2.22 nekomono(閑話休題)
monogatary.com 2026年2月22日のお題『nekomono』について投稿したものです。
タクヤ、三十三歳。
大阪歴十年。
猫アレルギー。たぶん気持ちの問題やけど。
なぜか段ボール箱が一つ、テーブルの上に置かれている。
「今日のタイトル、“nekomono”らしいで」
ミサキがスマホを見ながら言った。
「猫の日だからか?ほな今日は、猫の話やな」
俺が答えると、向かいでノートパソコンを開いていた佐藤が顔を上げた。
「検索流入を狙ってる可能性がありますね」
「急に現実的やな」
そこへ若杉が身を乗り出す。
「猫動画は強いですよ! 三分で人生変わります!」
「誰の人生がや」
「投稿者のです!」
元気だけはある。
俺は腕を組んだ。
「今日は猫の話ちゃうで」
「なんでやねん」
三人の声がきれいに揃った。
――――――
「“nekomono”ってブランドっぽくない?」
ミサキが段ボールをつつく。
「中身より名前が勝つタイプですね」
佐藤が即座に分析する。
「僕の恋愛も名前負けしてます」
若杉が真顔で言う。
「お前のは中身が暴走しとるだけや」
「信号無視ですか?」
「料金所突破や」
若杉が静かに息を呑む。
「……戻れます?」
「Uターン禁止や」
――――――
「でもさ」
ミサキが頬杖をつく。
「猫って気まぐれやん?」
「せやな」
「人間関係も同じやろ?」
佐藤が指を止める。
「返信が来ないのは赤信号かもしれません」
「三時間既読スルーは事故ですか?」
若杉が不安そうに聞く。
「渋滞や」
俺が言う。
「希望は?」
「通行止め。迂回ルートも工事中や」
若杉が白目をむいて天井を見上げた。
「……猫の話ちゃいますよね?」
――――――
沈黙が一瞬落ちる。
佐藤が画面を見つめたまま言った。
「タイトルだけ決まって中身がないのは危険です」
「お前の原稿やないか」
「未完歴、三年目です」
「誇るな」
ミサキが笑う。
「“nekomono”って意味なんなん?」
「造語でしょうね」
佐藤が即答する。
「猫の者……忍者っすか?」
若杉。
「猫忍者てなんや」
「静かに近づいて既読だけ付けて去るんです。動機不明のシリアス・スルーですよ」
「ただの嫌なやつや」
――――――
段ボールはまだ開かれていない。
「中身、なんなん?」
俺が聞く。
「知らん」
ミサキが即答する。
「なんで持ってきたん」
「語感がかわいかったから」
佐藤が静かに頷く。
「語感は強いです。中身がなくても」
俺は小さく息を吐いた。
「……なんか刺さるな」
――――――
「結局、“nekomono”ってなんっすかね?」
若杉が真顔で言う。
「猫出てきてないっすよ」
「出さないことで成立している可能性があります」
佐藤。
「ほな今日の教訓はなんや」
少し間。
ミサキが肩をすくめる。
「名前に振り回されるな……かな」
「じゃあ僕、改名します」
「まず中身直せ」
――――――
静かになる。
佐藤がノートパソコンを見つめる。
画面にはタイトル。
『2.22 nekomono』
カーソルが、静かに点滅している。
「……この話にも、続きがありますかね」
佐藤がぼそりと呟く。
俺は段ボールを見た。
まだ開けていない。
「猫出してから言え」
誰も開けないまま、時間だけが少し進んだ。
段ボールの中身は、最後までわからなかった。
たぶん、猫ではない。
けれど、耳を澄ますと「既読」の音が、どこかで鳴った気がした。
たぶん。
猫が得意ではない作者は、本編に組み込む勇気がありませんでした。




