて、今は二人でコーヒーを飲んでいる。
「なあ、こないだの高校生。ツバサ君って言うたか。もう卒業式終わったんやろか」
俺の問いかけに、ミサキがコーヒーから目を上げる。
「たしか、今日が卒業式ちゃうかなぁ。知らんけど……」
「知らんけどって……。じゃあ昨日の深夜ラジオは聞いてたやろな」
「ツバサ君は、いつどんなときでも聞いてる思うで」
ミサキが呆れたように首をすくめて言う。
「昨日、たまたま俺も深夜ラジオを聞いてたらさ、たぶんツバサ君やと思う子が商品ゲットしてたで」
「ほんま! なんでツバサ君やってわかったん?」
「ラジオネームが“大阪のアンダーグラフ”やってん。もしバンド名が由来やとしたら、代表曲は“ツバサ”や。おまけに……」
「おまけに?」
「内容が、あまりに身近すぎたんや。タイムフリーで聞いてみ」
――『ということで、今夜の大賞は、“大阪のアンダーグラフ”さんに決定! いやあ、近所に住む綺麗なお姉さんが清楚な受付嬢やと思うとったら、実は小さい頃は野山を駆け巡る野生児だったとは! 今日のテーマ“ギャップ萌え”にピッタリだったねぇ。アンダーグラフさん、いつも投稿ありがとうね。おっ、明日は卒業式なんやね。こんな番組聞いとらんと早よ寝えや。それじゃ次の曲です』――
「……」
「どうや? ツバサ君っぽいやろ」
「それはそうなんやけど……! なんでウチが野生児やったって、その子が知ってるんよ! おまけにタクヤまで、なんで『これミサキのことや』って思うたんか知りたいわ」
「え、そこ?」
「……」
ミサキが白目で睨む。
「だってミサキ、時々ガードレール飛び越えるやん。虫捕まえる時の手つきなんかプロ級やで。小さい頃はお転婆な子やったんやろなぁってわかるで」
「そうなん!」
ミサキが頭を抱えてもだえている。
「違うかったん?」
「違わへんけど……。ちゃう! ウチは清楚な受付レディやねん!」
「そうやな。ミサキは猫かぶるときは上手やもんな」
「ちゃう! 猫なんか被ってへん。タクヤと一緒やと素が出るだけや」
「それを世間では“猫かぶる”いうんとちゃうか。ツバサ君にもバレてるんやろな」
「ムムムム……」
ミサキは納得いかない顔で、唸りながらソファに沈み込んだ。
「ま、何にせよ大賞やで。二万円分のクオカードや。ええ卒業祝いになったんとちゃうか」
「タクヤは、何かお祝いせえへんの?」
「俺は名前も教えてもらってない『通りすがりの交通整理員やしな。陰ながら応援するくらいや」
「ふーん……。じゃあ、ウチがお祝いの品を届けたるわ」
ミサキが悪い顔で笑う。
「……何を贈るつもりや?」
「その辺の公園で拾った、一番強そうな木の枝や」
あーあ、ツバサ君、怒らせちゃいけない人を怒らせちまったみたいだな。
卒業祝いに枝を渡される高校生なんて、日本中探してもそうおらんやろ。
でもまあ――。
それも、あいつの青春の一ページかもしれん。




