1.24 条件は揃っている
monogatary.com 2026年1月24日のお題『エッセイのようなフィクションのような』について投稿したものです。
佐藤、三十一歳。
身長一八八センチ、都内私大卒。年収は同年代の平均を三割以上上回る。
かつて「三高」と呼ばれたスペックを全て揃えている自覚はあるし、人生という名の経営において、私は常に最短ルートで最適解を導き出してきた。
だから、三十歳を迎えたとき、婚活を始めることに特別な決意は必要なかった。
年齢的にも、条件的にも、今が適齢期だ。
そう判断しただけだ。
現在、マッチングアプリは三つ登録している。
効率を考えれば、母数は多い方がいい。
プロフィール写真はプロに頼み、文章はノイズをそぎ落とした。
年収、職種、休日。
趣味は映画鑑賞と旅行。
噓はないし、盛ってもいない。
減点される要素は、ないはずだった。
週末、なじみのカフェで画面をスクロールする。
プロフィールへのアクセス数は申し分ない。
開始早々、頻繁にメッセージをくれる女性もいる。
挨拶から始まり、仕事、休日の話。
私は失礼のないよう、適切な速度と正確な文量でレスポンスを返す。
だが、あるときを境に返信が途切れる。
既読がつかなくなり、やがて表示自体が消える。
価値観の不一致、他個体への優先順位の変更。
理由はいくらでも考えられる。
合理的に処理できる範囲の出来事だ。
昼休み、社内の食堂でトレイを片付けていると、タクヤ先輩の声が聞こえた。
内容は、正直どうでもいい話だった。
商店街のイベントで迷ったこと。
射的で外したこと。
連れの女性が、やたら楽しそうにしていたこと。
業務的な価値は、ゼロだ。
報告でも共有でもない。
ただの事実の羅列。
それなのに、周囲の空気は柔らかかった。
誰も結論を求めず、その『非生産的な時間』を共有している。
理解できない、とは思わなかった。
ただ、再現性がない関係性だとは思った。
ああいう関係は、条件では作れない。
数値化も最適化もできない。
だから参考にする意味はない――はずなのに。
ふと、スマホの通知が震えた。
アプリからのメッセージ。
開く前から、内容は予測できる。
『条件は申し分ないと思いますが、今回はご縁がなかったということで――』
定型文だ。
何度も読んだ文章。
条件は、否定されていない。
努力も、間違っていない。
それなのに、なぜか今回は画面を閉じるまでに、少し時間がかかった。
合理的に考えれば、これはエラーではない。
想定内の結果だ。
ただ――
原因が自分にある可能性を、
計算に入れたくないだけなのかもしれない。
そんな考えが浮かんだ瞬間、
自分でも驚くほど、胸の奥がざわついた。
条件は、揃っている。
それでも選ばれない理由を、
まだ、私はうまく説明できていない。




