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『お題のmonogatary』―どこに向かうか誰もわからないー ストーリーは『今後のお題』しだい  作者: もとき未明


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1.30 深夜のネタ降臨

monogatary.com 2026年1月30日のお題『受験生なのに〇〇に夢中』について投稿したものです。



 ミサキに呼び出されたのは、商店街にあるいつもの喫茶店だった。

 最近ここばっかりだな、と思うが、文句を言う前に察する。


 ――あ、また「相談案件」やな。


 テーブルには、ミサキと、見知らぬ男の子が一人。

 制服姿で、足元のリュックがパンパンに膨らんでいる。


「紹介するな。受験生や」

 ミサキが相変わらず雑に言った。


「いや、せめて名前くらい言ってやれよ」


「え、いいです」

 少年は妙にハキハキと答えた。

「どうせ今日だけの関係なんで」


 ……ドライなやつだな。


「で、この子な」

 ミサキは砂糖を入れながら続けた。

「受験生やのに、ラジオ投稿に人生賭けとるねん」


「賭けてはないです!」

 即座に訂正が入る。

「ちょっと本気なだけで」


「それを賭けてる言うねん」


 俺はコーヒーを一口飲み、彼を観察した。


「……ラジオ投稿って、ハガキ職人か?」

「今はメールです!」

 そこだけ譲れないらしい。


「週、何通くらい?」

「多いときで……五十通くらい」


 ……多いな。


「模試の前日でもか?」

「前日こそです。脳が研ぎ澄まされるんで」


 ああ、これはもう、完全に「あっち側」の人間だ。


「それで、何が一番困ってるんや?」

 俺が聞くと、彼は少しだけ視線を泳がせた。


「親に、ラジオネームがバレそうで」


 ――そこか!


「いや、違います」

 慌てて首を振る。

「勉強しなきゃって思えば思うほど、ネタが浮かぶんです」


「それ、脳の逃避行動やな」

 ミサキが即断する。


「やめようとしたら、逆に面白いこと起きる。世界が俺にネタ振りをしてくるんです!」


 ……知らんがな。


「でも……」

 少し声を落として続ける。

「ラジオで自分のネタが読まれた瞬間だけは、自分がちゃんと存在してる感じがして、勉強机に縛り付けられてるだけの駒じゃないって、思えるんです」


 ……急に重いカウンターを食らった気がした。


 ミサキが俺を見る。

 “はい、どうぞ”的な顔だ。


 正論なら簡単だ。

 受験生なんだから、やめろ。

 今は我慢しろ。

 合格してから心ゆくまでやれ。


 でも、そんな言葉を吐いた瞬間に、この子はきっと深夜の部屋で、もっと多くのメールを打つだろう。



 俺は少し視線を外して言った。


「投稿する時間を、ガチガチに決めたらどうや」


「時間、ですか?」


「一日二十分だけ。その代わり、それ以外の時間にネタ浮かんでも、メモだけして絶対に放置。投稿は業務としてこなせ」


 少年は虚を突かれた顔をした。


「それって……」

「やめろとは言ってへん。むしろ、その二十分で最高の一通を仕上げろ」


 ミサキがニヤッとした。


「タクヤ、珍しく甘いな。逃げ道残してやって」


「甘くない。効率の話や」


 俺は、少年のまっすぐな目を見て付け加えた。

「正直な話、ラジオ投稿があっても、なくても、受験の結果は出る。でもな、全部捨てて合格したとしても、お前が後で思い出すのは勉強した時間より、バカな投稿を考えてた夜の方やと思うぞ」


 少年は、今日初めて、年相応の幼い笑い方をした。


「そのセリフ……、投稿したら読まれそうですね」


「やめとけ」



 会計を終えて店を出るとき、少年は小さく頭を下げた。


「答え、出さなくていいんですか?」


「出さん。自分で出せ。……ただし、ラジオネームは変えとけよ」


「バレないやつにします!」


 彼の背中は軽そうだった。




 少年を見送ったあと、ミサキが横で言う。


「なあ、あれでよかったん?」


「知らん」

「無責任やな」


「正解押し付けるよりマシやろ。あの子には、ああいう『正解じゃない時間』が必要なんや」


 ミサキは笑った。


「受験終わったら、あの子、たぶんずっと投稿し続けるで」


「……やろな」


 それでいい気がした。


 人は、正解だけじゃ息が詰まる。

 深夜、ラジオから流れる見知らぬ誰かの声や、ふと送ってしまった自分のくだらない一言。


 そんな「余白」に救われている夜が、誰にでもある。



 俺はそんなことを考えながら、少し冷めたコーヒーを飲み干した。



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