表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『お題のmonogatary』―どこに向かうか誰もわからないー ストーリーは『今後のお題』しだい  作者: もとき未明


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/81

1.16 類は友を呼ぶ、のその先

monogatary.com 2026年1月16日のお題『自分にキャッチコピーをつけるなら』について投稿したものです。


 タクヤ三十三歳。大阪住みが十年を超えるのに、いまだに大阪弁をしゃべれない。ひとり暮らしだが、独身主義者というわけではない。


 その日の夜、会社帰りに寄ったスーパーで、俺はミサキを見つけた。


 レジ前で、ミサキは見知らぬ老夫婦と揉めていた。

 いや、正確には揉めているのはミサキだけで、二人は完全に巻き込まれている側に見えた。


「それ、会計まだ通ってへんで。そのお寿司。値引きシール貼ってあるけど、元の値段、違うやろ。貼り替えたん、ウチ見てたんやから」


 店員は困惑して固まり、レジの後ろには行列。

 俺は一瞬、踵を返そうとした。


 関わると、ろくなことにならない。

 経験上、それは間違いない。


 だが、次の瞬間、ミサキが俺を見つけて、ぱっと顔を輝かせた。


「タクヤ!」



 呼ぶな。


 心の中でそう叫んだが、時すでに遅い。



「この人な、さっき値札貼り替えようとしてたんよ。絶対、見間違いやない」


 老夫婦は慌てて否定し、店員はさらに混乱する。


 ……ああ、これだ。

 この人は、いつもこうだ。


 正義感が強くて、地獄耳で、

 空気を読むという概念が、決定的に欠落している。

 しかも、一度首を突っ込んだら途中で放り出せない。


「ミサキ、ちょっと」

 俺は彼女の腕を引き、レジ横にずらした。


「証拠は?」

「ない。でも、見たもん。あんなことしたら、この店が困るやろ」


 真っ直ぐすぎる目。

 若杉から聞いた「和歌山の実家事情」が、ふいに脳裏をかすめる。

 ――親が決めた結婚から逃げるように大阪へ出てきた彼女。

 もしかしたら、故郷でもこうやって「余計な正義」を貫いて、居場所を失ってきたのかもしれない。

 自分をすり減らしてでも、彼女は「自分」を曲げられなかったのだ。


 結局、防犯カメラを確認する流れになり、老夫婦は無言で店を出ていった。


 ……結果は「黒」。

 ミサキの言ったとおりだったが、やり方は危うかった。



 店を出た帰り道、ミサキが小さく息を吐いた。


「なぁ、ウチ、余計やった?」

「……正しかったよ」

「でも、面倒やったやろ? また事件にしてもうて」


 否定はできなかった。

 何も起きなければ、ただの買い物だったはずの夜。

 平穏だけを求めるなら、彼女のような存在は、人生のプログラムに紛れ込んだ『バグ』でしかない。


「なぁタクヤ」

「ん?」

「ウチ、嫌われるの、慣れてんねん、でもな、正しいこと言うて嫌われるんやったら、それでええねん」


 街灯の下で、笑う彼女の声は、少しだけ乾いていた。

 孤独な戦いの鋭利な部分が、今の「お節介」となって表れているのだとしたら。

 それを「迷惑だ」と切り捨てるには、あまりにアンフェアな気がした。


 面倒で、厄介で、騒がしくて。

 でも、彼女がいなければ、今日という一日は記憶の隅にも残らず、消えていただろう。


 もし、今の自分にキャッチコピーをつけるなら、なんだろう。



 ――面倒な人ほど、物語を連れてくる。


 それは、ミサキのことでもあるし、

 そんな彼女から目を逸らせない自分自身への皮肉でもある。


 静かな人生は、たしかに楽だ。

 だが、何も起きない夜ばかりでは、人は自分の輪郭を忘れてしまう。


 俺は今日も、平穏を望みながら、面倒な人の隣を歩いている。



 その一歩先に、また何か起きるとわかっているとしても。


 今の俺は、それを「アンラッキー」とは呼ばない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ