2.17 人騒がせ(後編)
monogatary.com 2026年2月17日のお題『充電し忘れた』について投稿したものです。
タクヤ、三十三歳。
大阪歴十年。いまだ大阪弁は練習中。
この静かな部屋も、そろそろ終わりかもしれん。
待ち合わせの喫茶店に、プンスカ状態のミサキがやってきた。
「もう知らん! こんなに心配させよってからに。もうすぐユイナも来るさかい、タクヤも怒ってええで」
「いや、俺は別に被害こうむってないで」
「朝早よからウチにたたき起こされたやんか!」
……それは、ミサキが謝れば済むことや。
やがて、涼しい顔をしたユイナがやってきた。
「堪忍なぁ~」
拝むポーズをしながらも、反省しているようには見えんな……。
「あんたなぁ。ええ加減にしいや! どんだけ心配したと思うてけつかんねん!」
『けつかんねん』……上級編やな。まだ遠いわ。
「あはは……。やっぱミサキ激オコや」
「当たり前やろ。タクヤかてあんたに引っ掻き回されて迷惑してんねん!」
いや、引っ搔き回してるのはお前や……。言わんけど。
「まあまあ、ミサキも落ち着いて。で、ユイナちゃん。何があってあんな意味不明なメッセージ送ったんか聞かせてくれる?」
ミサキは腕を組んで、ユイナから顔を背けている。
「まずはタクヤさん、ごめんなさい。ミサキが引き込んでしまって申し訳ないです」
「なんで、ウチが悪い言い方になってんねん!」
「ミサキが早とちりするからやろ」
「早とちりって何や! ウチはただ心配で心配で……」
ミサキの涙腺が今にも崩壊しそうや。
「ミサキもごめん。実はな、土曜日から信州にスキー行ってたんや」
「スキー?」
「ちょっと先週、いろいろあって、バレンタインデーにこっちに居とうなかったんや。……その件はまた別の機会に話すな」
「絶対にやで。で、あの不穏なLINEは何やったん?」
「不穏? 別に普通に『これから出かけます』のつもりやってんけどな」
「どこがや! 縦読みしたら『ころされる』やで。ビックリしたわ」
「……え? マジで? 縦読み? そんなん考えもせんかったわ」
「……あんたなぁ」
ミサキが一気に脱力してしまった。
「そんな意味あれへんで。あの民宿、ほんまに廊下が軋むねん。築五十年とか言うてたわ。そこを暗いうちから出て、スキー場に乗り込むぞって意思表示しただけや」
「ほんなら、なんでそれから連絡できひんかったん?」
「あー、それな。充電二パー、虫の息やってん。連日のスキーに浮かれてて、充電するん忘れてたんや。ほんでそのままスキーしてたさかい、夕方に充電器差し込んだら、ミサキから鬼LINEや。こっちがビビったで」
「ユイナの部屋の玄関マットが濡れてたんはなんでや?」
「玄関マット? あぁ、出がけに結露した窓を拭いた雑巾を、乾かそう思うて置いてたんや。マットまで濡れてた?」
「……バカ……」
怒っているのか、安心したのか、わからん声やった。
俺は、二人の会話に口を挟むでもなく、ただコーヒーを口に運んだ。
ユイナの感情が不安定になっていたという事件はあったにせよ、短歌の意味もほぼ想定通りやったし、ユイナも無事だったし、ミサキとの仲も元通りになりそうやし……。
ま、人騒がせな一日やった。
死にかけてたんは、俺の睡眠時間だけや。
静けさが終わる日も、案外こんな調子かもしれん。
……まあ、悪くはない。
……一日不在にしてたので、お題二日分で(前編・後編)という組み立てにしてみました。




