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タクヤとゆかいな仲間たちが紡ぐ『お題のmonogatary』―どこに向かうか誰もわからないー  作者: もとき未明


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3.2 一歩ずつ前へ

monogatary.com 2026年3月2日のお題『行列の先にあるもの』について投稿したものです。



 タクヤ、三十三歳。

 大阪歴十年。いまだ大阪弁は練習中。

 独身やけど、独り暮らしはそろそろ終わりかもしれん。


 まだ正式に「結婚する」と判を捺したわけでもないのに、部屋の片づけだけが猛スピードで先行している。

 未来の同居人になるであろうミサキは、しょっちゅう俺の部屋に来ては、断捨離の進捗を厳しくチェックし、将来の夢という「タスク」を置いて帰っていく。


 気づけば三月に入っていた。

 さすが「二月は逃げる」といわれるだけあって、あっという間だった。

 三月半ばには、ミサキと新潟の“つなん雪まつり”に行くことになっている。

 空に舞うスカイランタンを見上げ、ロマンチックな気分に浸る……はずだった。

 だが、その直後に控える「和歌山・ミサキ実家への挨拶」というラスボス級のイベントが、ランタンの灯をかき消す勢いで迫っている。

 勢いで「行きます」と言ってしまったが、日程が近づくにつれ、胃のあたりが重くなってきた。

 四月に入れば、今度は俺の実家・大分へ。

 おふくろにミサキを会わせる。

 ずっと楽しみにしているじいちゃんもばあちゃんも顔を見に来ることだろう。

 イベント盛りだくさんどころか、飽和状態や。


 しかも、それはほんの序の口だ。

 カレンダーの先を見れば、さらに重要度と予算が跳ね上がる行事たちが、テーマパークの人気アトラクションばりに行列をなして並んでいる。


 雪まつり。

 実家挨拶(和歌山・大分)。

 両家顔合わせ。

 その先には、式場だの衣装だの案内状だの。

 部屋探しに引っ越し。

 そしてたぶん、人生最大の本番。

 ……最後尾はどこやねん。整理券配ってくれ、と叫びたくなる。


 スマホのカレンダーを見つめながら、深いため息をついていると、玄関のチャイムが鳴った。

「おつかれー。まだ生きてる?」

 ミサキや。

 合い鍵は持っとるくせに使わんのは、みさきなりの「一線」なにゃろ。



「なにその顔。借金取りに追われてるん?」

「ちゃうわ。未来の行列に並ばされとるだけや」

「は?」

 俺はスマホを差し出した。色とりどりに埋め尽くされたカレンダーは、もはやテトリスの末期状態だ。

「うわ、行事祭りやん。景気ええなあ」

「他人事みたいに……。これ全部こなさんと先に進めへんのやろ? プレッシャーで胃が縮むわ。イベントの行列できとるやろ?」

「ほんまや。しかも全部、前向きなやつやん」

 前向き。

 そう言われると、ちょっと嬉しいかも。

「なんかこう、人気アトラクションの最後尾に並ばされて、“順番きたら人生変わりますけど、心の準備できてますか”みたいな」

「ディズニーの新アトラクションちゃうねんから」

「怖いやろ」

「怖いのはわかるけどさ」

 ミサキは俺の横にすとんと座り、俺のスマホをひょいと奪い取った。


「でも行列って、並ばんと中には入れへんやん。絶景も、美味しいもんも、並んだ人だけのご褒美やで」

「横入りできたらええのに」

「ほな、うちが先に和歌山帰って“彼氏いません”って言うとこか?」

「それはあかん!」

 食い気味に、即答してしもた。


 ミサキは、勝ったと言わんばかりにニヤリと笑う。

「ほらな。並びたいんやんか、タクヤも」



 ……そういうとこやぞ、俺。

 並びたくない顔しといて、足はちゃんと列の中にある。


 ま、行列っちゅうもんは、並んでさえいれば少しずつは前に進む。

 たとえ足が棒になっても、隣に一緒に並んでくれる奴がいるなら、待ち時間も悪うない。


 俺はスマホを取り戻し、三月の「挨拶」の横に、小さく「気合」と書き込んだ。


 画面を閉じると、ミサキが隣でくしゃっと笑った。

「ほな、次は雪まつりやな」

「うん。まずはそこから」


 列の先なんて見えへん。

 でも、とりあえず一歩だけ進んどけばええ。



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