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タクヤとゆかいな仲間たちが紡ぐ『お題のmonogatary』―どこに向かうか誰もわからないー  作者: もとき未明


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2.26 いいがかりやん、それ

monogatary.com 2026年2月26日のお題『無関心領域』について投稿したものです。



 タクヤ、三十三歳。

 大阪歴十年。いまだ大阪弁は練習中。

 独身やけど、独り暮らしはそろそろ終わりかもしれん。


 会社の喫煙所で、後輩の若杉に絡まれた。


「ちょっと、タクヤ先輩。最近なんか、俺への対応が妙に塩すぎませんか?」

「ん? なんのこと言うてる?」

「LINEの返信なんか、最近めっちゃそっけないっすよ。こっちは真剣に悩んでんのに」

「そうか? 今までと変わらん思うけどな」

「いーや。四六時中ミサキちゃんのこと考えてるなって丸わかりの返信っすよ」

「そ、そんなことないと思うで……」

 嘘や。今、ミサキの実家に行くときのルートを検索しようとしとった。

「そりゃミサキちゃんに比べれば、俺の彼女はややこしいかもしれませんけど、“見ないふり”しないでもいいですやん」

「若杉……。お前もなんか最近変な大阪弁になってきたな」

「タクヤ先輩には言われたくないっす」


 若杉は煙を吐きながら、じっとこちらを見る。

 拗ねた犬みたいな目や。


「で、なんや。“見ないふり”って」

「俺の彼女の話ですやん」

「この前、別れそう言うてたやつ?」

「そこっすよ。そこがもう雑なんすよ」


 あ、しまった。


「俺、あれからちゃんと話し合ったんす。泣かれて、俺も泣いて。めちゃくちゃ向き合ったんす」

「……ほう」

「なのに先輩の返信、“そっか”“まあ頑張れ”だけ。スタンプすらなし」

「いや、スタンプはええやろ」

「よくないっす。俺、あのとき人生の分岐点やったんすよ」


 分岐点。

 その言葉に、少しだけ胸がひっかかる。

 俺の分岐点は、わりと静かに来た。

 春が来るらしい、と他人づてに聞くくらいには。


「……悪かったな」

「え?」

「お前が真面目に向き合っとるときに、俺はちょっと別のこと考えとったかもしれん」

 ミサキのこと。

 実家にいつ連れて帰るか。

 指輪はまだ早いか。

 頭の中が、半分そっちに持っていかれてた。

「やっぱりやん」

「やっぱりってなんや」

「人って、自分の幸せを守ろうとすると、他人の悩みが“遠く”なるんすよ。聞いてるけど、入ってこない。見えてるけど、見ないふりしてる」


 図星やった。

 聞いてなかったわけじゃない。

 軽く扱ったつもりもない。

 けど、深く踏み込む余裕は、正直なかった。


「……で、どうなったんや。ちゃんと続くんか」

「はい。続きます」

「ほな、ええやん」

「“ええやん”が軽いんすよ」

 ああ、めんどくさい。

 けど。

 めんどくさいと思えるくらいには、俺はこいつを後輩として見てる。

「若杉」

「はい」

「俺な、ちょっと浮かれとるかもしれん」

「知ってます」

「うるさい」

 自販機のコーヒーを一本買って、若杉に投げる。

「お前の悩み、三割引きで聞いてたんは認める。悪かった」

「三割引きって……スーパーの総菜じゃないすから」

「お前の彼女のこと、ちゃんと聞くわ。今日、飲みに行くか」

「……ほんまですか」

「その代わり、俺の愚痴も聞け」

「ミサキちゃん自慢なら帰りますよ」

「自慢ちゃうわ。段取りの相談や」

「先輩、ちゃんと幸せになってくださいよ」

「なんやその上から目線な言い方」

 若杉は、少しだけ笑った。


 なるほど。

 俺が春に向かっとる間、誰かを置いていくこともあるんかもしれん。


 でもそれは、悪意やなくて、

 ただ視界が狭くなっとるだけや。


 俺はスマホを取り出し、若杉のトーク画面を開く。


 ――今日、ちゃんと聞くわ。

 送信。

 既読がすぐについた。


 見て見ぬふりするんは簡単や。

 けど、踏み込むんは一歩で十分や。


 春は、自分だけのもんやないらしい。


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