2.27 残念すぎて大好きや
monogatary.com 2026年2月27日のお題『偉人の落とし物センター』について投稿したものです。
side ミサキ
今日は、タクヤの部屋に来てんねん。
タクヤの部屋は、一見すると片付いているようで――棚の隅やクローゼットの奥に意味不明なもんが潜んでいる。せやから、今日はちょこっと探検や。
タクヤはソファで本を読み耽るふりをしながらも、自由にさせてくれとる。
――見られて困るもんもないんやろうな。この正直もんめ。
「なぁなぁ、タクヤ。このカピカピに干したミカンの皮……。何かの呪い?」
ウチがキッチンの窓際に並んだそれを指さすと、タクヤが顔をあげた。
「ああ、それは漢方薬の材料にならへんか試そう思うてんねん。陳皮いうてな」
「あんたは“吉本せい”か」
「……誰?」
「吉本興業の創業者や。NHKのドラマでもやってたやろ」
「聞いたことあるな。鬼の女帝やった人やろ」
「せや」
「なんでそんな偉い人とミカンの皮がつながんねん」
「あん人は徹底した商売人やさかい、劇場に捨てられたミカンの皮まで拾い集めて、薬問屋に売ったんや。有名な逸話やで」
「へえー。天下の吉本を興した人は豪快やなと思うてたけど、なんか……生活感ありすぎて残念な逸話やな」
「……どっちかというと、二月にミカンの皮干してるタクヤの方が残念やで」
「ほっとけ! 向上心や!」
タクヤがむくれて本に視線を戻したんで、次の物件や。
「ほな、この古臭い電気コンロはなんやねん。コードの被膜破れてんで。捨てへんの?」
「捨てるかいな。それはかの有名な松下幸之助さんが愛用したコンロやで」
「……ウチもたいがい幸之助はんの逸話は聞いてるけど、コンロを愛用してたとは知らんな」
「古物商のおやじが言うとったから間違いない」
「ああ、もしかして……若い頃に会社の備品を勝手に改造してショートさせたっていう、あの話やろ?」
「え、ショート? ……しかも勝手に改造?」
「せや、“電機の神様”と言われる前は、電圧の違いもようわからんと大失敗したことあるんやで。まさにそれやん」
「なんで、神様にそんな残念な逸話があんねん……」
「いや、おやじに騙されて、ガラクタ買わされたタクヤの方がよっぽど残念や」
「……」
「ここ、歴史上の人らの忘れもんでも預かってんの? 落とし物センターか何か?」
「ちゃうわ!俺なりのリスペクトや!」
「……残念エピソードは、“偉人の落とし物”やで」
「……」
目が泳いでる。あれはほんまに大失敗の話を知らんかった顔やな。
もう一つ、決定打を見つけたさかい、ダメ押ししたろ。
「タクヤ……。なんで本棚の、しかも一番高いところにビーサンが鎮座してるん?」
「あー、それは、玄関に置いとくには場所取るさかいな。冬の間はそこが定位置やねん」
「あんたなあ……。ウチが秀吉公なら、切腹させてるで」
「切腹? なんでそんな物騒な話になんねん」
「千利休が切腹を命じられたときのこと、知らへんの?」
「いや知らんし……。冬でも手ぇ伸ばせるとこに置いとるだけや」
「なんで?」
「急に海行きたなる日、あるかもしれんやろ」
「二月やで」
「心は年中、常夏やねん」
それっきり、タクヤは耳まで赤くして本に視線を落としたままになった。
利休は、秀吉のどんな無理難題にも、独自の“侘び”で返した人やった。
派手やなくても、自分の美学だけは絶対に曲げへん。
タクヤも、なんや知らんけど――。
変な方向にだけは、絶対に曲げへん。
“自分なりの豊かさ”を探そうとするその不器用な心根だけは、利休とちょっとだけ似てるんかもしれん。
まあ、この「残念博物館」は、ちょっと客を選びすぎるけどな。
そんな、隙だらけで残念なタクヤが、たまらなく好きや。
こんな部屋におる自分が、世界で一番贅沢な場所にいるみたいで、ちょっと誇らしいくらいや。




