1.19 雨に謁(まみ)える
monogatary.com 2026年1月19日のお題『雨の日の学校』について投稿したものです。
ハルト、十七歳。高校二年生。
勉強はほどほど。スポーツはそれなり。
特別な野心はないが、そこそこ楽しい学生生活を送っている。
――だが、今日だけは声を大にして言いたい。
「雨は好かん!」
もちろん授業中なので声には出さないが、心の中で絶叫した。
朝から土砂降りで、靴下までぐっしょりと濡れて気持ちが悪い。
昼休みはグラウンドが使えず、体育も自習。
湿った空気と泥の匂いが校舎に充満し、『校舎という鳥かご』に閉じ込められたような、言いようのない息苦しさを感じていた。
放課後になっても、雨は止む気配を見せない。
雨の日の学校は、世界が急に縮んだように静まり返る。
いつもなら聞こえる野球部の威勢のいい掛け声も、コーラス部の透き通ったハイトーンも、雨音という巨大なカーテンに遮られて届かない。
地面を叩きつける単調なリズムだけが、校内に響いていた。
教室の片隅で、俺と同じように雨宿りをしている連中の中に、親友のタクヤもいた。
タクヤは窓の外をぼんやりと眺め、誰に言うでもなく呟いた。
「雨の日は、静かじゃなぁ……」
「そうやな。湿気臭くてかなわん」
俺が投げやりに返すと、タクヤは俺の方を意味ありげに見つめて、少しだけ口角を上げた。
「……でも、こん後はどうせまた騒がしゅうなるっちゃわ」
「あ? 何のことじゃ? これ以上降るんか?」
「…………」
タクヤは視線を逸らし、何かを言いかけて止めた。
その小さな囁きは、窓を打つ雨音に溶けて俺の耳には届かなかった。
周りの連中も気にしていない。
俺も「いつものタクヤの煙に巻く独り言か」と深く追及するのをやめた。
雨の日は、考えることすら億劫になる。
結局、学校では何も起きないまま下校時間を迎えた。
雨は小降りになったが、空は重たい鉛色のままだ。
『騒がしくなる何か』が起きそうな気配がする。
――夜。
布団に入って目を閉じた時、ふと放課後のタクヤの顔が浮かんだ。
「騒がしゅうなる」……。
あいつがそう言う時は、決まって何か厄介なことが起きる。
校内でのトラブルか、あるいはもっと個人的な……。
ぼんやりとした靄の向こうに、タクヤの言葉の本質が見えるような気もする。
「……ま、いっか。今日はもう終わりじゃ」
雨以外は、平穏無事な一日だった。
何も起きないに越したことはない。
遠くで鳴り続ける雨音と、靄がかった情景のおかげで、すぐに深い眠りに落ちたのだった。




