各駅停車と、知らない町の名前
学校の最寄駅から、あえて反対方向の電車に乗る。
三つ目の駅を過ぎる頃、ようやく私たちは隣り合って座る。吊り革が揺れる音、車内広告のノイズ。けれど、私たちの間には、教科書一冊分も空かない密やかな距離があった。
「……ここまで来れば、誰にも会わないよね」
結衣が小さく笑って、私のブレザーの袖を指先でちょんと引いた。学校での彼女は、いつも完璧な姿勢で歩き、凛とした声で笑う。けれど今の彼女は、少しだけ肩の力が抜けて、猫のように私の肩に寄りかかってくる。
たどり着いたのは、古い喫茶店と商店街が並ぶ、名前も知らない町。
商店街の端にある、古ぼけたフォトブース。
「ねえ、撮ろうよ。……あ、でも、誰かに見られたらマズいかな」
「いいよ。私が持っておくから」
狭いカーテンの向こう側で、フラッシュが焚かれる瞬間に結衣が私の頬にキスをした。現像された四コマのシールの中で、私たちは確かに恋人同士の顔をしていた。その一枚を、結衣は生徒証の裏側に、大切に、隠すように忍ばせた。
週末。どちらかの親が不在の日。
それは私たちにとって、この世界に二人しかいないことを証明するための儀式だった。
結衣の部屋で、教科書を広げているふりをしながら、一つのイヤホンを分け合って音楽を聴く。
「この曲、凛っぽいね」
「どこが?」
「なんか、静かなのに、ずっと胸の奥で鳴ってる感じ」
結衣が私の膝に頭を乗せて、柔らかな髪が私の指に絡まる。彼女のシャンプーの匂い、開け放した窓から入る夏の予感を含んだ風。
「ねえ、凛。もし私たちが、同じクラスじゃなかったら……もっと堂々と手を繋げたのかな」
そう言って私の指を一本ずつ絡めてくる彼女に、私は何も答えられなかった。ただ、重なり合った手の温かさだけが、今この瞬間が現実であることを教えてくれる。
「……今のままでいいよ。結衣が、私の前でだけ、その顔を見せてくれるなら」
私たちは、毎週少しずつ、愛という名前の宝石を磨き上げていった。それがいつか、自分たちの胸を痛めるほどの光を放つことになるとも知らずに。
この作品はAI40%、筆者60%で書きました。
原案100%筆者。
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