2.4 気の早い話
monogatary.com 2026年2月4日のお題『冬の大三角形』について投稿したものです。
タクヤ、三十三歳。
大阪住みが十年を超えるのに、いまだに大阪弁を喋れない。ひとり暮らしだが、この静けさも、近いうちに解消されるかもしれない。
ある日の夜。自室でミサキとまったり過ごしているときだった。
「なぁなぁ、タクヤ。犬飼うのってどう思う?」
おとなしく雑誌を読んでいると思っていたミサキが、唐突に顔を上げた。
「ん? 別に抵抗はないぞ。田舎の実家でもずっと飼ってたしな」
俺は、読みかけの本から目を離さずに答える。
「そうなん! どんなワンコ?」
「俺が世話してた頃からずっと柴犬だ。ウチの家族はみんな柴が好きでな」
「じゃあ、プロキオンやな。ウチはやっぱ、シリウスがええなぁ」
「……なんの話だ?」
「え。タクヤは『冬の大三角形』知らへんの?」
「いや、それは知ってるけど、今、そんな話をしてたか?」
「してたやん。柴犬やとシュっとしてるさかい、こいぬ座のプロキオンや。ウチは、この空で一番明るい、おおいぬ座のシリウスがええねん。一番目立つやんか」
――なるほど、ミサキらしい。
「なら、犬を飼うとしたら、大型犬と小型犬を両方飼うのか?」
「うーーん。両方やと場所も散歩も大変やからなぁ……」
ミサキは真剣に悩み始めた。
いや、まだ一緒に住む場所も決まってないし、何より実家への挨拶すらこれからなのだが。
「ここから星、見えへんかな?」
また、思考が飛んだ。
「見えるぞ。ベランダは南向きだし、前が公園だから遮るものもない」
「ほんま! 見よ、見よ」
「わかった。寒くないようにちゃんと着込んでからな」
二人でベランダに出ると、冬の澄んだ空気が肌を刺した。
「わぁ、ほんまや。今日は雲もあらへんし、よぉ見えるわぁ」
「あれが、オリオン座やから、あの肩の位置の赤っぽいのがペテルギウスだな。それから左上の……」
「ちゃう、ちゃう。まずは、シリウスを目印にせんと。ほら、あの一番光ってる白いやつ!」
「だけど、オリオン座の形から探した方が見つけやすくないか?」
「いーや。ウチは星空を見上げたら、まずはシリウスを探すんや。一番強いやつから見つけるんが正解やで」
「……」
話の飛びように絶句しつつも、星空を眺めるのに言葉はいらなかった。
ミサキが小さなくしゃみをするまで、俺たちは寒さも忘れて、まだ見ぬ家族の名前を星空に探していた。




