3.1 お前が言うな
monogatary.com 2026年3月1日のお題『容疑者が語り手の物語』について投稿したものです。
タクヤ、三十三歳。
大阪歴十年。いまだ大阪弁は練習中。
独身やけど、独り暮らしはそろそろ終わりかもしれん。
今日もミサキが俺の部屋の家宅捜査(片付け)に来ている。
今度は机の引き出しの最深部まで開けて、何やら重要証拠をチェックしているようだ。
……おやっ。捜査官が何か見つけたようですね。
口角がわずかに上がり、獲物を追い詰めた刑事のようなニヤつきを見せています。
現場は緊迫しております。
容疑者である俺は、現在リビング中央にて直立不動。
これまでに押収されたのは、財布を圧迫していたレシートの束、二年前の映画半券、そして……ラベルのない謎のUSBメモリ。
いずれも本人(俺)は「大切な思い出」と認識しております。
「おおーっと、そのUSBはヤバい! 中身は公序良俗に反するもんじゃないけど、俺の黒歴史的にちょい困る!」
そのとき、捜査官がおもむろに振り向いた!
「何をさっきから、ゴチャゴチャ言ってんねん」
「えっ。声に出とったん?」
「ずっと漏れてたわ。というか、タクヤが犯人(持ち主)やろ。何を他人事みたいに実況してんねん」
「濡れ衣や。俺はただの、歴史の観察者や」
「証拠の品がこんだけドバドバ出てるのに?」
「……全部、大切な宝物なんや」
レシートは、初デートのカフェ。
半券は、男三人で観たクソ映画。
USBは……いや、これはほんまに何入ってるか自分でも怖くて開けられん。
「ほらな。動機も言い訳も不純や」
「最後の一個だけは除外してくれ。若杉からの預かりもんかもしれん」
「余計怪しいわ。共犯者までおるんか」
ミサキは腕を組んで、俺を上から下まで検分した。
「タクヤはな、“思い出泥棒”や」
「誰から盗んだんや。被害者いてへんやろ」
「今を生きる自分からや。過去ばっかり溜め込んで、未来へ進む足を重とうしてどうすんねん」
ぐうの音も出ない。黙秘権すら奪う正論や。
「残すんはええ。でも溜め込んで現実から逃げたらあかん」
「逃げてへん。……ちょっと距離置いてただけや」
「それを逃げてる言うんや」
俺は潔く沈黙した。
「ほな判決言うわ」
「早いな。弁護人呼んでええか?」
「却下。罪状は『思い出の過剰所持』。判決は……整理整頓。ただし、執行猶予付きや」
「執行猶予って何や」
「ウチが監視しながら一緒に片付ける。一人でやらせたら、進まへん未来が明白や」
それは、刑罰というよりご褒美やった。
俺は現在、神妙な面持ちで反省の色を見せながら、ゴミ袋を手にしている。
罪状は、重い。
けれど、袋の中身が重くなるほど、部屋と俺の言い訳は軽くなっていく。
――再犯の可能性はきわめて高いが、そのときはまた、この捜査官にタイホしてもらおうな。




