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『お題のmonogatary』―どこに向かうか誰もわからないー ストーリーは『今後のお題』しだい  作者: もとき未明


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2.1 成り行き

monogatary.com 2026年2月1日のお題『一通のFAX』について投稿したものです。



 タクヤ、三十三歳。

 大阪住みが十年を超えるのに、いまだに大阪弁を喋れない。ひとり暮らしだが、独身主義者というわけではない。


 日曜の午後。

 自室で本を読んでいるときだった。


 滅多に……というか、ここ数年聞いたことのない機械音が部屋に響いた。


 ――FAX?


 俺の部屋には、実家から譲り受けたFAX付きの古い電話機がある。


 じいちゃんが、「社会人なんじゃけん、電話番号くらい持っちょかな」と権利を譲ってくれた。

 ほとんど鳴ることもなく、飾りとしてもどうかと思える機械が、唐突に紙を吐き出した。




 俺は、日曜パパをしているはずのハルトを呼び出した。


「悪ぃな。息子君には、あとでお土産持たせるから」


「まったくだ。これから公園に行こう、言うてたんやぞ」

 不機嫌そうに現れたハルトだったが、その顔は育児からの解放感で少し緩んでいる。


「実はな……これだ」

 届いたばかりのFAXを差し出した。

 A4の紙の真ん中に、無機質な活字で一行。



 『オレのミサキから手を引け!』



「なんじゃ、こりゃ!」


「さっき、俺の家に届いた」


「お前んち、まだFAXあったんか」


「あるさ、固定の電話番号も教えているだろ」


「ああ、昔に聞いた気もするけど、かけたことねぇよな」


「うん。ほとんど鳴らん。会社にも届け出てねぇしな」


「心当たりは?」


「ハルトが犯人じゃなくて、しかもハルトが他の奴に番号を漏らしてないのなら……」


「犯人、言うな!」


「悪ぃ。ハルトじゃないとわかって安心したよ。じゃ、息子君の機嫌取りに使ってくれ」


 あらかじめ用意していた人気のチーズケーキを渡す。


「お、ウチの坊主の大好物やんけ」


 ハルトはケーキの箱を軽く掲げて、機嫌を直した様子で去っていった



 俺はスマホを手に取り、一通のメッセージを送ってから商店街へと足を向けた。




 待ち合わせの喫茶店にやってきたのは、あからさまに挙動不審なミサキだった。


「やぁ、タクヤ。……な、何の用事かなぁ、なんて」


 俺はテーブルに、件のFAXを置いた。


「これ、ミサキからだよな」


「ギクッ!」


 俺は、笑いをこらえて告げる。

「心臓の音を声に出すやつ、初めて見たよ」


「な、なんのことやわからしまへん、ですよ」


 俺は、たまらず噴き出した。

「なんだ? その変な言葉は」


「何も変じゃ、あらへんですわよ」

 明らかに、焦っておかしな言葉遣いになっている。


 汗びっしょりで言い訳する彼女を見て、俺は直球を投げた。


「もういいから……。これ、和歌山での結婚の話と関係あるのか?」


 ミサキの目が、こぼれんばかりに開かれた。


「なんで! タクヤが知ってるん?」


「若杉から、普通に聞いたぞ」


「ちっ……、あのチャラ男か。アキが、ばらしたな」


 おいおい、普通に聞こえてるよ。


「それで? 別れた方がいいのか?」


「……」

 ミサキは、がっくりと肩を落とし、いつになく顔を伏せたまま沈黙した。



 彼女が一人で何かに追い詰められていることは、その丸まった背中が物語っていた。


 俺は意を決して、言葉を選んだ。


「まあ、六月までに結婚するのは無理だとしても……それまでにご実家へ挨拶に行ってもいいかな、とは思っている」


 頭が上に飛ぶんじゃないかという勢いで、ミサキが顔を上げた。

 目が、潤んでいるのか、輝いているのか、とにかく光っている。


「ほんまっ!」


「ああ、このままズルズルってわけにもいかないしな。もう俺も、三十三だし」


「じゃあ、ウチも大分のご両親に挨拶せなっ! いつ行く? 連休まで待たなあかん?」


 さっきまでの悲劇のヒロインはどこへ行ったのか。

 ミサキはいつもの調子でスケジュールを詰め始めた。


「慌てるな。弾丸フェリーを使えば土日でも往復できるから」


 うって変わって明るくなったミサキと挨拶周りの相談で楽しい時間を過ごした。



 夜。

 自室でFAXを眺めて、俺はふと思った。



 ――「手を引け」と言われて、逆に強く握り返してしまったな。


 成り行きにしては、あまりに重い決断だった。


 それでも――この成り行きなら、悪くない。

 不思議と、心地よく眠りにつけそうな気がした。



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