2.3 窓辺のコントラスト
monogatary.com 2026年2月3日のお題『今日はいい天気』について投稿したものです。
タクヤ、三十三歳。
大阪住みが十年を超えるのに、いまだに大阪弁を喋れない。ひとり暮らしだが、この静けさも、近いうちに解消されるかもしれない。
朝から、空は重たい色をしていた。
窓の外を見ながら、カップの中のコーヒーを揺らす。
こんな雨の日は、ふいに昔のことに足を取られそうになる。
自分でも忘れたいと思っている、若さゆえの黒歴史。
雨の中で愛を叫んだ、あの青すぎる高校時代のこと……。
今思い返せば、雨の冷たさより恥ずかしさで体温が上がる。
だが、今日の俺の胸の奥には、雲ひとつない爽やかな風が吹いている。
理由ははっきりしている。
昨夜、ずっと曖昧にしてきた自分の「余白」に、ひとつ確かな区切りをつけたからだ。
劇的な何かが起こったわけじゃない。
ただ、長く肩に乗っていた見えない重さが、ふっと軽くなった。
――そんな感覚だ。
彼女は、相変わらずだった。
こちらの都合を無視した明るさ。
空気を読まないのではなく、読めていても自分の納得を優先する強かさ。
問題を抱えては周囲に振りまき、最後はなぜか、肩をすくめて笑いで収束させてしまう。
そんな、不思議な性質だ。
正直、これから先も面倒だと思うことはあるだろう。
生活のリズムが噛み合わない日も来る。
些細なことで言い合いになり、沈黙が気まずく感じる夜だって、きっとあるはずだ。
それでも今は、その手を離す理由がどうしても見当たらなかった。
この先に何が待っているかは分からない。
だが、少なくとも「引き返す」という選択肢を、俺はもう必要としていない。
窓の外を見れば、雲は相変わらず低い位置に居座り、街を濡らし続けている。
けれど、さっきよりも部屋が、そして視界が、ぐっと明るくなった気がした。
ただの、気のせいかもしれない。
けれど、それで構わない。
やっと見つけたのだ。
どんな過去を思い出しても、足を取られずに前を向いていられる、自分だけの場所を。




