1.14 プレイボーイの極意
monogatary.com 2026年1月14日のお題『キャッチアンドリリース』について投稿したものです。
タクヤ三十三歳。大阪住みが十年を超えるのに、いまだに大阪弁をしゃべれない。ひとり暮らしだが、独身主義者というわけではない。
午前の休憩中、喫煙室に若杉がいた。
俺の顔を見るなり、コミュ力全開の笑顔で近づいてきた。
「おはようっす! タクヤ先輩」
「ああ、おはよう」
「聞きましたよぉ。こないだの飲み会以降、ミサキさんと上手いことやってるみたいじゃないっすか。映画行ったり、スリ犯を逮捕したり、ドラマチックっすねぇ」
……情報の回りが早すぎる。そのニヤつき顔をやめろ。
「付き合ってるわけじゃないよ。……いろいろあって、放っておけないだけだ」
「またまたぁ。ちゃんとネタは上がってるっすよぉ。三連休、ずっとデート重ねてたってハ・ナ・シ」
こいつ。完全にカマかけてやがる。
俺は話をそらす。
「そんなことより、お前こそあの日、アキさんをお持ち帰りしたんだろ」
「持ち帰りなんて人聞きの悪い。朝まで一緒にいただけっす」
顔が、一ミリも否定していない。
「それを世間じゃ『お持ち帰り』って言うんだよ。お前、いろんな子をとっかえひっかえ遊んでるって、佐藤が嘆いていたぞ」
「ええーっ。濡れ衣っすよ。俺、ちゃんと全員と『お付き合い』してますもん」
「全員と?」
「そうっす。釣った魚に餌をやらないのは失礼じゃないっすか。基本はキャッチアンドリリース。彼女たちを縛らず自由にして、タイミングが合うときに遊ぶ。これが一番っすよ」
……なんというか、次元が違いすぎる。
「お互いに、縛るのも縛られるのも嫌なんすよ。ちなみに今は、既婚者を含めて十六人くらいと回してますね」
現代のドン・ファンか、あるいはただのトラブルの種か。
「既婚者って……お前、それはさすがに危ないだろ」
「いやいや、家庭を壊すような野暮はしないっす。ダンナの愚痴を聞いたり、子どもの遊び相手なったり、独り身にはない『生活の匂い』って、結構新鮮なんすよ」
ダメだ。一ミリも参考にならねえし、共感もできねえ。
「よく金が続くな。十六人もいたら破産するだろ」
「いやいや、デートは基本割り勘っすし、それに、タクヤ先輩みたいに毎日濃密に会ったりしないっすから」
こいつ、どこまで俺とミサキの距離感を把握していやがるんだ。
「……俺にキラーパス、すんじゃねえ」
「あはは……。ま、タクヤ先輩もミサキさん飲み込まれないよう気を付けてくださいよ。あの子、リリースしようとしても針を外すの難しそうっすから」
若杉は鮮やかに手を振り、嵐のように去っていった。
……ああは、なるまい。
あいつのは、コミュ力というより、一種の生存本能のようなものだ。
しっかり、ミサキの本質にも、薄々気付いていやがる。
もっとも。
俺は俺で、まだ一人もキャッチできていないというのに。
最後の一服を吐き出し、重い腰を上げて職場へと戻った。




