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タクヤとゆかいな仲間たちが紡ぐ『お題のmonogatary』―どこに向かうか誰もわからないー  作者: もとき未明


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2.14 あすなろ抱きの黒歴史

monogatary.com 2026年2月14日のお題『告白台本』について投稿したものです。



 タクヤ、三十三歳。

 大阪住みが十年を超えるのに、いまだに大阪弁が喋れない。――ただいま絶賛練習中。

 ひとり暮らしだが、この静けさも、どうやら期限があるらしい。


「おおーっ、タクヤ。よく来たな」

 高校時代の親友、ハルトが出迎えてくれた。

 後ろには、奥さんと一人息子のショウ君がいる。

「悪いな。せっかくの土曜日なのにお邪魔しちまって」

「なにを今さら。遠慮すんな」

「そうやで、タクヤ君。早よ上がりぃ」

 ハルトに続いて、奥さんも歓迎してくれる。

「はい、ショウ君。これお土産」

 俺は、ショウ君に大好物のチーズケーキを渡す。

「ありがとぉ」

 流ちょうな大阪弁でお礼を言うショウ君。――羨ましいぞ。


 ダイニングに向かうと、既にいろんな手料理がテーブル狭しと並んでいた。

「うわぁ、美味しそうですねえ。ハルトにはもったいない奥さんやな」

「そこは、俺に似合うと言え!」

 ハルトの抗議は無視して奥さんにお礼を言う。

「ありがとうございます」

「いーえ、今日はバレンタインデーやさかい、ショウのためでもあるんよ」

「俺には?」

 ハルトが奥さんにも抗議の目を向ける。

 いつ来ても、明るい家庭で居心地のいい空間だ。


「今日は泊まるんだから、飲めるよな」

 俺の返事も待たずに、ハルトは冷蔵庫からビールを持ち出してきた。

「タクヤ君は、バレンタインデーやのに、ミサキちゃんと居てへんで大丈夫なん?」

「あ、昼間に会って、激重なチョコもろてきましてん」

 俺の返しに奥さんが笑う。

「相変わらずタクヤ君は、大阪弁が板に付かへんのやねぇ」

 俺は苦笑いするしかない。

「ショウ君に弟子入りせなあかんな」

 ショウ君が嬉しそうに俺の膝に乗ってきた。


 美味しい料理にアルコールも入り、楽しい時間は過ぎていく。


「ところで、タクヤ君はミサキちゃんになんて告白したん?」

 唐突に奥さんが聞いてくる。

「うーん。告白っていう告白はしてないんすよねぇ。なんか成り行きで、実家に挨拶行こかってなったというか……」

「そんなら、告白のシナリオとかは考えてなかったんやね」

「……シナリオ? 全然そんな感じじゃないときに、ホンマに成り行きやったんですよ」

 俺と奥さんの会話が進むにつれて、ハルトがビミョーな顔つきになっている。


「こん人なんか、プロポーズのシナリオをバッチリ作ってたんやで」

「わわわ……。やっぱその話になるんかいな。やめてくれ!」

 奥さんがいい笑顔で話し始めたのを、ハルトが中断させようと慌てている。

「え? ハルトのプロポーズの話は初耳っす。是非聞かせてくださいよ」


 ちょっとの間、ハルトと奥さんの攻防が繰り広げられたが、結局奥さんが押し切った。

「あのなぁ、こん人ったら、決め台詞から遡って、いろんなパターンを考えてたんや」

「パターンって、奥さんの返しを想定して?」

「そうや。あとで見たら、大学ノートにビッシリ書いとったわ。ウチ、それ見て大笑いや。『ウチはこんなセリフよう言わんで』ってパターンが並んどったわ」

「その最後の決め台詞って何やったん?」

「それがなぁ……」

「わぁわぁわぁ……。もうこの話は終いや」

 ハルトの妨害が入るが、奥さんは構わず続けた。

「聞いてビックリやで。テレビドラマのキムタクのセリフやってん」

「ハルトがキムタク?」

 俺も笑いを堪えきれない。

「あんな、昔『あすなろ白書』ってドラマがあったやろ。あん中でキムタクが『俺じゃダメか?』って言う場面があんねん。それをどうしてもやりたかったらしいねん」

 奥さんもアルコールが回ってきたのか、嬉しそうに大声で話してくれる。

「あ、それ俺も見てましたけど、そのシチュエーションに持ってくのって難しない?」

「せやで。ウチが二股かけてるわけでもないし、いつかこん人と結婚するんやろなぁって思うてたくらいやったのに、無理やり『他にも好きな人がおんねやろ』ってパターンに持ち込もうとしてたんや」

「それはまた……」

 俺は絶句しかできない。

「せやから、こん人のプロポーズはグチャグチャやってん。後ろから急に羽交い絞めにしてきてな。思わず肘鉄を喰らわせようとしたら、『俺じゃダメか?』やで。その場で笑い転げてもうたわ」

「もう堪忍してくれぇ」

 ハルトが両手を上げて降参している。

 ショウ君は、話の半分もわからんやろうに、きゃっきゃと喜んでいる。


「ってことで、人間関係なんてシナリオどおりには行かへんってことを学んだんよな」

 奥さんの言葉に、素直に頷いているハルトが可愛く見える。

「タクヤ君も、シナリオなんて用意せんと、そのままぶつかりや。ミサキちゃんなら、笑って受け止めてくれるわ」

 その言葉に、胸の奥が少しだけ熱くなる。



 「俺じゃダメか?」

 心の中で小さく呟いてみる。


 ……あかん。

 俺がやったら、肘鉄どころか通報されるわ。

 ミサキには、ちゃんと正面から言おう。


 きっと、シナリオは書いた瞬間に破られる。



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