1.23 俺だけイレギュラー(閑話休題)
monogatary.com 2026年1月23日のお題『内線1158』について投稿したものです。
タクヤ、三十三歳。
大阪住みが十年を超えるのに、いまだに大阪弁を喋れない。ひとり暮らしだが、独身主義者というわけでもない。
午前の業務中、デスクの内線電話が鳴った。
ナンバーディスプレイには『6165』。……確か、若杉の内線番号だったはずだ。
「もしもし」
『あ、タクヤ先輩っすか。お疲れ様っす』
「ああ、やっぱり若杉か。ビジかプラか、どっちだ?」
『ビジっすよ。もろ業務連絡っす』
「では、何用でしょうか、システム管理課の若杉さん」
『嫌だなぁ。その、心のシャッター下ろしたみたいな敬語やめてくださいよぉ』
「いや、一応業務中だからな」
『そういや先輩、受話器取ったときもビジネス全開でしたね。俺からの内線ってわかってなかったんすか?』
「いちいち他人の内線番号なんて覚えてない。わかるのは上司くらいだ」
『ひどいなぁ。俺はタクヤ先輩の番号、バッチリ覚えてますよ』
「さすが、システム管理課様だな」
『違うんっすよ。別の意味でタクヤ先輩の番号は、うちの課でチョー有名なんすから』
「……なんだそりゃ」
『知らなかったんすか? 先輩の番号だけ、この世界のルールから外れているんすよ』
あぁ、それは聞いたことがある……。
うちの会社の内線番号は四桁をプッシュする仕組みだが、実際に各人に割り振られているのは三桁の識別番号だ。
間違い電話を防止するために、四桁目には『チェックデジット』という計算用の数字が付与されているのだ。
具体的には、二桁目の数字を三倍して、一桁目と三桁目の数字に足したものが四桁目になる。
『内線1115』の次の人は『1116』ではなくて、『1126』になるわけだ。
もちろん、これは人間がいちいち計算するわけではないが、システムはこのチェックに合わない数字を「エラー」として弾く。
だが、俺に割り振られた『1158』だけは、どう計算しても辻褄が合わない。
本来なら『1159』でなければならないはずなのだ。
システム導入時、請け負った業者まで来て調査したらしいが、なぜか俺の端末だけは『1159』を拒絶し、『1158』だけを通す。
原因不明のまま「……実害はないから」と放置された、社内唯一の未解決バグ。それが俺の番号だった。
『もしもし? タクヤ先輩、聞いてます?』
「……ああ。で、その有名な番号に何の用だ」
『あ、内線番号の話してたら、本来の用件忘れちゃいました! また思い出したら電話しまーす!』
「おい、若杉――」
ツーツー、という無機質な音が受話器から漏れる。
……あいつは、嵐のようなノイズだけを撒き散らして去っていくのが趣味なのか。
俺はため息をつき、受話器を投げつけたい衝動を抑え、いつものように丁寧な手つきで、元の位置へ戻した。




