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『お題のmonogatary』―どこに向かうか誰もわからないー ストーリーは『今後のお題』しだい  作者: もとき未明


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2.24 正体不明の鼓動

monogatary.com 2026年2月24日のお題『ポチっとな』について投稿したものです。



 若杉、三十一歳。

 中堅企業のシステム管理部門勤務。独身。


 トラブル対応は得意だ。

 原因を切り分け、最短ルートで復旧させる。

 だが――恋愛は、まったく別のシステムらしい。

 プレイボーイを自負していた。

 適当な嘘と言い訳で、波風立てずに泳いできた男だ。

 深入りしない。期待させない。傷つかない。

 それが今は、ひとりの女性のことばかり考えている。

 ……初体験だ。


 自宅のデスクでノートPCを開く。

 検索履歴はプレゼント候補で埋まっていた。

 “女性 さりげない 贈り物”

 “付き合う前 ホワイトデー”

 “重くない ギフト”

 Amazonの売れ筋。

 楽天の人気ランキング。

 レビューも一通り読んだ。

 なのに、「これだ」と思えるものがない。

 ホワイトデー特集は華やかすぎる。

 まだ正式なカップルとは言えない俺たちには、少し強い。

「いきなり気合い入れすぎは違うよな……」

 画面をスクロールしていると、やたらと“ペア”が出てくる。

 ペアマグ。

 ペアブレスレット。

 ペアパジャマ。

「いや、それは早い」

 ひとりでツッコミを入れる。


 頭の中に、タクヤ先輩とミサキちゃんの顔が浮かぶ。

 あの二人なら似合う。

 でも俺は、まだその位置に立てていない。

 スマホが鳴った。

『どうなんや、お返しは決まったか』

 タクヤ先輩からだ。

 立ち飲み屋で、つい「今回は本気かもしれません」と漏らしたあれ。

『検討中っす。慎重審査中で』

 すぐ返信が来る。

『勢いでポチっとけ! 悩む時間が一番ダサい』

 雑だな。

 けど、妙に刺さる。


 画面に戻る。

 高価なものはいらない。

 重くもしたくない。

 でも、「覚えていてくれた」とは思ってほしい。

 カートに入れていた商品を一度削除する。

 深呼吸。

 別の商品ページを開く。

 シンプル。

 実用的。

 レビューも悪くない。

 配送予定日は三月十二日。


「……これなら」

 カーソルをオレンジ色のボタンに合わせる。

 仕事なら迷わない。

 なのに今は、指が少し止まる。

 たった一回のクリック。

 でもこれは、ただの買い物じゃない。

「よし、これに決めた!」

 『購入』ボタンを押す。

 注文完了。

 それだけで、心臓がうるさい。

 プレゼントを買っただけだ。なのに、鼓動が速い。


 スマホを手に取り、短く打つ。

『来月、少し時間ある?』

 ……送信。

 既読は、まだつかない。

 パケットの往復なんてコンマ数秒のはずなのに、この「待ち時間」だけは、どんな高負荷なサーバーよりも重く感じた。


 配送予定日は三月十二日。ホワイトデーの二日前。

 当日渡せなかった時のための「予備日」を計算してしまうのは、システム屋の悪い癖だ。


 このプレゼントを渡した先に、何が待っているのかわからない。

 けれど踏み出さなきゃ、何も始まらない。


 これが、いまの俺の答えだ。



 ……はたして彼女は、気に入ってくれるだろうか。



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