宝石の埋葬
数年後。
私は、左手の薬指に冷たいプラチナの輪をはめ、日常という名の舞台を演じている。
隣で眠る夫は、私の過去など何一つ知らない。私が時折、窓の外を見つめて動かなくなる理由が、十数年前の放課後の西日にあることなど、夢にも思わないだろう。
結衣の消息は、もう知らない。
SNSのフォローも外し、連絡先も消した。結婚式に呼ばなかったあの夜、私たちは互いの存在を社会的に「殺した」のだ。
けれど。
ふとした瞬間に、それは蘇る。
雨上がりの駅の匂い。
デパートの化粧品売り場で通り過ぎた、誰かの香水の香り。
あるいは、プリントの束を整理する時の、紙の擦れる音。
そのたびに、私の胸の奥に埋葬された「宝石」が、鈍い光を放つ。
あの日、二人で分け合ったサイダーの泡。
あの日、二人で歩いた名前も知らない町の夕暮れ。
あの日、二人で交わした、叶うはずのなかった「ずっと」という約束。
それは、今の私の「幸せな家庭」を脅かす不純物かもしれない。
けれど、その宝石があるからこそ、私はこの味気ない現実を歩き続けることができる。
私はそっと、誰にも気づかれないように胸に手を当てる。
そこには、世界で一番美しく、そして世界で一番悲しい、私と結衣だけの墓標が立っている。
「……元気でね、結衣」
声に出さない独白は、秋の風に溶けて消えた。
私たちの恋は、完結したのではない。
ただ、人生という長い物語の地下深くに、永遠に変わることのない「宝石」として、静かに埋葬されたのだ。
この作品はAI40%、筆者60%で書きました。
原案100%筆者。
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