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『お題のmonogatary』―どこに向かうか誰もわからないー ストーリーは『今後のお題』しだい  作者: もとき未明


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1.26 頼れる人

monogatary.com 2026年1月26日のお題『詐欺恋』について投稿したものです。



 その人は、あまりにも「話が通じる」相手だった。


 佐藤は、その感想が自然に浮かんだことに、少しだけ驚いた。


 趣味、仕事観、金銭感覚。どれも極端に一致しているわけではないが、ズレ方が許容範囲内に収まっている。

 会話のテンポも悪くない。絵文字の量も適切。



 ――悪くない。


 それが、効率と正確性を重んじる佐藤なりの、最大級の好意だった。



 一度だけ会った。

 写真との乖離もなく、会話も途切れなかった。

 二時間ほど話して解散しただけだが、「次もあるな」と佐藤は自然に思った。


 ところが、その「次」はなかなか来なかった。


〈ごめん、急に北海道の実家に戻ることになって〉

〈ちょっと立て込んでて、正直いっぱいいっぱいで。落ち着いたら連絡するね〉



 連絡は来る。

 途切れることはない。


 ただ、具体的な会う話になると、必ず先延ばしになる。


 そしてある日、少し長いメッセージが届いた。



〈実は、今ちょっとお金のことで困ってて〉



 佐藤はスマホを置き、短く息を吐いた。

 警戒心が即座に立ち上がる。

 だが同時に、職業病のような手際で情報を整理している自分がいた。


 一度は対面している。

 提示された金額は現実的で、用途も具体的。

 返済の目安も論理的に提示されている。



 ――典型的な詐欺の要件とは、やや乖離がある。



 そう結論づけたのは、冷静さゆえか、それとも微かな希望的観測か。

 佐藤自身にも判別がつかなかった。





 その週末。

 タクヤ先輩と若杉と三人で飲んだ。


「それはなぁ……」とタクヤがジョッキを置く。

「詐欺やで」


「間違いなく」と若杉も即答した。


「待て。論点が雑だ」

 佐藤は箸を置いた。

「詐欺と断定するには、構成要件が揃っていない」


「揃ってる揃ってる。むしろ教科書載るレベルっす」と若杉が茶化す。


「感情論だ。私は事実関係の話をしている」

 佐藤は、彼女とのやり取りを説明した。

 一つひとつ、反証可能性を示すように。


 タクヤは途中から何も言わず、ただ佐藤の表情を見ていた。


「……でな」佐藤は締めくくった。

「これは、恋愛感情を利用した詐欺というより、困っている知人からの相談に近いと推測される」


「佐藤さ」とタクヤが、いつになく穏やかに言う。

「それ、詐欺かどうかの話やなくて、お前自身が『しんどい』かどうかの話ちゃうか?」


 佐藤は言葉に詰まった。


 しんどい、という尺度は、彼の中で曖昧だった。

 合理的かどうか。

 期待値があるか。

 損失が許容範囲か。


 そのどれにも、今のところ明確な「×」はついていないはずだった。



 結局、佐藤はお金を出さなかった。

 出せなかった、というより、支出を正当化する理由を見つけきれなかった。


 それから数日、彼女からの連絡は少しずつ減った。

 返信の間隔が延び、内容が薄くなり、やがてスタンプだけになった。


 佐藤は、それを「フェードアウト」と認識した。

 詐欺ではなかった。

 だが、恋でもなかった。


 彼女にとって自分は、「頼れそうな人」であって、「選ぶべき人」ではなかったのだろう。


 金銭的な損失はない。

 経理としては満点の回避だ。


 それでも佐藤は、深夜の自室でふと思う。

 もしあのとき、彼女が最初から何も求めてこなかったら、あるいは自分が何も考えずに手を差し伸べていたら……。


 詐欺ではなかった。

 だからこそ、逃げ場もなかった。


 正解を踏み外したわけではない。

 ただ、正解の「外側」にある何かに、手を伸ばす勇気がなかっただけだ。


 佐藤はスマホを伏せ、明日の仕事の段取りを頭の中で組み直した。


 いつも通りの夜だった。



 少しだけ――。


 胸の奥に、計算式では埋められない空白を残したまま。



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