2.13 敗北宣言はビールのあとで
monogatary.com 2026年2月13日のお題『心のレントゲン』について投稿したものです。
アタシの名前は、ユイナ。
今日は、親友のミサキの本音を心の奥底までスキャンしたる。
最近、ミサキは彼氏べったりで、アキを含めたアタシらとの付き合いが悪うなってる。
ホンマに彼氏は信用できるのか、どんくらいミサキが大切にされてるんかを、客観的に分析したる。
表情や言葉の裏にある、ほんまの気持ちを透かして見るんや。
骨まで映すつもりで追及したるからな。
久しぶりの待ち合わせで、居酒屋に現れたミサキは、幸せオーラ満開やった。
「タクヤさんと上手いこといってるみたいやね」
アキがいきなり本質を突く質問に、
「……フツーや」
やなんて、本人はさりげのう答えてるつもりかも知れんけど、目尻の下がり方がいつもより三ミリ多いわ。
「会うてから一か月のカップルが、実家の挨拶やお泊りデートの約束までこぎつけてんのに、どこが『フツー』やねん」
アタシが暴露気味に突っ込むと、ミサキは目に見えて動揺しとる。
「なんで、お泊りデートのことまで知ってんねん! ……ウチ、LINEで書いたか?」
「モロには書いてへんかったけど、新潟への経路とか、車中泊のこととか書いてたやん。バレバレや」
アキがご丁寧に種明かししとるけど、アタシにだってわかるっちゅうねん。
「ドキっ!」
ミサキのこういうところが、可愛いねん。
「「だからぁ、擬音を声に出すな!」」
アキと二人でハモってしもうたわ。
「しゃーないやん。クセなんやから。たまに、タクヤの前でも言うてしまうんや。でもタクヤは笑うて流してくれんねん」
ああ、これはもう重症やな。
全身骨折かも。いや、骨抜きにされとるわ。
レントゲン撮るまでもなく、真っ白に光る『幸せ』って文字しか映らへん気がする。
今日は惚気自慢を覚悟せな。
ミサキはビールを飲むペースも変わった。
以前やったら、アタシらが喋ってても自分のスマホいじったり、勝手に揚げ物全部食べたりしてたのに、今はちゃんと『これ食べる?』なんて皿を回してきよる。
「やっぱ、ミサキは変わったわ。前やったらもっとはっちゃけてたし、飲み方も大人になったって感じ……」
「あんなぁ。アキもユイナもウチと同い年なんやで。お姉ちゃんポジションはアキだけで腹いっぱいや」
なんか、以前のミサキと比べると突っ込みが鋭うないなぁ。
「こないだまでやったら、無理やりにでも『タメ』の関係に持っていこうと必死やったのに、今はなんか余裕が見えんねや」
アタシの追撃にも余裕を見せるとこなんか、ミサキが大きく変わったとこや。
「ミサキも大人になったんやろ」
アキがしみじみと言う。
「そりゃそうや。ウチかて成長くらいするわ」
「「ミサキが成長するなんて、想像してへんかったわ」」
アタシとアキが顔を見合わせてハモってしもうた。
「そんな長セリフを、声合わせんでもええわ!」
「せやかて、こないだまでは、恋愛って“勝ち負け”やみたいに言うてたやんか」
「そうそう。どっちが好きって言わせるかとか、『振り回してナンボ』て豪語してたミサキやで」
アキの言葉にアタシが追い打ちをかける。
「それが今や、自分から実家の挨拶やら、新潟までランタン飛ばしに行こう言い出すやら、めっちゃ献身的やんか。どっちが振り回されてんねん」
「……振り回してるつもりやねんけどな。気づいたら、タクヤのペースに乗せられてる気がするわ」
「そこっ! なんで困ったような顔して幸せそうなんや。ハラ立つ!」
アタシが机を叩いて抗議する。
アキが慰めてくれる。
「今のミサキは、なんとなく“勝ち負けやない”みたいな雰囲気出しとる」
アキは、ほんまにアタシらのお姉ちゃんポジやな。
「……せやな。今はちゃんと並んで歩けたら、それでええと思うてる」
ミサキのそんな感情、初めて聞いたわ。
「で、ミサキの本音としては、タクヤさんでホンマにええねんな」
アタシの最終突っ込みに、ミサキは少しだけ間を置いた。
「……ええもなにも、ウチにはタクヤしか考えられんわ。タクヤ以上の男がおるなんて想像できへん」
「冷静に考えてみても大丈夫やな」
アタシがさらに突っ込む。
「冷静も情熱も、全部込みでタクヤやねん。……あかん、こんなん言うたらまたユイナにハラ立つ言われるな」
「……自覚あるならよろしい! 」
アタシは呆れてビールを注文した。
「……うん。ユイナも言うてたように、ウチはタクヤになら歩調を合わせるんが苦にならへん。というか、同じ歩幅で歩けることが嬉しいねん」
ミサキは、今日一番の笑顔を見せながら言い切った。
こんな隙だらけのレントゲン写真見せられたら、もう邪魔する気も失せるわ。
アタシの精密検査は――完全な敗北や。
「ほな、アタシらも覚悟決めて応援したるわ。三月の和歌山、まだ寒いらしいし気ぃつけや」
ミサキの笑顔が、さらに弾けた。
わかってはいたけど、ちゃんと確信した夜やった。
タクヤさんがミサキを大切にしてることも、ミサキが本気で幸せやってことも。
ミサキの心の奥の本音には、強がりも、見栄も、無理も映ってへんかった。
映ってたんは、アホみたいにまっすぐな想いだけやった。
正直、ちょっとだけ寂しかったんも本音や。
でもそれ以上に、安心した。
アタシらも、負けへんくらい素敵な相手、見つけたるわ。




