最後の一夜、降りしきる雨の底で
その夜も、始まりと同じ雨が降っていた。
東京の片隅、安っぽいビジネスホテルのシングルルーム。
部屋の隅に置かれた結衣の鞄からは、これから彼女が「新しい家族」と共にするはずの、分厚い結婚披露宴の打ち合わせ資料が覗いている。
「ねえ、凛。……結婚式、呼ばないからね」
結衣は背中を向けたまま、震える声で言った。
「……わかってる。私も、呼ばない。呼べるわけないよ」
私たちは、お互いの人生の晴れ舞台に立ち会う権利を、自らの手で放棄した。それが、十年以上も互いを貪り合ってきた私たちが、最後に守れる唯一の「誠実さ」だったから。
どちらからともなく服を脱ぎ捨て、私たちは縋り付くように抱き合った。
これが最後。もう二度と、この肌の柔らかさを確かめることはできない。
結衣の鎖骨に、首筋に、何度も何度も歯を立て、消えない傷を残したいと願う。明日になれば、彼女は別の男の名字を名乗り、私の知らない家庭という迷宮に消えていく。
「痛いよ、凛……」
彼女が泣きながら笑い、私の背中に爪を立てる。
言葉はいらなかった。ただ、汗と涙が混じり合い、どちらの嗚咽か分からなくなるまで、私たちは狂おしく愛を交わした。
外を走る車の走行音が、雨に濡れたアスファルトを弾く。その音が聞こえるたび、私たちは終わりが近づく恐怖に身を震わせた。
明け方、結衣が私の耳元で、消え入りそうな声で囁いた。
「……凛。私、あなたの名前を、死ぬまで忘れない。おばあちゃんになっても、心の中の特等席には、ずっとあなたがいるから」
それが、私たちの最後の一言だった。
この作品はAI40%、筆者60%で書きました。
原案100%筆者。
指摘や感想とか頂ければ励みになります。




