表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『お題のmonogatary』―どこに向かうか誰もわからないー ストーリーは『今後のお題』しだい  作者: もとき未明


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/79

2.23 つかなくていいウソ

monogatary.com 2026年2月23日のお題『ウソと言い訳』について投稿したものです。



 タクヤ、三十三歳。

 大阪歴十年。

 空気を読むのは得意なほうやと思っている。たぶん。


 ミサキの部屋。

 テーブルには、食べかけのプリンが二つ。


「それ、最後の一個やったのに」

 ミサキが言った。

 スプーンを止める。

「……え?」

「コンビニ限定のやつ。今日までやって」

 知らんかった。

 本当に知らんかった。

 俺は、手元のプリンを見る。

 もう半分ない。


「それ、楽しみにしてたのに」

 声のトーンが、少し低い。

 ここで謝ればよかった。

 ほんまに。

 けど俺の口は、別の方向へ曲がった。


「いや、これな。味見や」

「味見?」

「安全確認や。ほら、最近なんでもあるやろ? アレルギーとか、賞味期限とか、社会情勢とか」

「社会情勢でプリン変わる?」

「変わる可能性はゼロやない」

 ゼロやないけど、限りなくゼロや。

「ほな、円安でプッチンの回数減るんか?」

「……それは死活問題やな」


 ミサキはじっと俺を見る。

「で、安全なん?」

「……たぶん」

「たぶん?」

 しまった。

「いや、ええ感じや。うん。むしろ、ちょっと大人向けや」

「私、子ども舌なん知ってるやろ」

 知ってる。

 めちゃくちゃ知ってる。

 俺はプリンをすくう。

「ほら、カラメルがな、深い。これはな、人生みたいな味や」

「重いわ」


 ミサキが腕を組む。

「ほんまは、食べたかっただけやろ?」

 その通りや。

 だが、ここまで来て引き返せない。

「ちゃう。これはな、交通整理や」

「……は?」

「甘さの流れを一回止めて、確認してから進ませるんや。いきなり全部食べたら渋滞起こるやろ」

「プリンで?」

「心がな」

 黙られる。


 あかん。

 完全にあかん。

 そこへスマホが震える。

《若杉:好きな人に“別に怒ってない”って言われました。怒ってますよね?》

 タイミング最悪や。

 俺は既読を付けずに伏せる。


「今、なんか隠した?」

「隠してへん」

「目泳いでるで」

「泳いでへん。これは平泳ぎや」

「余計あかんやつや」

 ミサキは溜め息をついた。

「なんで素直にごめんって言われへんの?」

 刺さる。

 真っ直ぐや。


 俺はプリンを見る。

 スプーンの跡が、やけに目立つ。

「……いや、その」

 言えばええ。

 それだけや。

 けど、言葉が引っかかる。

「ミサキが楽しみにしてたって知らんかってん」

「知らんかったら食べてええん?」

「……あかん」

「ほな?」

 沈黙。


 部屋の空気が、赤信号みたいに止まる。

 俺は観念した。

「ごめん」

 ミサキは少しだけ目を丸くした。

「味見とか、安全確認とか、交通整理とか、全部あと付けや」

「うん」

「普通に、食べたかっただけや」

「うん」

「カラメルを人生に例えたんは、ほんまに思いつきや」

「それは知ってる。人生そんな甘ないわ」

「……せやな」


 少しだけ、空気が動く。

「もうええよ」

 ミサキが自分のプリンを差し出す。

「一口あげる」

「ええん?」

「半分はあかんで」

「交通整理するわ」

「今それ言う?」

 笑われた。


 信号が青に変わるみたいに、部屋の空気が軽くなる。

 俺はスマホを開く。

《若杉:既読つきませんけど、これってどういう意味ですか?》

 俺は打ち込む。

《とりあえず、ごめん言え》

 送信。――俺が言うのに十五分かかったことは、封印や。


 ミサキがこちらを見る。

「なに?」

「いや……なんでもない」

 スプーンを置く。

 ほんまは最初の一言で済んだ話やった。

 余計なルートを通っただけや。


 プリンは甘い。


 言い訳は、だいたい苦い。

 そのくらいは、覚えとこ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ