2.28 モノを大事にすること
monogatary.com 2026年2月28日のお題『スターの流儀』について投稿したものです。
タクヤ、三十三歳。
大阪歴十年。いまだ大阪弁は練習中。
独身やけど、独り暮らしはそろそろ終わりかもしれん。
俺のアパートには、ミサキが「残念博物館」と呼んだ雑多なものが溢れている。
壊れたコンロやカピカピになったミカンの皮。本棚の上のビーサン。
――ミサキに、ダメ出しをくらってしまったけど、やっぱり簡単には捨てられないんだよなぁ。
「なぁ、ミサキ。そのコンロやミカンの皮は、結婚までに捨てなきゃいけないかなぁ」
「ん? そんなことあらへんよ。タクヤが必要やと思うもんは大事にしとき」
「えっ。いいのか? ガラクタばっかやで」
「もちろん。タクヤが大事にしてるもんは、ウチにとっても大事や」
俺は壊れたコンロを撫でた。
「これはな、俺が社会人一年目のときに買ったやつや。青春の炎や」
「ショートしてんのに?」
「心の火はつく」
「電気代もったいないな」
ビーサンを持ち上げる。
「これは夏の思い出や」
「裏、カビてるで」
「それは成熟や」
「腐敗や」
俺は深く息を吸った。
「なあミサキ。イチロー選手って道具めちゃくちゃ大事にするらしいやん」
「急にスター出して、免罪符にしよう思うてるやろ」
「スターの流儀や」
「ほな聞くけど」
ミサキはコンロを指さした。
「これ、磨いてる?」
「いや」
「ケース入れてる?」
「いや……」
「乾燥剤は?」
「湿気と共存」
「ほなスターちゃうやん。ただの放置系男子や」
「そんなジャンルあるん?」
「今できた」
俺は黙った。
ミサキは腕を組む。
「スターってな、モノを大事にするんやなくて、“扱い方”を大事にするんやと思うで」
扱い方……。
俺はコンロを持ち上げる。
焦げついたまま、何年も火をつけてない。
「直すか、ちゃんと“ありがとう”言うて手放すか。どっちかや」
「……ほな、修理出すわ」
「お、スターやん」
「スターの流儀や」
「ちゃうで」
ミサキは嬉しそうに笑った。
「スターはな。自分がかっこ悪いって認められる人や」
「それ俺やん」
「せや。ウチの大スターやもん」
その夜、俺はコンロを拭いた。
ミカンの皮は、感謝してゴミ袋に入れた。
ビーサンは、まだベランダにある。
スターの流儀は、たぶん――。
大事にすることが目的やなくて、ちゃんと向き合うことや。




