2.5 逆転、ありがとぅ
monogatary.com 2026年2月5日のお題『「何してくれてんねん」選手権』について投稿したものです。
終業のチャイムと同時に、ウチは同僚のアキを呼び出した。
アキとは同期入社の同い年や。婚活パーティーにも一緒に行った仲やし、何でも話せる親友や。
せやけど、これだけは言っとかなあかん。
「自分、ほんま何してくれてんねん!」
待ち合わせの居酒屋。アキの顔を見るなり、ウチはジョッキを置く音も荒く詰め寄った。
「な! 何をそんなに怒ってんの。どないしたんや、ミサキ」
コートを脱ぎながら、アキはどこ吹く風で椅子に座る。
「どないもこないも! あんた。あのチャラ男に、ウチの『結婚期限』のことバラしたやろ」
「チャラ男?」
「こないだ、タクヤと一緒に来た男や」
「ああ、若杉さんな」
「せや! ウチが今年中に結婚相手見つけなあかんかったら、和歌山に連れ戻されるって話、タクヤが若杉さんから聞いた言うてた。そんなん、アキ経由しかありへんやんか」
「あ、生ビール。あと枝豆と串カツ盛り合わせも」
アキはウチの剣幕を無視して、勝手におつまみまで注文している。
「こっちの話聞き! ウチもビールお替りや!」
「ミサキ、ペース早よない? 喉乾いてるん?」
「こんなん、飲まんとやってられへんわ!」
届いた二つのジョッキ。
アキはそれを掲げて、確信犯の笑みを浮かべた。
「じゃ、とりあえずかんぱーい!」
「なんで、アキと乾杯せなあかんの。ウチは本気で怒ってんねんで」
「うふふ……」
「なんや、その含みのある笑い。気持ち悪いな」
「ウチも知ってんねんで」
「……何を?」
アキは、黄金色の液体を喉に流し込んでから、得意げに言った。
「その『お節介』のおかげで、ミサキはタクヤさんにプロポーズされたんやろ?」
「ギクッ!」
「あははは。ほんまに擬音を声に出すなあ、ミサキは」
「あ、あれは、その……成り行きや」
「成り行きでもなんでも、ウチの話が若杉さん経由でタクヤさんの耳に入ったから、あの『超奥手』な人が動いてくれたんちゃうの?」
ウチは言葉に詰まった。
「まぁ、結果論としてそういう考え方もある……かもしれんけど」
「そういうことや。だから乾杯!」
アキのこういう、図太いくせに芯を食った優しさが好きやねん。
この子が聞き上手なもんやから、ついつい何でも話してまう。
でも、絶対に裏切らへん信頼があるから、こうして甘えてしまうんや。
結局のところ、怒鳴りこみに来たはずが、気づけばアキにタクヤとの惚気話をたっぷりと聞いてもらうことになった。
「ありがとぅ――アキ」
帰り道、少し火照った顔で夜風に吹かれながら、胸の奥で小さく呟いた。




